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第一部

048 公園デート

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「ねー、透子。今日は公園行く?」

 翌日の朝食を取っていると、私の顔を覗き込みつつ春くんは茶色の大きい目を輝かせて聞いてきた。

「え! 公園? 行く! 行きたい」

「透子は、そう言うと思ってた~。ちゃんとレジャーシートとか、お弁当箱とか、もう既に用意したよ」

 春くんはじゃーんと、大きな肩掛けバッグを見せてくれた。色合いも可愛いチェックの大きなバッグで、オシャレでセンスの良い春くんが好きそう。

「あの……理人さんと、雄吾さんは?」

 一緒に行かないのかな。新聞を読んでいる理人さんとコーヒーを飲みながらニュースを見ている雄吾さんの二人は、私の弾んだ声でこちらを見てくれた。

「……すみません。僕は、今日は大事な会議があって。なるべく早く帰ります」

「俺も、昼は出資している会社の会食があるんだ……あまり行きたくないが。合流出来るようなら、追い掛ける」

 すまなそうに答える理人さんと、言葉通りあまり気乗りはしない様子で溜め息をつきながら雄吾さんが答えた。

「今日も、俺が透子を独り占め出来る日? やったね! 透子、俺がついてるから、心配しなくて大丈夫だよ」

 ガッツポーズをする春くんに、理人さんは無表情で釘を刺した。

「春。お前。この前みたいに、油断するなよ」

「う、わかってるよ。この前の凛太は……確かに、俺が油断してた」

 リーダーからの叱責にしゅんと大きな茶色い耳を倒した春くんに、私は微笑んで言った。

「私が公園行きたいって言ったの、覚えていてくれたの嬉しい。春くん、どんな公園行くの?」

 春くんはすぐに機嫌を直して嬉しそうに耳をピンと立てると、これから行く公園について詳しく説明を始めた。


◇◆◇


「はー。楽しい」

「ね。すごく楽しかった」

 私と春くんはアスレチック設備が充実している、都内にある公園に遊びに来ていた。

 私が着ているのは、運動しやすいTシャツとジャージ素材のハーフパンツ。髪の毛も動きやすいように、ポニーテールにしている。もちろん。シャワーを浴びた後に着る帰りの着替えだって、万全の準備をして来ていた。

「透子。そろそろ、お弁当食べる?」

 お腹もすいて来ていた私は、にこにこと笑う春くんに頷いた。体を動かしたせいか、天気の良い公園の中で美味しいご飯が食べられそう。

「あ。ごめん。トイレに先に、行って来て良い?」

「うん。全然良いよ。俺もトイレ行ってから、お弁当の入ってるバッグをロッカーから持ってきておくね」

 そして、春くんとはトイレ前で手を振って別れた。

 手を洗っているとスマホの着信音が鳴って、私は番号を知っている理人さんか雄吾さんかなと思って、名前も見ずに出た。

「はい」

『こんにちは、透子さん』

 私は慌てて、辺りを見回した。だって、あんまりにも彼が電話を掛けて来たタイミングが良かったからだ。

「えっと……凛太さんですか?」

『ポニーテール、似合っていて可愛いですね。もちろん。髪を下ろしている透子さんも、可愛いんですけど』

 ドクンと心臓の音が聞こえた気がした。私が今している髪型を知っているということは、彼がどこからか見ているということだ。

「あの……もしかして、近くで見ています? なんで、私がこの公園に居るってわかったんですか?」

『ええ。僕の能力は、そういう能力なので』

 さらっとなんでもないように、凛太さんはそう言った。凛太さんの能力って、どんな物なんだろう? 雄吾さんと同じような能力ゆえに不死者と言われる人の一人なのだとは、前にも聞いたことがあるけど。

「あの……何か、私にご用ですか?」

『……そこは危険なので、事前に教えておこうかと』

「え?」

『そこに居る透子さんを、何人かが狙ってトイレ周辺を囲んでいます。春も今は、応戦しているようだ。匂い付けを終わらせた透子さんを襲う人間は、限られています。恨みを、持たれる心当たりは?』

「……恨み?」

 この前から住みだした異世界で、そんなに強い恨みを持たれる心当たりなんてないと答えようとしてから、ピンと閃いた。

「……小夜乃さん……?」

『なるほど、理人の妹ですか。あの子なら、熱狂的な信奉者も多いでしょうね』

 凛太さんは何かを考えるようにして黙ると、私に言った。

『良いですか。春の能力は、個人戦では桁違いに強いが透子さんを守りながらの対多数だと、圧倒的に不利です。僕がそこに行くまでは、まだ時間がかかる……他の夫達は、今何を?』

「二人ともお仕事で、今は……」

 確か大事な会議や、取引先との会食だと言っていた。

 そんな時ならば連絡をしても、折り返しがあるのは先になるかもしれない。

 ぐるぐると頭の中に、皆の顔がまわる。春くんは、誰かわからない人たちと応戦中って言ってた。もし、私のせいで春くんが怪我をしたらどうしよう!

『……他に、誰か心当たりはありますか? ……絶対的な透子さんの味方で、すぐに駆けつけてくれそうな人狼は』

 私はスマホを耳に当てそれを握りしめたままで、しばし考えた。唯一浮かんで来たのは、燃えるような赤髪の人。この前に会ったばかりの雄吾さんの、お友達。あの人なら、きっと。

「子竜さん?」

『……子竜か、戦力としたら、十分です。すぐに連絡は取れますか』

「会社に電話したら、もしかしたら」

『急いでください。これだけ離れていたら、僕の足止めもそう長くは持たない。早く』

 私は今にも強く震えそうになる指をどうにか押さえ付けながら、この前に雄吾さんと行ったホテルの名前を検索した。
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