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第一部

052 悪戯

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 その夜は春くんが貸してくれた、とても面白いミステリーを読んでいた。面白過ぎて読む手が止まらずに、丁度キリの良いところが見つからなかった私は、結局その日の内に読み切ってしまった。

 時計を見ると、もう深夜の二時。

 ああ……やっちゃったなあって、思った。また明日の朝ご飯は、春くん任せになるかな。

 高度なミステリーのオチに興奮し過ぎて、寝る前にキッチンにお茶でも飲みに行こうかなと思って扉から出た。

 シーンとして音のない深夜の空気の中、左隣から小さな物音が聞こえて来た。

 理人さんの部屋だ。もしかしたら、多忙な彼は今帰って来たところなのかもしれない。

 最近忙し過ぎて彼とは顔を合わせてないし、あまり話せてない。夜遅いけどちょっとだけでも話せるかもしれないと思った私は、彼の部屋の扉をコンコンとノックをした。

 しんとしたままで、応対はない。

 けど……絶対に、物音はしたはず? 思い切って扉を開けてみるとやっぱり灯りはついているし、部屋の奥にあるテレビも付いたままだった。

 テレビに映っているのは、外国のニュースだろうか。日本語ではない言語を早口のキャスターが、何か話しているのが聞こえた。

「あの……理人さん? 透子です」

 そっと扉を閉めて部屋の中に入ると、ベッドの上で濡れた髪のまま寝ている理人さんが居た。

 シャワーを浴びてそのまま横になり、眠ってしまったのか。

 上半身は裸で下着だけをつけたまま、あどけない顔で眠ってしまっていた。可愛い。このところ、激務だったみたいだし。疲れて、寝ちゃったのかな。

 私は彼が肩にかけていたタオル取り、出来るだけ濡れている髪を乾かすと、また追加で二枚ほどシャワールームから乾いた大きなタオルを持って来て水分を取った。

 斜めの体勢で床に放りっぱなしだった足を何とか動かして、ベッドの中心へと運ぶ。

 何とか、そのまま寝られる格好になった理人さんを見下ろして、私は頬にキスをした。何だかそれだけでは物足りなくて、唇にもそっとキスをする。

 それでは身体の上に毛布を掛けてしまおうと理人さんの足元をぱっと見ると、私の見間違いでなければ黒い下着が盛り上がっている。

 こくん、と喉が鳴ったのが自分でもわかった。

 この前彼とそういうことをした時でも、私はされるがままだった。だから、理人さん自身を見ることは出来ていない。

 もう、ただただ気持ちよくされて、絶頂へと導かれた。

 どうしても、いけない好奇心が首をもたげてくる。

 理人さんだって、私のあの部分をめちゃくちゃに舐めて、じっくりと見ているはずだし。私達、もう夫婦なんだから見ても、問題ないんじゃない?

 私は理人さんの彫刻みたいな綺麗な身体から続く、割れた腹筋に人差し指をそっと這わせた。筋肉質なその身体は硬くて弾力があって、触れていてとても気持ち良い。

 下着のゴムに、手をかける。そっと下にずらすと……大きくて何だか、びっくりするものが隠れていた。

 私はそっとそれにも、指を這わせる。気のせいでなければ、むくむくとより大きくなってる? 根元に瘤のようなものを探すけど、今はないみたいだった。もしかしたら、人狼は射精した時にしか出来ないのかもしれない。

 それをじっくりと見て、注意深く触っている私に、いきなり枕元から声がした。

「透子さん」

 私は慌てて彼の黒い下着を上げて、何もしていなかったような顔を作った。もう、手遅れだって……もちろんちゃんとわかってはいるけど。

「……理人さん……ごめんなさい。起こしました?」

「……すみません。興味津々で可愛い貴方を見ていたかったんですけど……このまま出てしまうと、色々と僕も不都合があるので」

「不都合、ですか?」

「ええ。一度出してしまうと、しばらくは透子さんの中に挿れられなくなるので」

 私は彼の言葉を聞いて、かあっと顔を熱くした。

 理人さんは上半身を起こして、両手を私に差し出した。私は彼の動きに誘われるがままに、抱き寄せられた。

「透子さん。したいです。良いですか?」

「……はい」

 耳元で理人さんに囁かれて、顔を熱くしながら私は一度頷いた。ぺろっと、熱い舌で頬を舐められた。まるで、今仕留めたばかりの獲物の味を確かめるように。

「僕の世話をして……何度もキスしてくれるのが嬉しくて、つい声をかけるタイミングを逸してしましました」

「ちょっと待ってください……いつから、起きていたんですか?」

 もしかしたら、ずっと起きていたんじゃないかとむっとして上目遣いになる私に、彼はもう一回キスをした。

「……内緒です」
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