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第一部

041 街デート

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 春くんは悩んでいた割には部屋に帰って即着替えを終わらせて来て、私たち二人は早速車で深青の里の街まで出て来た。

 街並みは私達の住んでいた世界と、寸分変わらない。東京の街並みに似ている。ただ、歩いている人たちの頭に大きな獣耳があることと、女の人の姿が珍しくとても少ないことを除けば。

「今日はね。車も、買いに行こう。理人も雄吾も、透子の好みで選んだ車で良いって二人とも、言ってたから」

 信号待ちをしている中で、春くんはそんなことを私に言い出した。車好きっぽい彼はよほど嬉しいのか、大きな茶色の目がキラキラと輝いている。

「え? ……私の好みの車?」

「うん。透子の乗りたい車で、選んで良いんだって。名義は税金とか色々あって雄吾にするけど、車種とか色とか。透子の好きにして良いって、言ってたよ」

 また発進して滑るようにして走り出すこの車も、多分この世界での高級車だと思う。メーカーの名前は、流石に私の居た世界とは違ってた。

 良くある四人乗りのセダンだけど座席は高級なレザーシートが付いているし、乗り心地も良い。でも確かに男の人が三人居ると、車だって複数ないと不便なのかもしれない。

 そうだ。自分で走っても遜色ないスピードを出せるけど、大きな荷物がある日や天候の悪い日だってあるだろうし、車は台数があるに越した事はない。

「うーん……私あまり詳しくないかも。春くんは、どんな車が良いの?」

「そうだなー……俺は大きめの4WDが良いって思うけど、詳しくないなら、四駆って言っても。透子はどんな車かも、多分わからないでしょ」

「うん。あまり興味がなかったから……見た目で、私が選ぶの?」

「そうだね。雄吾が株を持っている企業のショールームに連れて行くから、そこで好きな車を選んでくれたらそれで良いよ」

「えっ……すごい」

 私は思わず、それしか言えなかった。雄吾さんがお金を沢山持っていそうなのは、確かに知っていたことだけど……。

「あはは。けど、あくまで個人投資家だからね。そこまでの割合は、持ってはいないと思うけど……株主優待での割引くらいは、あるんじゃないかな」

「へえ……すごい」

「そういうのも、透子は興味ないでしょ」

「……わかった?」

「透子はそういうところ、本当にわかりやすいからね」

 春くんは、ふふっと肩を揺らして楽しそうに笑った。

 やがて、春くんのお気に入りの服屋や、その他たくさんの店舗の入ったデパートへと到着した。

 買って貰うだけの立場の私は一応遠慮したものの、春くんは自分が気に入ったものや私に似合いそうと見るや、値札も見ずにどんどん即決して店員さんに渡していたから驚いた。

 下着は流石に自分で店員さん(男の人だったけど、オネエ言葉だった)に対応して頂いたものの、春くんは自分が気に入ったものを店員さんと相談しながら試着室にどんどん送り込んでくるものだから、試着だけですごくエネルギーを消費してしまった。

 もちろん下着もサイズの合ったものは、即決でお買い上げしていた。買い物した大量の荷物はトランクには入り切らずに、後部座席まで紙袋の山だ。

「ねえ、春くん」

「ん? 何?」

 上機嫌の運転で車のショールームへと向かう春くんは、光が眩しいのかオシャレなサングラスをかけている。流れている音楽も思わず体でリズムを取ってしまうような洋楽を掛けていて、春くんらしいなあって私は思った。

「えっと……私の服とか……沢山買ってもらって嬉しいんだけど。これって、あの……どういうお金なのかな?」

 春くんは今他の二人とは違って働いてなくて、私の近くに居ることが仕事のようにしていた。もしかしたら無理をさせているのではないかと恐る恐る尋ねると、春くんは大きな口でにかっと笑った。

「あー……気にしなくて、良いよ。これ買ったお金は、俺の個人資産だから。理人も雄吾も、結構な金持ちだけど。俺だって透子を甘やかすくらいのお金は、持っているからね」

「……すごいなあ」

「……うん? 何。どうしたの?」

「私も……働けるなら働きたいなって思ったんだけど……この世界だと女の人が働くって、難しいんだよね?」

「うん、まあ、そうだね。この世界だと雌……っていうか、女性は大事にされるのが仕事って最初から言ってたでしょ? 透子は何も、気にしなくて良いよ」

「……私も、自分のものは自分で買ったりしたい……それに、三人の誕生日とか。記念日には、自分で働いたお金で、プレゼントを買ったりしたいな……」

 私が夫達からお金をお小遣いのように貰っても、それは彼らのお金だったものなのだ。バイトなんかで働くことには慣れているし、私は出来たらそうしたかった。

「……透子。あー、なんで俺今運転してるんだろ……」

「え?」

「そんなこと言われたら抱きしめたくなるからやめて。せめて俺の両手が塞がっていない時にして!」

 春くんはそんな大したことないことで、さも絶望したみたいな表情をするから、私は大袈裟だよって言って大きな声で笑った。
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