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41 風邪①

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 そして、洞窟の中で急流に流されてしまった私は、ものの見事に風邪をひいてしまった。

 体調が悪くなってしまえば、皆で楽しい夏休み合宿なんて、一緒に何も出来ないんだから楽しめるはずもない。

 その後は三日ほど、合宿所で大人しく寝ていたし、そこから動けるようになるまでに回復すると、生徒会顧問のエッセル先生に付き添われて、四人を残し一人だけ帰寮する事になった。

 あれだけ芯から身体が冷え切って気を失い、凍死寸前だったのだから、体調を崩してしまうのも無理はなかった。

 けど、エルネストが渋々だとは思うけど、私を助けてくれて……本当に良かった。面倒な女だし、あのまま居なくなったら良いわと、思うような人でなくて、本当に……良かった。

 寮に帰っても私は一人部屋だし、ずっと伏せっていて、病気だからということで、寮母さんが病人食を部屋にまで持って来てくれる。

 わりと至れり尽くせりだし、好きな本を読んでいて、特に不満はなかった。

 ただ、合宿所に四人を残して、こうして一人だけ帰ってきてしまって、なんだか寂しくなってしまうという想いはあった。

 彼らは生徒会としてのカリキュラムをこなして、もう既に学園へ帰って来ていると思うけど……私だって、せっかくだし、合宿最後まで居たかった気持ちはある。来年もあるけど、私は最高学年だから、行けないかもしれないし……。

 結局のところ、完全に回復するまで十日ほどベッドに居て、部屋の中には読む本もなくなり、すっかり暇になってしまった私は、何気なく窓を開けた。

 そして……とてもとても驚いた。

「イエルクくん……? そこで、何してるの?」

「あ。先輩……びっくりしました」

 信じられない場所で落ち着いた様子のイエルクは、私が窓を開けても動揺した気配は無い。

 それは、こっちの台詞だよ! なんて、すぐに言えなかった。あまりにも、驚き過ぎて。

 私は自分の目に映る彼が信じられなかった。何故かと言うと、私の部屋は寮の五階。普通ならばそんな高さで、急角度とも言えるくらい斜めになっている屋根に座ろうなんて、思ったりしない。

 そう……高所にある窓の外側、すぐそこに、イエルクが平然として、屋根の上に座っていたのだ。

「え。何……どうして、ここに居るの? ……怒られるよ?」

 こんな風に、屋根から女子寮に侵入した人……居るのかしら。ううん。屋根から侵入するなんて、本当に信じられない……怒られるどころでは済まなくない!?

 え。待って。

 けど、これだとイエルクは寮の部屋へ、侵入はしていない……? うん。身体は、窓の外に居るもんね。

 だから、私が住んでいる女子寮の番人三頭の犬《ケルベロス》も、彼の存在には気が付いていないのかしら。

「すみません。先輩……合宿の時にひいた風邪が、なかなか治らないと聞いていて、心配になってしまって……」

 素直に理由を話したイエルクの理由を聞いて、私は頭を抱えたくなってしまった。

 そうよね。

 イエルク……貴方があまり人慣れしていなくて、そういう人だって、それはわかっているけど、普通は心配しても、こんな風には屋根から訪ねたりなんてしないんだよ!

 それに、私の住んでいる女子寮は男子禁制。

 もし、女の子への悪戯目的で入ろうとした人が居れば、比喩でもなく、三つの頭を持つ番犬三頭の犬《ケルベロス》に、かみ殺されてしまう。

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