41 / 55
41 風邪①
しおりを挟む
そして、洞窟の中で急流に流されてしまった私は、ものの見事に風邪をひいてしまった。
体調が悪くなってしまえば、皆で楽しい夏休み合宿なんて、一緒に何も出来ないんだから楽しめるはずもない。
その後は三日ほど、合宿所で大人しく寝ていたし、そこから動けるようになるまでに回復すると、生徒会顧問のエッセル先生に付き添われて、四人を残し一人だけ帰寮する事になった。
あれだけ芯から身体が冷え切って気を失い、凍死寸前だったのだから、体調を崩してしまうのも無理はなかった。
けど、エルネストが渋々だとは思うけど、私を助けてくれて……本当に良かった。面倒な女だし、あのまま居なくなったら良いわと、思うような人でなくて、本当に……良かった。
寮に帰っても私は一人部屋だし、ずっと伏せっていて、病気だからということで、寮母さんが病人食を部屋にまで持って来てくれる。
わりと至れり尽くせりだし、好きな本を読んでいて、特に不満はなかった。
ただ、合宿所に四人を残して、こうして一人だけ帰ってきてしまって、なんだか寂しくなってしまうという想いはあった。
彼らは生徒会としてのカリキュラムをこなして、もう既に学園へ帰って来ていると思うけど……私だって、せっかくだし、合宿最後まで居たかった気持ちはある。来年もあるけど、私は最高学年だから、行けないかもしれないし……。
結局のところ、完全に回復するまで十日ほどベッドに居て、部屋の中には読む本もなくなり、すっかり暇になってしまった私は、何気なく窓を開けた。
そして……とてもとても驚いた。
「イエルクくん……? そこで、何してるの?」
「あ。先輩……びっくりしました」
信じられない場所で落ち着いた様子のイエルクは、私が窓を開けても動揺した気配は無い。
それは、こっちの台詞だよ! なんて、すぐに言えなかった。あまりにも、驚き過ぎて。
私は自分の目に映る彼が信じられなかった。何故かと言うと、私の部屋は寮の五階。普通ならばそんな高さで、急角度とも言えるくらい斜めになっている屋根に座ろうなんて、思ったりしない。
そう……高所にある窓の外側、すぐそこに、イエルクが平然として、屋根の上に座っていたのだ。
「え。何……どうして、ここに居るの? ……怒られるよ?」
こんな風に、屋根から女子寮に侵入した人……居るのかしら。ううん。屋根から侵入するなんて、本当に信じられない……怒られるどころでは済まなくない!?
え。待って。
けど、これだとイエルクは寮の部屋へ、侵入はしていない……? うん。身体は、窓の外に居るもんね。
だから、私が住んでいる女子寮の番人三頭の犬《ケルベロス》も、彼の存在には気が付いていないのかしら。
「すみません。先輩……合宿の時にひいた風邪が、なかなか治らないと聞いていて、心配になってしまって……」
素直に理由を話したイエルクの理由を聞いて、私は頭を抱えたくなってしまった。
そうよね。
イエルク……貴方があまり人慣れしていなくて、そういう人だって、それはわかっているけど、普通は心配しても、こんな風には屋根から訪ねたりなんてしないんだよ!
それに、私の住んでいる女子寮は男子禁制。
もし、女の子への悪戯目的で入ろうとした人が居れば、比喩でもなく、三つの頭を持つ番犬三頭の犬《ケルベロス》に、かみ殺されてしまう。
体調が悪くなってしまえば、皆で楽しい夏休み合宿なんて、一緒に何も出来ないんだから楽しめるはずもない。
その後は三日ほど、合宿所で大人しく寝ていたし、そこから動けるようになるまでに回復すると、生徒会顧問のエッセル先生に付き添われて、四人を残し一人だけ帰寮する事になった。
あれだけ芯から身体が冷え切って気を失い、凍死寸前だったのだから、体調を崩してしまうのも無理はなかった。
けど、エルネストが渋々だとは思うけど、私を助けてくれて……本当に良かった。面倒な女だし、あのまま居なくなったら良いわと、思うような人でなくて、本当に……良かった。
寮に帰っても私は一人部屋だし、ずっと伏せっていて、病気だからということで、寮母さんが病人食を部屋にまで持って来てくれる。
わりと至れり尽くせりだし、好きな本を読んでいて、特に不満はなかった。
ただ、合宿所に四人を残して、こうして一人だけ帰ってきてしまって、なんだか寂しくなってしまうという想いはあった。
彼らは生徒会としてのカリキュラムをこなして、もう既に学園へ帰って来ていると思うけど……私だって、せっかくだし、合宿最後まで居たかった気持ちはある。来年もあるけど、私は最高学年だから、行けないかもしれないし……。
結局のところ、完全に回復するまで十日ほどベッドに居て、部屋の中には読む本もなくなり、すっかり暇になってしまった私は、何気なく窓を開けた。
そして……とてもとても驚いた。
「イエルクくん……? そこで、何してるの?」
「あ。先輩……びっくりしました」
信じられない場所で落ち着いた様子のイエルクは、私が窓を開けても動揺した気配は無い。
それは、こっちの台詞だよ! なんて、すぐに言えなかった。あまりにも、驚き過ぎて。
私は自分の目に映る彼が信じられなかった。何故かと言うと、私の部屋は寮の五階。普通ならばそんな高さで、急角度とも言えるくらい斜めになっている屋根に座ろうなんて、思ったりしない。
そう……高所にある窓の外側、すぐそこに、イエルクが平然として、屋根の上に座っていたのだ。
「え。何……どうして、ここに居るの? ……怒られるよ?」
こんな風に、屋根から女子寮に侵入した人……居るのかしら。ううん。屋根から侵入するなんて、本当に信じられない……怒られるどころでは済まなくない!?
え。待って。
けど、これだとイエルクは寮の部屋へ、侵入はしていない……? うん。身体は、窓の外に居るもんね。
だから、私が住んでいる女子寮の番人三頭の犬《ケルベロス》も、彼の存在には気が付いていないのかしら。
「すみません。先輩……合宿の時にひいた風邪が、なかなか治らないと聞いていて、心配になってしまって……」
素直に理由を話したイエルクの理由を聞いて、私は頭を抱えたくなってしまった。
そうよね。
イエルク……貴方があまり人慣れしていなくて、そういう人だって、それはわかっているけど、普通は心配しても、こんな風には屋根から訪ねたりなんてしないんだよ!
それに、私の住んでいる女子寮は男子禁制。
もし、女の子への悪戯目的で入ろうとした人が居れば、比喩でもなく、三つの頭を持つ番犬三頭の犬《ケルベロス》に、かみ殺されてしまう。
31
お気に入りに追加
171
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は婚約破棄したいのに王子から溺愛されています。
白雪みなと
恋愛
この世界は乙女ゲームであると気づいた悪役令嬢ポジションのクリスタル・フェアリィ。
筋書き通りにやらないとどうなるか分かったもんじゃない。それに、貴族社会で生きていける気もしない。
ということで、悪役令嬢として候補に嫌われ、国外追放されるよう頑張るのだったが……。
王子さま、なぜ私を溺愛してらっしゃるのですか?
悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています
平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。
自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。
転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています
平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。
生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。
絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。
しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?
その国外追放、謹んでお受けします。悪役令嬢らしく退場して見せましょう。
ユズ
恋愛
乙女ゲームの世界に転生し、悪役令嬢になってしまったメリンダ。しかもその乙女ゲーム、少し変わっていて?断罪される運命を変えようとするも失敗。卒業パーティーで冤罪を着せられ国外追放を言い渡される。それでも、やっぱり想い人の前では美しくありたい!
…確かにそうは思ったけど、こんな展開は知らないのですが!?
*小説家になろう様でも投稿しています
公爵令嬢は薬師を目指す~悪役令嬢ってなんですの?~【短編版】
ゆうの
ファンタジー
公爵令嬢、ミネルヴァ・メディシスは時折夢に見る。「治癒の神力を授かることができなかった落ちこぼれのミネルヴァ・メディシス」が、婚約者である第一王子殿下と恋に落ちた男爵令嬢に毒を盛り、断罪される夢を。
――しかし、夢から覚めたミネルヴァは、そのたびに、思うのだ。「医者の家系《メディシス》に生まれた自分がよりによって誰かに毒を盛るなんて真似をするはずがないのに」と。
これは、「治癒の神力」を授かれなかったミネルヴァが、それでもメディシスの人間たろうと努力した、その先の話。
※ 様子見で(一応)短編として投稿します。反響次第では長編化しようかと(「その後」を含めて書きたいエピソードは山ほどある)。
【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした
犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。
思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。
何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…
【完結】悪役令嬢のトゥルーロマンスは断罪から☆
白雨 音
恋愛
『生まれ変る順番を待つか、断罪直前の悪役令嬢の人生を代わって生きるか』
女神に選択を迫られた時、迷わずに悪役令嬢の人生を選んだ。
それは、その世界が、前世のお気に入り乙女ゲームの世界観にあり、
愛すべき推し…ヒロインの義兄、イレールが居たからだ!
彼に会いたい一心で、途中転生させて貰った人生、あなたへの愛に生きます!
異世界に途中転生した悪役令嬢ヴィオレットがハッピーエンドを目指します☆
《完結しました》
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる