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49 囚われ(side Duke)①

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 陛下から内密にとアリエル様との結婚についての話を貰った時には、もうもしかしたら姫はあの子なのかもしれないとは考えていた。

 それにその姿は全く違ってはいても、やたらと俺のことを好きな、良くわからない女の子だと思っていた感覚には、どこか既視感があった。

 アリエル姫からお忍びをした際に俺から助けられた事があると聞いた時に、あの時にもっと彼女に踏み込んで真相を聞けていたなら……いいや、もしもの世界は存在しない。

 どれだけ悔いて元に戻りたいと願ったところで、何をどうしても動かない過去は変えられない。

 人を殺してしまうことに躊躇いがないかと聞かれれば、何か特殊な殺人を主とする訓練でも受けている人間でなければ、すぐにそれを肯定することは難しいはずだ。

 俺は無意識に大勢の命を、奪ってしまった。一人一人の顔なんて、覚えてもいない。気がつけば、死体の海の前で呆然としていた。

 だが、あの時に亡くなっていた彼らは俺と同じように家族を持ち、国を守るという誇りだって持っていた兵士だったはずだ。

 そんな狂戦士になった功績を以て、国でも名誉ある爵位を与えられると言われても、嬉しくもなんともない。アリエル様の件を聞いていなければ、すぐに断っていたことだろう。

 だが、姫を娶るにはそうするしかないと言われれば、俺はこの話を受けるしかない。

 それに、姫本人から何年か前に約束をしたあの女の子なのかどうなのかと、確認することだって先決だった。

 現在仮定としている関係がここで確定してしまえば、俺が辿る道はこの先ひとつしかない。

 そうだとわかった段になっても往生際悪く、俺は時間を引き延ばしていたかった。

 結婚前の女性が幸せなはずの結婚式前に、何故か憂鬱になるという不思議な症状は、もしかしたらこれかもしれない。

 これまでは果てしない可能性を持って広がっていた未来が、一筋の道に収束していくような例えようもない感覚。

 幸せになりたいかと自分に問いかければ、それはそうだろうと頷くしかなかった。不幸なままで居たい奴の気持ちがわからない。

 俺はアリエル姫をこれまでは恋愛対象としては、敢えて意識はしないようにしていた。だが、結婚の約束を交わしたあの女の子本人であると言うのならば、それは別の話だ。

 人生の岐路を選び、覚悟を決めるその瞬間は、俺自身が望むと望まないにしろ、もうすぐそこまで近づいていた。
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