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09 眠り騎士①
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血相を変えた護衛たちと帰城してから、全騎士団を出動させようとしていたお父様に雷を落とされて、あの時から私は兄同伴以外のお忍びが二度と出来なくなった。
そして、二年後にやっと結婚出来る年齢になった私は、ユンカナン王国の王族として、騎士団の団長として任命された少し大人っぽくなったデュークと対面することになったのだ。
『驚くだろうか。何を言われるだろうか』と胸を高鳴らせて、王を前にして若干緊張した騎士デュークは名乗り出て挨拶をした私を、まるで初対面のようにして扱った。
———-あ。覚えていなかったんだ。
そう思った。例え私にとっては衝撃的な運命の出会いだったとしても、女性から浴びるように好意を寄せられるだろうデュークにとってみれば、きっとありふれた良くある出来事だったのだ。
あれから、二年も経っているというのに、記憶に残っているはずもなかった。私は片時も忘れたことなんて、なかったのに……。
デュークに忘れられているのだと悟った時、私はとてもショックだった。
けど、自分を忘れられていたことは切ないけど、それはもう彼の勝手で仕方のないことだ。
『あの時の事を、忘れてしまったの?』 と、こちらから切り出して『ああ。そんなこともありましたね』と、二度傷ついてしまうのもばかばかしい。
必ず会いに行くという約束をしたのは、私の方だった。勝手に結婚を希望されて会いに行くと言われただけで、デュークの責任でもない。
大人になるということは、だんだんと不自由になっていくことなのかもしれない。
もし、人の事情など気にも掛けない子どもであれば、私のことを忘れてしまった彼を約束したのにと泣き喚いて散々になじっただろう。
成人して結婚出来る年齢になった私には、流石にそれは出来なかった。
そうして、静かに私の恋は、幕を閉じたはずだった。
暗殺や誘拐の危険が付き纏う王族の一員の私が、たった一人の時間を過ごすことは、警備上の問題もあり、当然の如くあまりなかった。
私が現在住んでいる薔薇の離宮は元々正妃であった、お母様に与えられていた宮だ。
そんな薔薇の離宮の中であれば、少しだけ話は変わって来る。
侵入者検知の魔法を掛けられ、堅固な警備を幾重に敷かれた離宮の中でのみ、王家の姫という身分を持つ私が人払いをしてしまえば短い一人の時間が許されるのだ。
ふと気が向いて散歩することにした庭園には、薔薇の離宮の名前の通り、色取り取りの薔薇の花が咲いて、目にも鮮やかだった。
もし、誰かに言えば『何を贅沢なことを』と言ってと眉を顰められてしまいそうだけど、一国のお姫様として常時敬われ大事にされている私も、たまに一人だけになって、こうして散歩をして、息苦しい身分を忘れたい時があった。
通常であれば、薔薇の離宮は義理の母で現在の正妃であるセリーヌ様が住む流れになるはずだった。
けれど、早くに母を無くした幼い私を気遣い母親の記憶が残る場所で過ごさせてあげたいと言ってくださり、私に離宮を譲ってくださったのだ。
元々は側妃であったセリーヌ様と私は、義理の親子という為さぬ仲ではあるものの、真面目で誠実な彼女のことは尊敬している。
セリーヌ様は優しさを持つだけではなく、国を統治する王族としては相応しい考えを持ちとても公平公正な人だ。
だから、私が一臣下であるデュークに入れ込んで、彼に傾倒しているという話を聞いた彼女には当たり前だけどあまり良い顔はされていない。
『王族は仕える臣下の特定人物を贔屓せずに公平に接すべきだ』と、彼女から何度も何度も聞かされた。
きっと、私が持つ事情を説明したところで、それは軍務大臣であるヘンドリック侯爵とデュークの二人の問題なのだから、私は何もするなと言われて終わってしまう。
私は一方的に好意を寄せているデュークのためなら、自分の評判など別に地に落ちても良いとまで思っていた。
だって、デュークのことが本当に好きだから。
そして、二年後にやっと結婚出来る年齢になった私は、ユンカナン王国の王族として、騎士団の団長として任命された少し大人っぽくなったデュークと対面することになったのだ。
『驚くだろうか。何を言われるだろうか』と胸を高鳴らせて、王を前にして若干緊張した騎士デュークは名乗り出て挨拶をした私を、まるで初対面のようにして扱った。
———-あ。覚えていなかったんだ。
そう思った。例え私にとっては衝撃的な運命の出会いだったとしても、女性から浴びるように好意を寄せられるだろうデュークにとってみれば、きっとありふれた良くある出来事だったのだ。
あれから、二年も経っているというのに、記憶に残っているはずもなかった。私は片時も忘れたことなんて、なかったのに……。
デュークに忘れられているのだと悟った時、私はとてもショックだった。
けど、自分を忘れられていたことは切ないけど、それはもう彼の勝手で仕方のないことだ。
『あの時の事を、忘れてしまったの?』 と、こちらから切り出して『ああ。そんなこともありましたね』と、二度傷ついてしまうのもばかばかしい。
必ず会いに行くという約束をしたのは、私の方だった。勝手に結婚を希望されて会いに行くと言われただけで、デュークの責任でもない。
大人になるということは、だんだんと不自由になっていくことなのかもしれない。
もし、人の事情など気にも掛けない子どもであれば、私のことを忘れてしまった彼を約束したのにと泣き喚いて散々になじっただろう。
成人して結婚出来る年齢になった私には、流石にそれは出来なかった。
そうして、静かに私の恋は、幕を閉じたはずだった。
暗殺や誘拐の危険が付き纏う王族の一員の私が、たった一人の時間を過ごすことは、警備上の問題もあり、当然の如くあまりなかった。
私が現在住んでいる薔薇の離宮は元々正妃であった、お母様に与えられていた宮だ。
そんな薔薇の離宮の中であれば、少しだけ話は変わって来る。
侵入者検知の魔法を掛けられ、堅固な警備を幾重に敷かれた離宮の中でのみ、王家の姫という身分を持つ私が人払いをしてしまえば短い一人の時間が許されるのだ。
ふと気が向いて散歩することにした庭園には、薔薇の離宮の名前の通り、色取り取りの薔薇の花が咲いて、目にも鮮やかだった。
もし、誰かに言えば『何を贅沢なことを』と言ってと眉を顰められてしまいそうだけど、一国のお姫様として常時敬われ大事にされている私も、たまに一人だけになって、こうして散歩をして、息苦しい身分を忘れたい時があった。
通常であれば、薔薇の離宮は義理の母で現在の正妃であるセリーヌ様が住む流れになるはずだった。
けれど、早くに母を無くした幼い私を気遣い母親の記憶が残る場所で過ごさせてあげたいと言ってくださり、私に離宮を譲ってくださったのだ。
元々は側妃であったセリーヌ様と私は、義理の親子という為さぬ仲ではあるものの、真面目で誠実な彼女のことは尊敬している。
セリーヌ様は優しさを持つだけではなく、国を統治する王族としては相応しい考えを持ちとても公平公正な人だ。
だから、私が一臣下であるデュークに入れ込んで、彼に傾倒しているという話を聞いた彼女には当たり前だけどあまり良い顔はされていない。
『王族は仕える臣下の特定人物を贔屓せずに公平に接すべきだ』と、彼女から何度も何度も聞かされた。
きっと、私が持つ事情を説明したところで、それは軍務大臣であるヘンドリック侯爵とデュークの二人の問題なのだから、私は何もするなと言われて終わってしまう。
私は一方的に好意を寄せているデュークのためなら、自分の評判など別に地に落ちても良いとまで思っていた。
だって、デュークのことが本当に好きだから。
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