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07 あの時①

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 デュークに恋をした理由は私が持つ姫という身分に、とてもありがちなきっかけだったのかもしれない。

 お兄様たち三人全員が王立のアカデミーへと通われている間、彼らにいつも遊んで貰っていた末妹の私は、とても暇で退屈だった。

 姫は警備上の問題があって、アカデミーに通えないというのも面白くなかった。

 そんな退屈な日々に飽き飽きしてしまった頃に、どうしても王都へのお忍びに行きたいと我儘を言って希望したのだ。

 王族の癖にヤンチャなお兄様たちが、その当時の私よりもっともっと幼い頃から、王都へお忍びを繰り返していたことを私は知っていたので、それを盾にとった。

「お兄様たちが良いと言われていたのに、妹の私がダメと却下されてしまうのは絶対に納得出来ないわ。もし、納得出来る理由があるのなら、それを説明しなさい」

 十分な護衛を連れているならば、安全面は理由にならない。

 そして、私に対しとても甘いお父様の口添えもあり、ほんの短時間の予定と言えど、王都へのお忍びで遊びに行くことに私は成功したのだった。

 王都の一番人で賑わう大通りに辿り着き、幼い私が一番にしたことと言えば、いきなり走り出して傍近くに居た護衛を巻くことだった。

 一人で街を歩くのが目的だったので人の多い方多い方へと走り回り、気がつけば運動など慣れている訳もない私は、荒い息をつき薄暗い裏通りに立っていた。

 当時はまだ幼くて私の身を守るためとは言え、人がいつも取り巻いている状況が本当に嫌だったのだ。

 けれど成人になってしまった今では、その時にどれだけ無謀なことを仕出かしてしまったかが良くわかる。

 どれだけ、危険なことだったのかも。

 だけど、いつも人目に晒される堅苦しい城を出て、ただ一人の人間になれた私は、本当の意味での自由をこの時に初めて感じたのだ。

 見るからに身なりも育ちも良さそうな女の子が、そんな怪しげな場所に居て悪い連中に絡まれないはずもない。

 あっという間に大勢のガラの悪い男の人に周囲を囲まれて、何処に売ろうかと品定めされている時、怯えた私の耳にはのんびりとした余裕ある低い声がした。

「……職務上、違法行為を目の前にして見逃す訳にはいかないんでね。俺が偶然通りがかった自分たちの運の悪さを、どうぞ呪ってくれ」

 私の周囲を高い壁のように囲っていた男性たちが全員バタバタと音をさせて倒れてしまうのは、黒い影が舞ったと思った、その一瞬の後だった。

「あっ……ありがとうっ……ございます」

 もしかしたら、この後に自分はとんでもないことになってしまうのではという強い緊張感でカラカラに乾いていた口から、ようやく出て来たのはそんな言葉だった。

 その時は多分入団したばかりの新米騎士だったデュークは、無言で私の手を掴んでから歩き出すと、明るい陽光が差す大通りに出てから私に説教を始めた。

「あのさ。あんた……見るからに王都育ちでもなく余所者っぽいけど、あんな路地に一人で行くなんて本当にあり得ない。若い女の子がああいった連中に攫われて、どんな目に遭うか。あんたは、知っている訳ないよな……知っていたら、絶対に、泣き叫んでいるはずだ。良いか。二度と、あんな場所に入るな。俺があそこに居たのは、任務の途中で本当に、ただの偶然の奇跡だから」

 彼が淡々と言う、言葉の通りだ。

 彼が居なかったら、私はきっと心を殺されるような目に遭って死んでいた。ぽろぽろとこぼれ落ちる涙に驚いたのか、デュークは私の肩を叩いた。

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