上 下
4 / 10

04 深夜

しおりを挟む
「うん……まあ、だから……こんなに深夜になって俺を追いかけ回すのも危ない。危険だ。だから、これからは一緒に居れば良いだろう。」

 こんな部屋の前にまで尾けてきた私のことを完全に不審人物だと思っていたはずのマックロイさんは、逆に夜遅くに出歩いていた私のことを心配してくれていたらしい。

 え。え? ちょっと待って。これって、私とマックロイさんが、付き合う流れだよね?

「あっ、あの! マックロイさん。あのっ!」

 マックロイさんが今考えていることは全部誤解なんだと言おうとした私に、彼は大きな手のひらでそれを止めた。

「わかってる……大丈夫だ。冒険者ギルドの受付は、人気のある仕事だ。ミアだって、未練があるだろう。仕事は当分、続けても良い。結婚したら、出来れば家に居て欲しいので、将来的には辞めて貰いたいが」

 やっ……ヤバい。私の話を全く聞かずに結婚まで話が進んでいる……ずっと私がヤバい人だと思われていると思っていたけど……もしかして。

「待ってください……マックロイさんは……もしかして、私のこと、好きなんですか?」

 顔を赤くして興奮した様子のマックロイさんは、私の言葉を聞いてキョトンとした表情になった。

「ああ。人気の受付嬢に好かれていると思えば、別に悪い気はしなかった。そんな君に、何度も帰り道を尾けられているとは驚いたが、仕事上の情報を悪用するのは俺以外にはしない方が良いと思う」

 つまり、私が彼の情報を悪用しているとやっぱり勘違いしていた。仕事なんだからちゃんとしろとばかりに、キリッとした真面目な顔でマックロイさんは言った。

 多分……彼は色々誤解してるだろうなあって、思っていたけど。私の予想の百倍くらいの、ものすごい……とんでもない誤解をされてる。

「あ……えっと……でも……あの。最近、私の窓口に、全然来てませんでしたよね?」

 そうだ。だから、マックロイさんは私のことを嫌ってるか、気持ち悪いって避けているんだろうなって思っていたのに。

「……そんなことを気にしていたのか。出来れば、こうして二人きりで話したかった。だが、冒険者ギルドの受付嬢を仕事中に誘うのは、ご法度だ。俺もこれからも仕事上必要な冒険者ライセンスを、奪われたくはない」

 にっこり微笑んだマックロイさんは、今までの冷たい印象もどこへやら……子どものような可愛らしい笑顔を見せてくれた。

 不覚にも、そんな笑顔に胸がキュンっと高鳴った。

 なっ……なんとも思ってないはずだったのに。嫌がられているとばかり思っていたから、こうして好意を示して貰えると、そういうギャップも含めすっごく嬉しいっていうか……。

「私……マックロイさんに、絶対、避けられていると思ってて……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

王太子殿下が好きすぎてつきまとっていたら嫌われてしまったようなので、聖女もいることだし悪役令嬢の私は退散することにしました。

みゅー
恋愛
 王太子殿下が好きすぎるキャロライン。好きだけど嫌われたくはない。そんな彼女の日課は、王太子殿下を見つめること。  いつも王太子殿下の行く先々に出没して王太子殿下を見つめていたが、ついにそんな生活が終わるときが来る。  聖女が現れたのだ。そして、さらにショックなことに、自分が乙女ゲームの世界に転生していてそこで悪役令嬢だったことを思い出す。  王太子殿下に嫌われたくはないキャロラインは、王太子殿下の前から姿を消すことにした。そんなお話です。  ちょっと切ないお話です。

魔力なしと虐げられた令嬢は孤高の騎士団総長に甘やかされる

橋本彩里(Ayari)
恋愛
五歳で魔力なしと判定され魔力があって当たり前の貴族社会では恥ずかしいことだと蔑まれ、使用人のように扱われ物置部屋で生活をしていた伯爵家長女ミザリア。 十六歳になり、魔力なしの役立たずは出て行けと屋敷から追い出された。 途中騎士に助けられ、成り行きで王都騎士団寮、しかも総長のいる黒狼寮での家政婦として雇われることになった。 それぞれ訳ありの二人、総長とミザリアは周囲の助けもあってじわじわ距離が近づいていく。 命を狙われたり互いの事情やそれにまつわる事件が重なり、気づけば総長に過保護なほど甘やかされ溺愛され……。 孤高で寡黙な総長のまっすぐな甘やかしに溺れないようにとミザリアは今日も家政婦業に励みます! ※R15については暴力や血の出る表現が少々含まれますので保険としてつけています。

望みゼロな憧れ騎士団長様に「今夜は帰りたくない」と、良くわからない流れで言ってしまった口下手令嬢に溺愛ブーストがかかるまで

待鳥園子
恋愛
特殊な家庭で育ち異性とは上手く話せずに、口下手になってしまった伯爵令嬢シャーロット。 あまりに憧れの存在の公爵家三男で騎士団長を勤めるハビエルならば、身分の低い自分なんてきっと相手にもされないだろうし、会話の練習相手に良いのでは? と提案され勇気を出して、彼に話し掛けることにした。 しかし、口下手が過ぎたシャーロットは、よくわからない流れでハビエルに「今夜は帰りたくない」と伝えてしまい?!

悪役令嬢なのに王子の慰み者になってしまい、断罪が行われません

青の雀
恋愛
公爵令嬢エリーゼは、王立学園の3年生、あるとき不注意からか階段から転落してしまい、前世やりこんでいた乙女ゲームの中に転生してしまったことに気づく でも、実際はヒロインから突き落とされてしまったのだ。その現場をたまたま見ていた婚約者の王子から溺愛されるようになり、ついにはカラダの関係にまで発展してしまう この乙女ゲームは、悪役令嬢はバッドエンドの道しかなく、最後は必ずギロチンで絶命するのだが、王子様の慰み者になってから、どんどんストーリーが変わっていくのは、いいことなはずなのに、エリーゼは、いつか処刑される運命だと諦めて……、その表情が王子の心を煽り、王子はますますエリーゼに執着して、溺愛していく そしてなぜかヒロインも姿を消していく ほとんどエッチシーンばかりになるかも?

腹黒王子は、食べ頃を待っている

月密
恋愛
侯爵令嬢のアリシア・ヴェルネがまだ五歳の時、自国の王太子であるリーンハルトと出会った。そしてその僅か一秒後ーー彼から跪かれ結婚を申し込まれる。幼いアリシアは思わず頷いてしまい、それから十三年間彼からの溺愛ならぬ執愛が止まらない。「ハンカチを拾って頂いただけなんです!」それなのに浮気だと言われてしまいーー「悪い子にはお仕置きをしないとね」また今日も彼から淫らなお仕置きをされてーー……。

【R18】殿下!そこは舐めてイイところじゃありません! 〜悪役令嬢に転生したけど元潔癖症の王子に溺愛されてます〜

茅野ガク
恋愛
予想外に起きたイベントでなんとか王太子を救おうとしたら、彼に執着されることになった悪役令嬢の話。 ☆他サイトにも投稿しています

処理中です...