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02 地下牢

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◇◆◇



 城の地下にある牢は、衛生状況は良くなかった。湿っぽくてカビ臭かった。

 こんな場所に場違いな私のドレスの生地が、ゆらゆらと揺れる蝋燭の光を受けて艶めく。

 四方を囲む鉄格子は当然だけど金属製で頑丈で、それを破っての脱獄なんて考えるだけ時間の無駄になりそう。

 駄目だわ……これではもう、私は殺されてしまうのを待つだけなのね。

 男爵令嬢ミゼルはチャールズからの寵愛を良いことに、身分の高い公爵令嬢の私の立場が悪くなるように動いていた。

 贅沢をして我儘だから自分に対しても非情に接し、不当な圧力を掛けられたり嫌がらせをしてもおかしくないという印象を植えつけた。

 そんな状況にあるとは知らずに、私はのほほんと学園生活を暮らし、何の対抗策も取ることなく、処刑されて死んでしまうことになる。

「ヴィクトリア様……」

「……ナザイレ?」

 死を覚悟した私の前に現れたのは、騎士団長ナザイレ・アレイスターだった。長めの前髪がある黒髪に金目、鋭利と言える程に冴えざえとした鋭い眼差し。凛々しく整った容貌だけれど、華やかなチャールズとは違いどこか憂いを帯びた表情。

 私は彼とは一時期親しかった程度だけれど、ナザイレは実は乙女ゲームの攻略対象者なのだ。

 何度かナザイレと話しているところを目撃した婚約者チャールズより私に近寄るなと命じられ、それからは疎遠になり挨拶を交わすこともしなくなった。

 今思うと、自分はミゼルと親しくいたことは棚上げしておいて……いいえ。

 私はミゼルを殺そうとした罪で処刑されてしまうのだから……何もかももう、今更だわ。

「……ミゼルを殺そうとしたとか」

 淡々とした口調のナザイレの言葉に無反応で居ることは出来ずに、私は首を横に振った。

 ナザイレは不思議そうだった。私が何も言わない理由がわかったのかもしれない。

「……ヴィクトリア。もしかして、声が?」

 眉を顰めたナザイレはそう言い、私はここで彼を巻き込むべきか迷った。けれど、もうここまで来てしまえば同じことだった。

 静かに頷いた私を見て、ナザイレは顔を歪めた。

「何もかも、おかしいと思いました」

 一度その場から駆け去り、牢番から紙とペンを借りてきたナザイレは私にそれを渡した。

 以前に親しかった時と変わらない、曇りのない綺麗な金色の目だ。ここ一年ほど鏡の中にあった、私の諦めきった青い目とは違う。

――――彼がこれに気がついてくれるのが、もう少し、早かったなら。
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