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03 三年前の誕生日
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「いいえ……ユアン。もしかして……ごめんなさい。私が貴方のことを、忘れているのね。何があったか、教えてくれる?」
「ああ……そうなのか。ようやく、エレインが僕に手紙もくれないし、何の反応も返してくれない理由がわかった。そうか……良かった」
長い前髪を揺らしユアンが、はあっとため息をついたので、エレインは彼の艶めかしい雰囲気に胸を高鳴らせた。
「私が忘れていることって、何なの? もしかして、貴方がお兄様と仲違いした理由って……」
もしかしたら、兄カールとユアンが仲違いした原因が自分ではないかと気がつき、エレインは顔を青くした。
(そうよ。私の十五の誕生日に、ユアンと何かがあったんだわ……けれど、不思議なくらいに何があったか覚えていない。すっぽりとその部分だけ、記憶が抜けてしまっているみたい)
「エレイン。君に僕は十五の誕生日に、何が欲しいか聞いたんだよ。そうしたら、君は僕が欲しいと言ったんだ」
「私ったら! なんてこと言ったのかしら! ごめんなさい」
過去の自分の黒歴史に恥ずかしくなって身悶えしたエレインに、ユアンは苦笑して言った。
「僕も君のことは好ましく思っていたし、カールはその頃友人だったから縁続きになることに抵抗はなかった……その場で、君にキスをしようとしたんだ」
「キスを……そうなの」
エレインは呆然として、忘れてしまった記憶を明かしてくれるユアンの話に聞き入っていた。
(私ったら本当に、異性の趣味はとても良かったんだわ……だって、こんなにも素敵になる人を三年前に目を付けていた訳でしょう。こうして成長している姿を見ると、その頃から付き合いたかったわ)
「……エレイン?」
「……あっ! ごめんなさい。そうなの……キスをしようとしていたのね。私たち。キスをしてどうなったの?」
ロマンティックな展開に進むのではないかと、エレインは胸をときめかせた。例え覚えていない記憶だとしても、それは自分のファーストキスなのだから。
「いや、結果的にキスは出来なかったんだ。僕はカールに突き飛ばされて、その勢いで君は木に頭を打ち付けることになってね。そうして、僕たちは会えなくなってしまった……」
「まあ……お兄様のせいじゃない! 許せないわ!」
彼とのキスシーンを思い描いていたエレインは、突然乱入した兄カールに激しい怒りが沸いた。
(なんという、邪魔者なの! 私の恋を邪魔した挙げ句に、ユアンについて嘘をつくなんて!)
今からでも構わないからどうにか兄に文句を言わなければとエレインはくるりと踵を返しかけたが、その動きに慌てたユアンが彼女の手を握りそれを止めた。
「……エレイン。待ってくれ」
「まあ……ユアン。こんな……とても我慢ならないわ。だって、これだと私たち三年間も会うことが、邪魔されていたことになるじゃない! お兄様から貴方に謝罪させるわ。だって、ユアンは私が言ったことに応えてくれようとしただけなのに、お兄様にそんな風にされて……ユアンが私へ送ってくれた手紙を止めるように言ったのも、きっとあの人だわ。信じられない」
エレインは兄の横暴を聞いて、心底呆れた。妹の意向も確認せずに勝手過ぎる行動に腹が立った。
「わかった……わかったよ。エレイン。良かった。僕はもしかしたら、君に嫌われてしまったのではないかと心配していたんだ」
「そんなこと……どうして。ある訳がないわ。急にお兄様と喧嘩したと聞いて、私は貴方のこと……三年前も好きだったのを覚えているわ。だって……とっても素敵で、優しかったもの」
頬を赤らめ恥ずかしそうにそう言ったエレインを、ユアンは我慢出来ずにぎゅっと抱きしめた。
「ありがとう。エレイン。君がそう言ってくれていると聞いて、僕は安心したよ。ずっと、僕の一方通行の想いなのだと思っていたんだ」
「ああ……そうなのか。ようやく、エレインが僕に手紙もくれないし、何の反応も返してくれない理由がわかった。そうか……良かった」
長い前髪を揺らしユアンが、はあっとため息をついたので、エレインは彼の艶めかしい雰囲気に胸を高鳴らせた。
「私が忘れていることって、何なの? もしかして、貴方がお兄様と仲違いした理由って……」
もしかしたら、兄カールとユアンが仲違いした原因が自分ではないかと気がつき、エレインは顔を青くした。
(そうよ。私の十五の誕生日に、ユアンと何かがあったんだわ……けれど、不思議なくらいに何があったか覚えていない。すっぽりとその部分だけ、記憶が抜けてしまっているみたい)
「エレイン。君に僕は十五の誕生日に、何が欲しいか聞いたんだよ。そうしたら、君は僕が欲しいと言ったんだ」
「私ったら! なんてこと言ったのかしら! ごめんなさい」
過去の自分の黒歴史に恥ずかしくなって身悶えしたエレインに、ユアンは苦笑して言った。
「僕も君のことは好ましく思っていたし、カールはその頃友人だったから縁続きになることに抵抗はなかった……その場で、君にキスをしようとしたんだ」
「キスを……そうなの」
エレインは呆然として、忘れてしまった記憶を明かしてくれるユアンの話に聞き入っていた。
(私ったら本当に、異性の趣味はとても良かったんだわ……だって、こんなにも素敵になる人を三年前に目を付けていた訳でしょう。こうして成長している姿を見ると、その頃から付き合いたかったわ)
「……エレイン?」
「……あっ! ごめんなさい。そうなの……キスをしようとしていたのね。私たち。キスをしてどうなったの?」
ロマンティックな展開に進むのではないかと、エレインは胸をときめかせた。例え覚えていない記憶だとしても、それは自分のファーストキスなのだから。
「いや、結果的にキスは出来なかったんだ。僕はカールに突き飛ばされて、その勢いで君は木に頭を打ち付けることになってね。そうして、僕たちは会えなくなってしまった……」
「まあ……お兄様のせいじゃない! 許せないわ!」
彼とのキスシーンを思い描いていたエレインは、突然乱入した兄カールに激しい怒りが沸いた。
(なんという、邪魔者なの! 私の恋を邪魔した挙げ句に、ユアンについて嘘をつくなんて!)
今からでも構わないからどうにか兄に文句を言わなければとエレインはくるりと踵を返しかけたが、その動きに慌てたユアンが彼女の手を握りそれを止めた。
「……エレイン。待ってくれ」
「まあ……ユアン。こんな……とても我慢ならないわ。だって、これだと私たち三年間も会うことが、邪魔されていたことになるじゃない! お兄様から貴方に謝罪させるわ。だって、ユアンは私が言ったことに応えてくれようとしただけなのに、お兄様にそんな風にされて……ユアンが私へ送ってくれた手紙を止めるように言ったのも、きっとあの人だわ。信じられない」
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「わかった……わかったよ。エレイン。良かった。僕はもしかしたら、君に嫌われてしまったのではないかと心配していたんだ」
「そんなこと……どうして。ある訳がないわ。急にお兄様と喧嘩したと聞いて、私は貴方のこと……三年前も好きだったのを覚えているわ。だって……とっても素敵で、優しかったもの」
頬を赤らめ恥ずかしそうにそう言ったエレインを、ユアンは我慢出来ずにぎゅっと抱きしめた。
「ありがとう。エレイン。君がそう言ってくれていると聞いて、僕は安心したよ。ずっと、僕の一方通行の想いなのだと思っていたんだ」
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