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09 先輩②
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「え!? 恋愛指導って……ジョヴァンニ先輩、どういうことですか?」
いきなり片手を挙げて良い笑顔を浮かべたジョヴァンニは、一体何を言い出したのかと思った。
「いやいや、僕はレオは身分も近くて割と仲も良いし、君に協力出来ると思うんだよ。リンゼイ。君だって、そう思わない?」
「思わない? ……って、ジョヴァンニ先輩は、迷惑ではないですか?」
実際、ジョヴァンニはこの国の王となる王太子なのだ。学ぶべきことも多く、まだ学生だとしてもこなさねばならない公務だってある。
そんな多忙な彼には、命の危険がある訳でもない私の手助けなんて、普通に考えてやっている時間はないと思う。
「全く迷惑ではないよ」
「え。けどですね」
「それに、なんだか君たちをくっつけると楽しそうだと思うんだよ……そうだな。レオは確か、もうすぐ誕生日なんだよ」
「……ジョヴァンニ先輩って私の話を聞く気、ないですよね?」
私が言ったその通りと言わんばかりに、にこやかに微笑んだジョヴァンニは被せて提案をした。
「贈り物に……手紙を忍ばせれば良いのではないかと思うんだけど。どう?」
「レオナルド先輩に、手紙……ですか?」
レオナルドに手紙……あ、直接は言えないから? 文字に託して?
それは……自分では、思いもつかなかった。
「そうそう。リンゼイはどうやら、自分の気持ちを言葉にすることが上手くないようだから、正直な気持ちを文字に書いて手渡せれば良いと思う。レオが好きだと言う気持ちさえ伝われば、君の思考回路は彼が一番に知ってくれているんだし、向こうが勝手に事を進めてくれるだろう」
たっ……確かにそうだ。
レオナルドには私がどれだけ恋愛に対し、不器用であるかとか、事前にわかってくれている。だから、全部任せてしまえば良いとそういう意味もわかる。
だから、最初の時点ではジョヴァンニが気になっていたけれど、優しく身近で接してくれるレオナルドが好きになってしまい、それをなかなか言い出せずにいたと彼が知ってくれれば……?
レオナルドはジョヴァンニほどは察しは良い訳ではないけれど、話せばわかってくれる人だと私は知っていた。
「確かに、そうですね。ジョヴァンニ先輩……ありがとうございます!」
出口のない迷路に突破口が見つかり、嬉しくなった私が手を組んでお礼を言うと、ジョヴァンニは満足そうに頷いた。
「……フォンタナ公爵家で、誕生日を祝う夜会が開催されるはずだ。僕が招待状を用意しよう。ああいった華やかな場を嫌がってはいても、主役が欠席することは許されない。そこで、居ないはずのリンゼイが登場し、直接贈り物をすれば良いと思うんだよ」
「誕生日を、祝う誕生会……ですか」
さすが、王家に近い権力を持つフォンタナ公爵家……息子のお誕生日会に、豪華な夜会を開催……けど。
「ジョヴァンニ先輩。私……その、そういった場に相応しいドレスを持っていなくて……夜会には行けないんです……」
貴族たちが集う夜会には、正装というドレスコードがある。
私は元々平民であるため、必要ないので、そういったドレスなどは持っていない。
けれど、乙女ゲームのエンディングである卒業パーティーには、個別ルートに入ったヒーローからドレスや装飾品を贈られることになる。
『ここたた』は平民として生きて来た女の子が、特別な能力に目覚め、それによって王家の血筋を引くことに気がつくという、まさに、シンデレラストーリーの王道なのだ。
「……いやいや、何を言っているんだ。この僕がそうしろと言って居るんだから、必要なものは全て用意してあげよう。レオと結ばれる前祝いだよ。遠慮なく受け取ってくれ」
「そんな……ですが」
夜会用イブニングドレスや装飾品となると、平民からすると目が飛び出るような金額に跳ね上がってしまう。
王子様だから……買ってもらって良いのかと言われると、そうでもないような気がするし……。
「リンゼイ。僕を一体誰だと思っているの?」
ジョヴァンニは学園の会長で王子様で、けど……ここで求められている答えは、きっとこれだ。
「この国の……王太子様です」
「そうだ。大いなる責任の元には、然るべき報酬も与えられる。君のように困っている女の子に使うのであれば、それは良い使い道だと思う。レオも嬉しい驚きに感動して、僕の友情に涙することだろう」
ジョヴァンニにここまで言ってもらって、それを固辞する訳にはいかず私は小さく頷いた。
「あの、ジョヴァンニ先輩……ありがとうございます」
「いえいえ。これで全てが上手くいくと良いんだが」
ジョヴァンニはどこか面白そうに言って顎に片手を置き、視線が合った私に、にっこりと微笑んだ。
いきなり片手を挙げて良い笑顔を浮かべたジョヴァンニは、一体何を言い出したのかと思った。
「いやいや、僕はレオは身分も近くて割と仲も良いし、君に協力出来ると思うんだよ。リンゼイ。君だって、そう思わない?」
「思わない? ……って、ジョヴァンニ先輩は、迷惑ではないですか?」
実際、ジョヴァンニはこの国の王となる王太子なのだ。学ぶべきことも多く、まだ学生だとしてもこなさねばならない公務だってある。
そんな多忙な彼には、命の危険がある訳でもない私の手助けなんて、普通に考えてやっている時間はないと思う。
「全く迷惑ではないよ」
「え。けどですね」
「それに、なんだか君たちをくっつけると楽しそうだと思うんだよ……そうだな。レオは確か、もうすぐ誕生日なんだよ」
「……ジョヴァンニ先輩って私の話を聞く気、ないですよね?」
私が言ったその通りと言わんばかりに、にこやかに微笑んだジョヴァンニは被せて提案をした。
「贈り物に……手紙を忍ばせれば良いのではないかと思うんだけど。どう?」
「レオナルド先輩に、手紙……ですか?」
レオナルドに手紙……あ、直接は言えないから? 文字に託して?
それは……自分では、思いもつかなかった。
「そうそう。リンゼイはどうやら、自分の気持ちを言葉にすることが上手くないようだから、正直な気持ちを文字に書いて手渡せれば良いと思う。レオが好きだと言う気持ちさえ伝われば、君の思考回路は彼が一番に知ってくれているんだし、向こうが勝手に事を進めてくれるだろう」
たっ……確かにそうだ。
レオナルドには私がどれだけ恋愛に対し、不器用であるかとか、事前にわかってくれている。だから、全部任せてしまえば良いとそういう意味もわかる。
だから、最初の時点ではジョヴァンニが気になっていたけれど、優しく身近で接してくれるレオナルドが好きになってしまい、それをなかなか言い出せずにいたと彼が知ってくれれば……?
レオナルドはジョヴァンニほどは察しは良い訳ではないけれど、話せばわかってくれる人だと私は知っていた。
「確かに、そうですね。ジョヴァンニ先輩……ありがとうございます!」
出口のない迷路に突破口が見つかり、嬉しくなった私が手を組んでお礼を言うと、ジョヴァンニは満足そうに頷いた。
「……フォンタナ公爵家で、誕生日を祝う夜会が開催されるはずだ。僕が招待状を用意しよう。ああいった華やかな場を嫌がってはいても、主役が欠席することは許されない。そこで、居ないはずのリンゼイが登場し、直接贈り物をすれば良いと思うんだよ」
「誕生日を、祝う誕生会……ですか」
さすが、王家に近い権力を持つフォンタナ公爵家……息子のお誕生日会に、豪華な夜会を開催……けど。
「ジョヴァンニ先輩。私……その、そういった場に相応しいドレスを持っていなくて……夜会には行けないんです……」
貴族たちが集う夜会には、正装というドレスコードがある。
私は元々平民であるため、必要ないので、そういったドレスなどは持っていない。
けれど、乙女ゲームのエンディングである卒業パーティーには、個別ルートに入ったヒーローからドレスや装飾品を贈られることになる。
『ここたた』は平民として生きて来た女の子が、特別な能力に目覚め、それによって王家の血筋を引くことに気がつくという、まさに、シンデレラストーリーの王道なのだ。
「……いやいや、何を言っているんだ。この僕がそうしろと言って居るんだから、必要なものは全て用意してあげよう。レオと結ばれる前祝いだよ。遠慮なく受け取ってくれ」
「そんな……ですが」
夜会用イブニングドレスや装飾品となると、平民からすると目が飛び出るような金額に跳ね上がってしまう。
王子様だから……買ってもらって良いのかと言われると、そうでもないような気がするし……。
「リンゼイ。僕を一体誰だと思っているの?」
ジョヴァンニは学園の会長で王子様で、けど……ここで求められている答えは、きっとこれだ。
「この国の……王太子様です」
「そうだ。大いなる責任の元には、然るべき報酬も与えられる。君のように困っている女の子に使うのであれば、それは良い使い道だと思う。レオも嬉しい驚きに感動して、僕の友情に涙することだろう」
ジョヴァンニにここまで言ってもらって、それを固辞する訳にはいかず私は小さく頷いた。
「あの、ジョヴァンニ先輩……ありがとうございます」
「いえいえ。これで全てが上手くいくと良いんだが」
ジョヴァンニはどこか面白そうに言って顎に片手を置き、視線が合った私に、にっこりと微笑んだ。
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