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03 どこに居るの?

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「もうっ……このままだと卒業式が終わってしまうわ。まずいわね……今夜婚約破棄して貰わないと、私はどうなってしまうの?」

 レイモンとマリアンナが結婚するためには、レイモンの婚約者エレオノーラとの婚約破棄は、絶対に不可避だ。

 ……けれど、彼が現れないとこのままでは、漫画の展開とは大きく異なってしまう。

 原作通り私の希望通りの田舎への追放なら、両手を挙げて大歓迎するのに! ここでレイモンから婚約破棄されずに、卒業した後で断罪され若い学生のことだからという温情もなく、田舎に行く以外の処罰を受けるなんて……絶対に嫌!

 そもそも、ここに居る私はマリアンナを虐めてないし! とは言っても、転生しているのはエレオノーラの身体だから、そんな言い訳は聞いて貰えないと思うけど!

「とにかく、レイモンを探しましょう……彼が居ないと、私への断罪は始まらないんだから」

 最悪、マリアンナは居なくても良い。だって、私の婚約者はレイモンなのよ。

 真剣な顔をしたレイモンに「君のように犯罪まがいな嫌がらせを重ねた女性と、このまま結婚することは出来ない……婚約破棄だ!」と、言って貰わないと困るの! 私の勝手だけど!

 婚約破棄してくれるなら、今夜が良いの!

 なんと、悪役令嬢に転生したばかりの私は婚約破棄されるために、会場で婚約者の王子様を探すという、訳のわからない事態になってしまった。

 会場を出て、私はレイモンの居そうな場所を探すことにした。生徒会室? ううん。寮に居るのかな……せっかくの卒業式なのに、何をしているのかしら。王太子の彼が主役と言っても過言でもないのに。

 それに、私に婚約破棄するという衝撃的な出来事がなかったら、レイモンが卒業生代表として最後にお世話になった教師の先生たちや来賓の貴族たちに感謝の言葉を述べるはずよ。

 はーあ……悪役令嬢に転生するなら、物語開始前幼女の時とかせめて物語開始と同時でも良かったなあ……そうしたら、そもそも悪役令嬢にならないルートを辿り……王太子レイモンとも、恋仲になれたかもしれないのに……。

 ……あれ?

 なんだか、顔が冷たいと思って触ったら、涙が頬を伝っていた。ふわりと吹いた夜風に冷やされて、なんだか悲しい……。

 そっか……私のこの身体は、レイモンのことが好きだもんね。

 でないと、彼が優しくした女の子に嫉妬したりして、嫌がらせなんてしないよ……そうだよ。レイモンを好きだから、嫉妬するんだよ。それ以外に何も悪くないマリアンナを虐める理由なんてある?

 けど、レイモンに今夜婚約破棄されないと……田舎追放なんてなまぬるい断罪は、今時珍しいんだからね。

 私は手の甲で涙を拭って、前を向いて歩き出した。レイモンはまだ私の婚約者だけど、彼の心はマリアンナのもの。今更何かしたって、もう遅いんだから。

 レイモンを探していた私は、通りがかった庭園にある噴水あたりに居る人影を見て、立ち止まった。

 ……背の高い男の人?

 背中しか見えないけど……あれって、きっとレイモンだ。
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