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43 計算違い②
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「ジュスト……? 何言ってるの。それは私が望んだことでしょう」
私はジュストと共に居られる未来が見えて嬉しかったし、その上でここに居るというのに、何を言っているのだろうと不思議だった。
「ええ。ですが、いつか後悔しませんか? 僕は貴女を手に入れたい一心でここまで来ましたけど、ミシェルが僕を好きだというのは、僕の妄想ではないかと心配になるんですよ」
茶色の目は細かく揺れて唇は震えていて、ここに来るまでにジュストは、どれだけの不安を乗り越えて来たのだろう。
私は彼に好意を持っていたとしても、表には出す訳にはいかない。だって、ラザール様という幼い頃から決められた婚約者が居たし、ジュストに気持ちがある事なんて知られる訳にはいかなかった。
私はこれからは彼と一緒に居ると、そう信じて貰えるように、努力すべきだと思った。
ジュストの首に手を掛けて、私は初めて自分から彼にキスをした。震えていた唇は舐めた舌を導くようにゆっくり開いて、やがてお酒の苦い味のする舌と絡まり合った。
私はジュストは余裕があって常に何もかも把握していて、いつも『全部僕の計算通り』みたいな顔をしているいけすかない性格の男性だと思っていた。
けれど、今目の前に居るこの人は、全然違う。
臆病で愛されていることを信じられず、それでもと勇気を振り絞り私へと手を差し出した。
「っ……はあっ……はあっ……何言ってるの。私が貴方のこと、嫌いな訳ないでしょう。ジュストが私をこんなに好きにさせたのに、僕は自信がないなんて、もう言わせないわ」
私に押し倒されたジュストは幼い頃から、私のことを最優先にしてくれていた。
転んだらすぐに助け起こして慰めてくれたし、私が興味あると知れば、すぐに博士くらい知識を仕入れて冗談混じりに披露してくれた。
可能な限り傍に居てくれたし、嫌なことを言われても、口の上手い彼がすぐに相手をやり込めてくれるので、私はいつ何処へ行くにも不安などはなかった。
そんな彼のことを、私が好きにならない訳もなく……すべての障害が取り除かれたのならば、ジュストと結ばれたいと望むことだって、何の不思議もないと思う。
「……僕はミシェルが居れば、それで良いんです。親も主人も、貴女を手に入れる手段に使いました。正直怖いです。これまで十年ほど願って来たことが、今叶うんです。ミシェル……怖いです。自分が貴女を手に入れたらどうなってしまうのか」
ジュストにいつもの威勢の良さなどはなく、長年想い続けて来た私を手に入れる幸せが怖いと言いたいみたい。
私は筋肉質な感触のお腹の上に座りながら、いつも揶揄っては虐めている彼が、項垂れて元気ないという事態を目の前にして、なんだか楽しくなって来てしまった。
「もう……それで、こんな時になったというのに、私に手が出せないというのね……?」
私は彼のガウンの紐を解き、割れたお腹に手を置いた。
「……ミシェル?」
「それならば、私がしてあげるから、何もしないで欲しいの。閨教育はちゃんと受けているんだから」
私の言葉を聞きみるみる顔を赤くしたジュストは、流石にこの展開は計算出来ていなかったんだと思う。
私はジュストと共に居られる未来が見えて嬉しかったし、その上でここに居るというのに、何を言っているのだろうと不思議だった。
「ええ。ですが、いつか後悔しませんか? 僕は貴女を手に入れたい一心でここまで来ましたけど、ミシェルが僕を好きだというのは、僕の妄想ではないかと心配になるんですよ」
茶色の目は細かく揺れて唇は震えていて、ここに来るまでにジュストは、どれだけの不安を乗り越えて来たのだろう。
私は彼に好意を持っていたとしても、表には出す訳にはいかない。だって、ラザール様という幼い頃から決められた婚約者が居たし、ジュストに気持ちがある事なんて知られる訳にはいかなかった。
私はこれからは彼と一緒に居ると、そう信じて貰えるように、努力すべきだと思った。
ジュストの首に手を掛けて、私は初めて自分から彼にキスをした。震えていた唇は舐めた舌を導くようにゆっくり開いて、やがてお酒の苦い味のする舌と絡まり合った。
私はジュストは余裕があって常に何もかも把握していて、いつも『全部僕の計算通り』みたいな顔をしているいけすかない性格の男性だと思っていた。
けれど、今目の前に居るこの人は、全然違う。
臆病で愛されていることを信じられず、それでもと勇気を振り絞り私へと手を差し出した。
「っ……はあっ……はあっ……何言ってるの。私が貴方のこと、嫌いな訳ないでしょう。ジュストが私をこんなに好きにさせたのに、僕は自信がないなんて、もう言わせないわ」
私に押し倒されたジュストは幼い頃から、私のことを最優先にしてくれていた。
転んだらすぐに助け起こして慰めてくれたし、私が興味あると知れば、すぐに博士くらい知識を仕入れて冗談混じりに披露してくれた。
可能な限り傍に居てくれたし、嫌なことを言われても、口の上手い彼がすぐに相手をやり込めてくれるので、私はいつ何処へ行くにも不安などはなかった。
そんな彼のことを、私が好きにならない訳もなく……すべての障害が取り除かれたのならば、ジュストと結ばれたいと望むことだって、何の不思議もないと思う。
「……僕はミシェルが居れば、それで良いんです。親も主人も、貴女を手に入れる手段に使いました。正直怖いです。これまで十年ほど願って来たことが、今叶うんです。ミシェル……怖いです。自分が貴女を手に入れたらどうなってしまうのか」
ジュストにいつもの威勢の良さなどはなく、長年想い続けて来た私を手に入れる幸せが怖いと言いたいみたい。
私は筋肉質な感触のお腹の上に座りながら、いつも揶揄っては虐めている彼が、項垂れて元気ないという事態を目の前にして、なんだか楽しくなって来てしまった。
「もう……それで、こんな時になったというのに、私に手が出せないというのね……?」
私は彼のガウンの紐を解き、割れたお腹に手を置いた。
「……ミシェル?」
「それならば、私がしてあげるから、何もしないで欲しいの。閨教育はちゃんと受けているんだから」
私の言葉を聞きみるみる顔を赤くしたジュストは、流石にこの展開は計算出来ていなかったんだと思う。
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