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38 隠し事②

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 なんですって? 私って、そうだったの?

 いえいえ……そんな訳はないわ。そんなこと、これまでに聞いたこともないもの。

「そっ……それは」

 二の句が継げず、焦っているラザール様。それは、ジュストがさっき口にした隠し子が居るという情報が真実であることを示していた。

 ……嘘でしょう。婚約者をオレリーに交換したいと言い出したことなんて、ほんの可愛い話に終わるような爆弾発言ではない?

「まあ! なんですって。まだ結婚もしていない状況で、隠し子発覚など! それは、こんな人とは結婚したくないと逃げ出しても仕方ないわ。妹に浮気心を出すだけでは飽きたらず……! なんという酷い男なの!」

 王妃様は怒りのあまり王座から立ち上がり、そんな彼女に落ち着けと国王陛下は宥めた。

「王妃様。僕らは愛し合っているというのに、彼の持つ権力に阻まれ、結婚を許されません。このままでは、二人で追手さえもわからぬ遠い場所にまで逃げるしかありません!」

 哀れに訴えたジュストに、王妃様はより私たちを救わなければと思ったようだ。

「……なんですって! 私に任せなさい。貴方は慣れない地での肉体仕事に疲れて亡くなり、そちらの可愛らしいご令嬢が、寒さに震えて食べ物を食べられなくなるなんて、絶対に駄目よ! ……あなた!」

 駆け落ちした私たちが悲劇的な終わりを迎える予想をした王妃様の目は『絶対に許さない』となっていて、国王陛下も『この程度であれば許してやれ』と庇えるほどではないラザール様のやらかしを聞き、大きく溜め息をついていた。

「そうだな……結婚していない状況での隠し子があるのなら、何も知らずに貞節を守っていた婚約者への冒涜に当たるだろう。クロッシュ公爵令息ラザール、サラクラン伯爵令嬢ミシェルとの婚約解消を命ず。これは王命である。もう下がって良い」

 ラザール様は何か言おうとしていたようだけど、既に判断を下した陛下には、何も言えないと悟ったらしい。

「はっ……王命に従います」

 してやられたという悔しさへの思いからか、ジュストと私を睨み付け一礼して彼は去って行った。

「ああ……悲劇が起きる前に救うことが出来て、本当に良かったわ……これは知られている話だから聞き及んでいると思うけど、私には昔許されぬ恋に駆け落ちした妹が居たんだけど、あの子は逃げた先で強盗に襲われて亡くなってしまっているの……アシュラム伯爵、彼女をどうか守ってあげてね」

「ありがとうございます。王妃様。何もかも貴女のおかげです」

 泣いている王妃様とジュストを見て、なんだか私も釣られて泣いてしまった。

 王妃様の妹君の話は、社交界デビューする前の話のようで私はあまり詳しく知らないけど……もし、私だって妹オレリーがそんな目に遭ったのなら、駆け落ちするような状況にある恋人同士を見れば、どんな手を使ってでも救おうと思うだろう。

 悲劇の中亡くなってしまった妹を思う姉の気持ちが、痛いほどに伝わり、そんな彼女の気持ちを助けて貰えるように利用してしまったことに良心が疼いた。


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