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31 狼狽②
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だから、私はジュストからわざとらしく目を逸らして、拗ねた口ぶりで言った。
「だって、ジュストが会いに来てくれるのが、遅かったわ」
ジュストに会えたことは、確かに嬉しい。嬉しいけれど、不満があるとするならば、これしかない。だって、彼はそれまでは、毎日傍に居てくれたというのに。
「……申し訳ありません。かのお方が出席されるのが、直近で明日でしたので。ギリギリまで、粘りました。素直なお嬢様が、何かの拍子に口にしてしまう可能性もありますし……僕にとっては、一世一代の勝負ですので、ここで失敗したくなかったんです」
「かのお方って……誰のことなの?」
ジュストが私のことをどれだけ失言する女だと思っているのか気になったけどここは置いておいて、彼の言う『かのお方』の方が気になった。
「ええ。そうです。さ迷える僕らをお助けしてくれるだろう、唯一のお方です」
「……それも、直前まで私に教えてくれない訳?」
私はこの状況に不満はいっぱいあれど、ジュストのすることに間違いはないだろうという安心感もある。
ジュストがそう言うのなら、そうなのだろう。
「ええ。言ったでしょう。僕にとっては、これからは絶対に失敗出来ないことですので、不安要素をすべて排除してしまいたいんですよ」
「わかったわ。私、ジュストのこと……信じているから」
そう言えば、彼は慎重に周囲を見回して、私のことを抱きしめた。
「光栄です。お嬢様。僕は貴女を失う訳にはいきませんので……すべてを今ここで話す訳にはいかず、申し訳ありません」
安心出来るジュストの腕の中で、私は彼のことが本当に好きなのだと再確認する。
婚約しているラザール様には申し訳ないけれど、彼の納得がいくような理由で早く婚約解消すべきとも。
「……いつまで、お嬢様なの? ジュスト。貴方はもう、サラクラン伯爵邸に雇われていないようだけど」
私を『お嬢様』と呼ぶのは、サラクラン伯爵家のものだけだ。公式にはサラクラン伯爵令嬢と呼ばれるだろうし、その時にも名前に敬称が付くくらいの話だろう。
ジュストはお父様が解雇してしまったし、サラクラン伯爵家との雇用関係は切れている。
だから、今ここに居るのは貴族の身分を持つ、ただの男女二人なのだ。
「お嬢様は一生、僕の大事なお嬢様なんです。貴女をこの手にするために、これまで生きて来ました」
「……やっぱり、ジュストのお父様を叙爵されるように仕向け、フィオーラ様と結婚させたのも、貴方なの?」
ナディーヌお母様は絶対にジュストの仕業だろうと断言していたし、私もお父様のことが書かれた新聞記事を見てから確信していた。
……きっと、ジュストがそうなるように手を回したんだろうと。
「……お嬢様は僕が思っていたよりも、鋭い名探偵なんですね」
間近にあるジュストの可愛らしい顔が苦笑いをして、やっぱりこれはそうなんだと思った。
……それでは、きっと……これも、そうだわ。
「それに、オレリーの病の特効薬を、お父様が開発されたこともそうなのでしょう? ……ねえ。ジュスト。少しだけ……怖くなる。これって、私と一緒になるために、全部貴方がしたことなの?」
私の傍に澄ました顔で常に居てくれた護衛騎士ジュストは、ここまで来るためにどれだけの犠牲を払ったのかと思うと、少しだけ怖くなる。
だって、就寝まで私と一緒に居てくれるから、彼が動くとするなら、それから。睡眠時間を削ってまで、上手く行くとは限らない努力を積み重ねて、ジュストは今ここに居る。
「父親がそうなるように働きかけをしたことは、確かに事実ですけど……これが上手くいかなければ、別の手を考えようとは思っていました。男爵位ではサラクラン伯爵は絶対に説得出来ないと思っていましたし」
だから、父親を侯爵位持ちの未亡人と結婚させたの? もう……私のためにしたことだなんて、本当に信じられない。
「……ラザール様のことがあって、今思えば、良かったのかもしれないわ。あの時はこれまでのすべてを否定されたみたいに思えて、本当に辛かったけど、ジュストの想いにこうして気が付くことが出来たもの」
悪い事があっても良い事があるって、本当のことなのねと私は思って微笑んだ。
ジュストは何も言わずに微笑み、私の頬にキスをした。
なんとなく、その時の彼が何かを誤魔化したような気がしたけれど、明日のための重要な打ち合わせの中で、いつの間にか忘れてしまっていた。
「だって、ジュストが会いに来てくれるのが、遅かったわ」
ジュストに会えたことは、確かに嬉しい。嬉しいけれど、不満があるとするならば、これしかない。だって、彼はそれまでは、毎日傍に居てくれたというのに。
「……申し訳ありません。かのお方が出席されるのが、直近で明日でしたので。ギリギリまで、粘りました。素直なお嬢様が、何かの拍子に口にしてしまう可能性もありますし……僕にとっては、一世一代の勝負ですので、ここで失敗したくなかったんです」
「かのお方って……誰のことなの?」
ジュストが私のことをどれだけ失言する女だと思っているのか気になったけどここは置いておいて、彼の言う『かのお方』の方が気になった。
「ええ。そうです。さ迷える僕らをお助けしてくれるだろう、唯一のお方です」
「……それも、直前まで私に教えてくれない訳?」
私はこの状況に不満はいっぱいあれど、ジュストのすることに間違いはないだろうという安心感もある。
ジュストがそう言うのなら、そうなのだろう。
「ええ。言ったでしょう。僕にとっては、これからは絶対に失敗出来ないことですので、不安要素をすべて排除してしまいたいんですよ」
「わかったわ。私、ジュストのこと……信じているから」
そう言えば、彼は慎重に周囲を見回して、私のことを抱きしめた。
「光栄です。お嬢様。僕は貴女を失う訳にはいきませんので……すべてを今ここで話す訳にはいかず、申し訳ありません」
安心出来るジュストの腕の中で、私は彼のことが本当に好きなのだと再確認する。
婚約しているラザール様には申し訳ないけれど、彼の納得がいくような理由で早く婚約解消すべきとも。
「……いつまで、お嬢様なの? ジュスト。貴方はもう、サラクラン伯爵邸に雇われていないようだけど」
私を『お嬢様』と呼ぶのは、サラクラン伯爵家のものだけだ。公式にはサラクラン伯爵令嬢と呼ばれるだろうし、その時にも名前に敬称が付くくらいの話だろう。
ジュストはお父様が解雇してしまったし、サラクラン伯爵家との雇用関係は切れている。
だから、今ここに居るのは貴族の身分を持つ、ただの男女二人なのだ。
「お嬢様は一生、僕の大事なお嬢様なんです。貴女をこの手にするために、これまで生きて来ました」
「……やっぱり、ジュストのお父様を叙爵されるように仕向け、フィオーラ様と結婚させたのも、貴方なの?」
ナディーヌお母様は絶対にジュストの仕業だろうと断言していたし、私もお父様のことが書かれた新聞記事を見てから確信していた。
……きっと、ジュストがそうなるように手を回したんだろうと。
「……お嬢様は僕が思っていたよりも、鋭い名探偵なんですね」
間近にあるジュストの可愛らしい顔が苦笑いをして、やっぱりこれはそうなんだと思った。
……それでは、きっと……これも、そうだわ。
「それに、オレリーの病の特効薬を、お父様が開発されたこともそうなのでしょう? ……ねえ。ジュスト。少しだけ……怖くなる。これって、私と一緒になるために、全部貴方がしたことなの?」
私の傍に澄ました顔で常に居てくれた護衛騎士ジュストは、ここまで来るためにどれだけの犠牲を払ったのかと思うと、少しだけ怖くなる。
だって、就寝まで私と一緒に居てくれるから、彼が動くとするなら、それから。睡眠時間を削ってまで、上手く行くとは限らない努力を積み重ねて、ジュストは今ここに居る。
「父親がそうなるように働きかけをしたことは、確かに事実ですけど……これが上手くいかなければ、別の手を考えようとは思っていました。男爵位ではサラクラン伯爵は絶対に説得出来ないと思っていましたし」
だから、父親を侯爵位持ちの未亡人と結婚させたの? もう……私のためにしたことだなんて、本当に信じられない。
「……ラザール様のことがあって、今思えば、良かったのかもしれないわ。あの時はこれまでのすべてを否定されたみたいに思えて、本当に辛かったけど、ジュストの想いにこうして気が付くことが出来たもの」
悪い事があっても良い事があるって、本当のことなのねと私は思って微笑んだ。
ジュストは何も言わずに微笑み、私の頬にキスをした。
なんとなく、その時の彼が何かを誤魔化したような気がしたけれど、明日のための重要な打ち合わせの中で、いつの間にか忘れてしまっていた。
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