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28 手紙①
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『拝啓 愛しいミシェルお嬢様
そろそろ常に傍近くに仕えていた僕が恋しくて、枕を涙で濡らしていらっしゃる頃合いだと思います。
何故、僕があの時何も言わずに去ったかと言うと、ミシェルお嬢様は正直で嘘を付けずに、隠し事があると挙動不審になってしまうとても、とてもお可愛らしい一面があるため、こちらの準備がすべて整うまで何も言わずにいたことをどうかお許し下さい。』
私はそこまで読んで、笑ってしまいながらも、涙が出そうになってしまった。
これは絶対にラザール様が用意した、偽の手紙ではないわ。
加減が絶妙で、これを読んだ私がムカっと苛立ったとしても、すぐにその後の誉め言葉で取り戻せる程度の嫌味……絶対に、あのジュストが書いたものよ。間違いないわ。
やはりお母様も言っていた通り、ちゃんと連絡出来る方法を確保していたからこそ、ジュストはサラクラン伯爵邸を出て行く時に、あの余裕を見せていたのだ。
『ああ。お嬢様のそういうところも、僕はとても好きなんです。誤解なさらぬように。本当に可愛いですよね。一刻も早くお会いしたいです。
僕もミシェルお嬢様の傍を離れる時は、耐えがたいほどに寂しい思いを味わいました。しかし、ようやく色々と準備が整いましたので、この手紙でお知らせいたします。
先日、クランシー侯爵家より、お嬢様へお茶会の招待状が届いていると思います。そちらで偶然に会おうと思っています。
ええ。僕たち二人は何も知らないんですが、偶然そこに居合わせる予定です。偶然です。
僕の義母トリアノン女侯爵もその場にいらっしゃいますが、クランシー侯爵夫人とはそれほど仲が良い訳ではありません。ですから、クロッシュ公爵令息も、あまり警戒していないことと思われます。
だと言うのに……何故、そのお茶会を選んだかは、内緒です。
ほんの数日離れただけだというのに、ミシェルお嬢様の怒った顔が恋しいです。
それでは、数日後のお茶会で会いましょう。
ジュスト・リュシオール』
あまりに彼らしくて、これが偽物かどうかなんて、疑う余地もない。これは、絶対にジュストからの手紙だった。
「……私の怒った顔が恋しいって……なんなの。けれど、とてもジュストらしいわ。やっぱり、色々と準備を進めていたのね」
私は先日アンレーヌ村まで家出をしていたけれど、三日で彼に見つかり、そこでは、サラクラン伯爵邸へ帰らざるを得なかった。
私に仕えている護衛騎士なのだから、ジュストだってあの時、すぐに私を連れて逃げてしまえば誘拐したと思われて、後からこうだったと弁明してもお父様たちからの心証は悪かったはず。
だから、とりあえず私をサラクラン伯爵邸に置いて、追い出された彼が単独で色々と動いていた方が効率の良い方法だったと今では思える。
そして、この手紙にも書いているけれど、ジュストが後で迎えに来てくれると知っていたならば、私はもっと落ち着いて行動していただろうし……秘密を抱えられずに嘘がつけないと言えば、そうなのかもしれない。
今の段階で、サラクラン伯爵邸の中で私がジュストと連絡を取っていると思っている人は居ないだろう。だって、あっさりと彼に置いて行かれて本当に焦っていたし、すごく寂しくて、実際に落ち込んでもいた。
ようやく落ち着いて来た私へ届く手紙は、ジュストではないかと厳しく検閲されてしまうはずだから、まさかよりにもよって婚約者ラザール様の従者ザカリーが、そんなジュストと通じているなんて誰も思ってもいないはずだ。
ザカリーだって、これが仕えているラザール様にバレてしまったら、安定した身分を失い職も失うことになってしまう。彼はそれほどのかなり危ない橋を、敢えて渡ったのだ。
けれど、おそらくジュストはそれ以上の価値がある報酬を彼に支払い、二人の中で話はついているのだろう。
これまでにジュストとザカリーは特に仲の良い様子は見えなかったけれど、私とラザール様は恒例のお茶会で良く会っていたので、そこで話すようになったのかもしれない。
「……けど、嬉しいわ。ようやく、会えるのね……」
ジュストに会えると思うと嬉しくって喜びのあまり、飛び跳ねてしまいそうだった。思い余って手紙にキスをして、それを胸まで下ろしたら、そこに居た人物を見て、私は目を見開いた。
そろそろ常に傍近くに仕えていた僕が恋しくて、枕を涙で濡らしていらっしゃる頃合いだと思います。
何故、僕があの時何も言わずに去ったかと言うと、ミシェルお嬢様は正直で嘘を付けずに、隠し事があると挙動不審になってしまうとても、とてもお可愛らしい一面があるため、こちらの準備がすべて整うまで何も言わずにいたことをどうかお許し下さい。』
私はそこまで読んで、笑ってしまいながらも、涙が出そうになってしまった。
これは絶対にラザール様が用意した、偽の手紙ではないわ。
加減が絶妙で、これを読んだ私がムカっと苛立ったとしても、すぐにその後の誉め言葉で取り戻せる程度の嫌味……絶対に、あのジュストが書いたものよ。間違いないわ。
やはりお母様も言っていた通り、ちゃんと連絡出来る方法を確保していたからこそ、ジュストはサラクラン伯爵邸を出て行く時に、あの余裕を見せていたのだ。
『ああ。お嬢様のそういうところも、僕はとても好きなんです。誤解なさらぬように。本当に可愛いですよね。一刻も早くお会いしたいです。
僕もミシェルお嬢様の傍を離れる時は、耐えがたいほどに寂しい思いを味わいました。しかし、ようやく色々と準備が整いましたので、この手紙でお知らせいたします。
先日、クランシー侯爵家より、お嬢様へお茶会の招待状が届いていると思います。そちらで偶然に会おうと思っています。
ええ。僕たち二人は何も知らないんですが、偶然そこに居合わせる予定です。偶然です。
僕の義母トリアノン女侯爵もその場にいらっしゃいますが、クランシー侯爵夫人とはそれほど仲が良い訳ではありません。ですから、クロッシュ公爵令息も、あまり警戒していないことと思われます。
だと言うのに……何故、そのお茶会を選んだかは、内緒です。
ほんの数日離れただけだというのに、ミシェルお嬢様の怒った顔が恋しいです。
それでは、数日後のお茶会で会いましょう。
ジュスト・リュシオール』
あまりに彼らしくて、これが偽物かどうかなんて、疑う余地もない。これは、絶対にジュストからの手紙だった。
「……私の怒った顔が恋しいって……なんなの。けれど、とてもジュストらしいわ。やっぱり、色々と準備を進めていたのね」
私は先日アンレーヌ村まで家出をしていたけれど、三日で彼に見つかり、そこでは、サラクラン伯爵邸へ帰らざるを得なかった。
私に仕えている護衛騎士なのだから、ジュストだってあの時、すぐに私を連れて逃げてしまえば誘拐したと思われて、後からこうだったと弁明してもお父様たちからの心証は悪かったはず。
だから、とりあえず私をサラクラン伯爵邸に置いて、追い出された彼が単独で色々と動いていた方が効率の良い方法だったと今では思える。
そして、この手紙にも書いているけれど、ジュストが後で迎えに来てくれると知っていたならば、私はもっと落ち着いて行動していただろうし……秘密を抱えられずに嘘がつけないと言えば、そうなのかもしれない。
今の段階で、サラクラン伯爵邸の中で私がジュストと連絡を取っていると思っている人は居ないだろう。だって、あっさりと彼に置いて行かれて本当に焦っていたし、すごく寂しくて、実際に落ち込んでもいた。
ようやく落ち着いて来た私へ届く手紙は、ジュストではないかと厳しく検閲されてしまうはずだから、まさかよりにもよって婚約者ラザール様の従者ザカリーが、そんなジュストと通じているなんて誰も思ってもいないはずだ。
ザカリーだって、これが仕えているラザール様にバレてしまったら、安定した身分を失い職も失うことになってしまう。彼はそれほどのかなり危ない橋を、敢えて渡ったのだ。
けれど、おそらくジュストはそれ以上の価値がある報酬を彼に支払い、二人の中で話はついているのだろう。
これまでにジュストとザカリーは特に仲の良い様子は見えなかったけれど、私とラザール様は恒例のお茶会で良く会っていたので、そこで話すようになったのかもしれない。
「……けど、嬉しいわ。ようやく、会えるのね……」
ジュストに会えると思うと嬉しくって喜びのあまり、飛び跳ねてしまいそうだった。思い余って手紙にキスをして、それを胸まで下ろしたら、そこに居た人物を見て、私は目を見開いた。
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