婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。

待鳥園子

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26 呼び掛け②

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「ふふ。それは、内緒よ。お姉さま。お姉さまだって、私に隠していたことがあったでしょう?」

 私はそれを聞いて、『もしかしたら、オレリーはラザール様が自分を婚約者に望んでいると知っていたのかもしれない』と思った。

 ……けれど、そんな訳はない。それだけは、お父様も言わないだろうし、誰もが愛するこの子に悲しむしかないようなことを誰がわざわざ伝えるだろう。

 おそらく、私がジュストとのことを、ずっと黙っていたと勘違いしているのだろう。

「……ジュストと私が想いを告げ合ったのは、家出してからよ。それまでは、私はラザール様に嫁ぐと思っていたし、そういう未来が現実になることを疑ってもいなかったもの。だから、別に隠していた訳ではないわ」

「お姉さま……そうなの?」

 やはり、オレリーは私がジュストと自分の関係を、ずっと黙っていたのだと思ってたようだ。

 ふうっと大きく息をつき、私は頷いた。

「ええ。そうよ……私だって、貴族の義務は果たすつもりだったわ。けれど、ジュストと結婚出来るのなら、そうしたいの。出来れば、貴女にも私たちのことを応援してもらいたいわ……私のたった一人の妹だもの」

「お姉さま……」

「……ミシェルお嬢様。オレリーお嬢様。お取込みのところ申し訳ございません」

 ちょうどその時、開けたままにしていた私の部屋の扉を、遠慮がちに私付きのメイドサリーが叩いたので私は苦笑して言った。

「……良いわ。サリー、何かしら?」

 急ぎの用があるのに、私たちが話していたからなかなか伝えられずに機会を窺っていたのだろう。

「はい。ラザール様がミシェル様に会いたいと、いらっしゃっております。今は応接室の方へお通ししておりますが」

 本来ならば、貴族の訪問は先触れがあるはずだけど、この前に会ったラザール様は、ジュストのことで婚約者の私へ色々と不満があるようだし、そういう『気に入らない』といった気持ちを行動で表明しているのかもしれない。

 なんなのかしら……私だって不満があるのは、同じことなのに。

「ラザール様が……そうなの。支度して、すぐに行くわ。オレリー、また話は後にしましょう。身体が良くなったと言っても、無理をしてはいけないわ」

「はい……申し訳ありません。お姉さま」

 私に大事な訪問者が居ると知り、そこでは駄々は捏ねられないと思ったのか、オレリーはしゅんとして部屋から出て行った。

 私にとってあの子は妹で本当に可愛いけれど、やはり病弱で今までほとんど人に会わず慣れていないせいか、まだまだ我が侭なところが抜けていない。


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