25 / 61
25 呼び掛け①
しおりを挟む
「あ。あの本何処に行ったかしら。ジュスト知らない? ……ジュ」
私は自室でお気に入りの本がないことに気が付き、いつも傍に居てくれた彼の名前を呼ぼうとして、そう言えばもうサラクラン伯爵邸に彼は居なかったと思い直した。
邸の主であるお父様の意向に逆らって、この邸に居るなんて無理なことはわかっている。それは理解していたとしても寂しかった。
いつも一緒に居てくれたというのに、もう私の傍に居ないんだと、落ち込んでしまう。ただそこに居るだけだと言うのに、支えてくれた彼の大事さに気がついた。
彼なしでは居られないくらいに、私はジュストのことが、とても好きなのだ。
居なくなってしまったことで、その想いはより強まったと思う。
ジュストがこのまま居なくなってしまうなんて、絶対に嫌。どうにかして、連絡を取らなければ。
……とは言っても、サラクラン伯爵邸の使用人たちも妹オレリーも、一度家出をしてしまった私を完全に見張っている状態。
この前は手紙を出そうとしただけなのに、宛先を何度も確認された。あれだと、隠れてジュストと連絡を取ろうとしても彼らに受取人まで確認されてしまうだろう。
けれど、そんなことをしなくても、私にはジュストが何処に居るかすらもわからないというのに。
これではこの先、ジュストとどうすると相談することだって出来ない。ジュストのことだから考えがあるに違いないとは思いつつ、逆に何も考えてなかったのでは? とまで思えて来てしまう……大きく溜め息をついてしまった時、扉が勢いよく開く音が聞こえた。
「……お姉様!」
「どうしたの? オレリー。驚いたわ」
オレリーはいつも大人しく、姉の私の前でも礼儀正しい。彼女のこんな無作法な振る舞いは珍しく、とても驚いてしまった。
「何度も言うけど……元護衛騎士で……まあ、貴族の身分を得たとは言え、ジュストと恋人になったばかりか、彼と結婚したいなんて、絶対に駄目よ! あいつ、本当に性格悪いのよ!」
オレリーは私がラザール様と婚約解消してジュストと結婚したいと言っていると知って、絶対に阻止したいと考えているようだ。
何度かこれを伝えに来たけれど、私が頑として受け付けないものだから、オレリーの方も絶対に折れないと意地になってしまっている。
私だってこればかりは、可愛い妹オレリーが望んでいるからと引く訳にもいかない。
そして……父もラザール様がオレリーと婚約したがったことは、流石に知らせていないようだ。
「知っているわよ……そこが、好きなのよ!」
ジュストが性格が悪いことなんて、付き合いの長い私なんて十年ほど前から、ずっと知っているのだ。
ジュストの場合、好きな女の子だから虐めたいなどという可愛いものではない。多分、困っていたりイライラしているところを見て彼にしかわからぬ視点で楽しんでいるから、タチが悪いと思う。
……そんな彼のことを、世界で一番好きだと思っている私も相当おかしいとは思うけど。
「お姉様……男の趣味が悪過ぎよ!」
それは否定出来ないかもしれないけど、妹に騒がれたくらいで、好きな人を好きでなくなる決意をする姉は居ないと思う。私だってそうよ。
「ねえ。オレリー。私のことをいくら悪く言っても良いけど、私の好きな人のことを悪く言うのは止めてちょうだい。貴女だって、誰か好きな人が出来れば私の気持ちをわかってくれると思うわ」
オレリーは健康になって、これから楽しい貴族令嬢生活を開始するはずだ。社交界デビューだってちょうど良い年齢なのだし、もしこの子が夜会に出れば、貴族令息たちが列を成すはずよ。
……ひと目で恋に落ちたラザール様のことは置いておいたとしても、本当に私の妹は可愛いんだから。
「まあ! お姉さま。私のことを、いつまでも病弱で寝たきりだなんて思わないで。私にだって、すでに好きな人くらい居るもの」
私は妹が胸を張り言った『好きな人が居る』という言葉を聞いて、あまりに驚き過ぎて、唖然として声が出なくなってしまった。
え。どういうこと? ……オレリーに、好きな人が居るですって?
「……なんですって? それは、一体、誰のことなの?」
妹オレリーに好きな人が居るとなれば、色々と話は変わって来てしまう。そもそもの話、祖母同士の大昔にした約束なんて、それほど拘束力のあるものでもないと思うけれど……それにしたって。
私は自室でお気に入りの本がないことに気が付き、いつも傍に居てくれた彼の名前を呼ぼうとして、そう言えばもうサラクラン伯爵邸に彼は居なかったと思い直した。
邸の主であるお父様の意向に逆らって、この邸に居るなんて無理なことはわかっている。それは理解していたとしても寂しかった。
いつも一緒に居てくれたというのに、もう私の傍に居ないんだと、落ち込んでしまう。ただそこに居るだけだと言うのに、支えてくれた彼の大事さに気がついた。
彼なしでは居られないくらいに、私はジュストのことが、とても好きなのだ。
居なくなってしまったことで、その想いはより強まったと思う。
ジュストがこのまま居なくなってしまうなんて、絶対に嫌。どうにかして、連絡を取らなければ。
……とは言っても、サラクラン伯爵邸の使用人たちも妹オレリーも、一度家出をしてしまった私を完全に見張っている状態。
この前は手紙を出そうとしただけなのに、宛先を何度も確認された。あれだと、隠れてジュストと連絡を取ろうとしても彼らに受取人まで確認されてしまうだろう。
けれど、そんなことをしなくても、私にはジュストが何処に居るかすらもわからないというのに。
これではこの先、ジュストとどうすると相談することだって出来ない。ジュストのことだから考えがあるに違いないとは思いつつ、逆に何も考えてなかったのでは? とまで思えて来てしまう……大きく溜め息をついてしまった時、扉が勢いよく開く音が聞こえた。
「……お姉様!」
「どうしたの? オレリー。驚いたわ」
オレリーはいつも大人しく、姉の私の前でも礼儀正しい。彼女のこんな無作法な振る舞いは珍しく、とても驚いてしまった。
「何度も言うけど……元護衛騎士で……まあ、貴族の身分を得たとは言え、ジュストと恋人になったばかりか、彼と結婚したいなんて、絶対に駄目よ! あいつ、本当に性格悪いのよ!」
オレリーは私がラザール様と婚約解消してジュストと結婚したいと言っていると知って、絶対に阻止したいと考えているようだ。
何度かこれを伝えに来たけれど、私が頑として受け付けないものだから、オレリーの方も絶対に折れないと意地になってしまっている。
私だってこればかりは、可愛い妹オレリーが望んでいるからと引く訳にもいかない。
そして……父もラザール様がオレリーと婚約したがったことは、流石に知らせていないようだ。
「知っているわよ……そこが、好きなのよ!」
ジュストが性格が悪いことなんて、付き合いの長い私なんて十年ほど前から、ずっと知っているのだ。
ジュストの場合、好きな女の子だから虐めたいなどという可愛いものではない。多分、困っていたりイライラしているところを見て彼にしかわからぬ視点で楽しんでいるから、タチが悪いと思う。
……そんな彼のことを、世界で一番好きだと思っている私も相当おかしいとは思うけど。
「お姉様……男の趣味が悪過ぎよ!」
それは否定出来ないかもしれないけど、妹に騒がれたくらいで、好きな人を好きでなくなる決意をする姉は居ないと思う。私だってそうよ。
「ねえ。オレリー。私のことをいくら悪く言っても良いけど、私の好きな人のことを悪く言うのは止めてちょうだい。貴女だって、誰か好きな人が出来れば私の気持ちをわかってくれると思うわ」
オレリーは健康になって、これから楽しい貴族令嬢生活を開始するはずだ。社交界デビューだってちょうど良い年齢なのだし、もしこの子が夜会に出れば、貴族令息たちが列を成すはずよ。
……ひと目で恋に落ちたラザール様のことは置いておいたとしても、本当に私の妹は可愛いんだから。
「まあ! お姉さま。私のことを、いつまでも病弱で寝たきりだなんて思わないで。私にだって、すでに好きな人くらい居るもの」
私は妹が胸を張り言った『好きな人が居る』という言葉を聞いて、あまりに驚き過ぎて、唖然として声が出なくなってしまった。
え。どういうこと? ……オレリーに、好きな人が居るですって?
「……なんですって? それは、一体、誰のことなの?」
妹オレリーに好きな人が居るとなれば、色々と話は変わって来てしまう。そもそもの話、祖母同士の大昔にした約束なんて、それほど拘束力のあるものでもないと思うけれど……それにしたって。
299
お気に入りに追加
1,141
あなたにおすすめの小説
敵国軍人に惚れられたんだけど、女装がばれたらやばい。
水瀬かずか
BL
ルカは、革命軍を支援していた父親が軍に捕まったせいで、軍から逃亡・潜伏中だった。
どうやって潜伏するかって? 女装である。
そしたら女装が美人過ぎて、イケオジの大佐にめちゃくちゃ口説かれるはめになった。
これってさぁ……、女装がバレたら、ヤバくない……?
ムーンライトノベルズさまにて公開中の物の加筆修正版(ただし性行為抜き)です。
表紙にR18表記がされていますが、作品はR15です。
illustration 吉杜玖美さま
茶番には付き合っていられません
わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。
婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。
これではまるで私の方が邪魔者だ。
苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。
どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。
彼が何をしたいのかさっぱり分からない。
もうこんな茶番に付き合っていられない。
そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。
【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される
鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。
レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。
社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。
そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。
レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。
R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。
ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。
私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。
彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。
それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。
そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。
公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。
そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。
「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」
こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。
彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。
同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。
静かで穏やかな生活を望む死神と呼ばれた皇子と結婚した王女の人生
永江寧々
恋愛
小さな国の王女として生まれたアーデルは警戒心が強く、人の輪に入っていくのが苦手。怒声や人の感情の起伏を見ていると心臓がおかしくなりそうなほど怖くなる。だから結婚相手は優しくて物静かな人で、結婚生活は静かで穏やかなものがいいと望んでいた。
そんなアーデルに突然結婚話が持ち上がる。ヒュドール帝国からの申し出があったと。相手は公務にもほとんど顔を出さない第七皇子ラビ。陰で根暗と呼ばれるほど暗い彼と会った事はないが、そう呼ばれている事を知っていたから結婚を許諾した。
顔の半分を仮面で覆ってはいたが、引っ込み思案ですぐに謝罪する人見知り。とても優しい人で結婚への不安などなかった。
望んだ穏やかな生活が手に入ったと喜ぶアーデルだが、そうもいかない事情が彼にはあって……それが穏やかな生活を脅かす影となり付きまとうことになるとはアーデルは想像もしていなかった。
※番外編は全5話となっております。
兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜
藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。
__婚約破棄、大歓迎だ。
そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った!
勝負は一瞬!王子は場外へ!
シスコン兄と無自覚ブラコン妹。
そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。
周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!?
短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています
カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる