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25 呼び掛け①
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「あ。あの本何処に行ったかしら。ジュスト知らない? ……ジュ」
私は自室でお気に入りの本がないことに気が付き、いつも傍に居てくれた彼の名前を呼ぼうとして、そう言えばもうサラクラン伯爵邸に彼は居なかったと思い直した。
邸の主であるお父様の意向に逆らって、この邸に居るなんて無理なことはわかっている。それは理解していたとしても寂しかった。
いつも一緒に居てくれたというのに、もう私の傍に居ないんだと、落ち込んでしまう。ただそこに居るだけだと言うのに、支えてくれた彼の大事さに気がついた。
彼なしでは居られないくらいに、私はジュストのことが、とても好きなのだ。
居なくなってしまったことで、その想いはより強まったと思う。
ジュストがこのまま居なくなってしまうなんて、絶対に嫌。どうにかして、連絡を取らなければ。
……とは言っても、サラクラン伯爵邸の使用人たちも妹オレリーも、一度家出をしてしまった私を完全に見張っている状態。
この前は手紙を出そうとしただけなのに、宛先を何度も確認された。あれだと、隠れてジュストと連絡を取ろうとしても彼らに受取人まで確認されてしまうだろう。
けれど、そんなことをしなくても、私にはジュストが何処に居るかすらもわからないというのに。
これではこの先、ジュストとどうすると相談することだって出来ない。ジュストのことだから考えがあるに違いないとは思いつつ、逆に何も考えてなかったのでは? とまで思えて来てしまう……大きく溜め息をついてしまった時、扉が勢いよく開く音が聞こえた。
「……お姉様!」
「どうしたの? オレリー。驚いたわ」
オレリーはいつも大人しく、姉の私の前でも礼儀正しい。彼女のこんな無作法な振る舞いは珍しく、とても驚いてしまった。
「何度も言うけど……元護衛騎士で……まあ、貴族の身分を得たとは言え、ジュストと恋人になったばかりか、彼と結婚したいなんて、絶対に駄目よ! あいつ、本当に性格悪いのよ!」
オレリーは私がラザール様と婚約解消してジュストと結婚したいと言っていると知って、絶対に阻止したいと考えているようだ。
何度かこれを伝えに来たけれど、私が頑として受け付けないものだから、オレリーの方も絶対に折れないと意地になってしまっている。
私だってこればかりは、可愛い妹オレリーが望んでいるからと引く訳にもいかない。
そして……父もラザール様がオレリーと婚約したがったことは、流石に知らせていないようだ。
「知っているわよ……そこが、好きなのよ!」
ジュストが性格が悪いことなんて、付き合いの長い私なんて十年ほど前から、ずっと知っているのだ。
ジュストの場合、好きな女の子だから虐めたいなどという可愛いものではない。多分、困っていたりイライラしているところを見て彼にしかわからぬ視点で楽しんでいるから、タチが悪いと思う。
……そんな彼のことを、世界で一番好きだと思っている私も相当おかしいとは思うけど。
「お姉様……男の趣味が悪過ぎよ!」
それは否定出来ないかもしれないけど、妹に騒がれたくらいで、好きな人を好きでなくなる決意をする姉は居ないと思う。私だってそうよ。
「ねえ。オレリー。私のことをいくら悪く言っても良いけど、私の好きな人のことを悪く言うのは止めてちょうだい。貴女だって、誰か好きな人が出来れば私の気持ちをわかってくれると思うわ」
オレリーは健康になって、これから楽しい貴族令嬢生活を開始するはずだ。社交界デビューだってちょうど良い年齢なのだし、もしこの子が夜会に出れば、貴族令息たちが列を成すはずよ。
……ひと目で恋に落ちたラザール様のことは置いておいたとしても、本当に私の妹は可愛いんだから。
「まあ! お姉さま。私のことを、いつまでも病弱で寝たきりだなんて思わないで。私にだって、すでに好きな人くらい居るもの」
私は妹が胸を張り言った『好きな人が居る』という言葉を聞いて、あまりに驚き過ぎて、唖然として声が出なくなってしまった。
え。どういうこと? ……オレリーに、好きな人が居るですって?
「……なんですって? それは、一体、誰のことなの?」
妹オレリーに好きな人が居るとなれば、色々と話は変わって来てしまう。そもそもの話、祖母同士の大昔にした約束なんて、それほど拘束力のあるものでもないと思うけれど……それにしたって。
私は自室でお気に入りの本がないことに気が付き、いつも傍に居てくれた彼の名前を呼ぼうとして、そう言えばもうサラクラン伯爵邸に彼は居なかったと思い直した。
邸の主であるお父様の意向に逆らって、この邸に居るなんて無理なことはわかっている。それは理解していたとしても寂しかった。
いつも一緒に居てくれたというのに、もう私の傍に居ないんだと、落ち込んでしまう。ただそこに居るだけだと言うのに、支えてくれた彼の大事さに気がついた。
彼なしでは居られないくらいに、私はジュストのことが、とても好きなのだ。
居なくなってしまったことで、その想いはより強まったと思う。
ジュストがこのまま居なくなってしまうなんて、絶対に嫌。どうにかして、連絡を取らなければ。
……とは言っても、サラクラン伯爵邸の使用人たちも妹オレリーも、一度家出をしてしまった私を完全に見張っている状態。
この前は手紙を出そうとしただけなのに、宛先を何度も確認された。あれだと、隠れてジュストと連絡を取ろうとしても彼らに受取人まで確認されてしまうだろう。
けれど、そんなことをしなくても、私にはジュストが何処に居るかすらもわからないというのに。
これではこの先、ジュストとどうすると相談することだって出来ない。ジュストのことだから考えがあるに違いないとは思いつつ、逆に何も考えてなかったのでは? とまで思えて来てしまう……大きく溜め息をついてしまった時、扉が勢いよく開く音が聞こえた。
「……お姉様!」
「どうしたの? オレリー。驚いたわ」
オレリーはいつも大人しく、姉の私の前でも礼儀正しい。彼女のこんな無作法な振る舞いは珍しく、とても驚いてしまった。
「何度も言うけど……元護衛騎士で……まあ、貴族の身分を得たとは言え、ジュストと恋人になったばかりか、彼と結婚したいなんて、絶対に駄目よ! あいつ、本当に性格悪いのよ!」
オレリーは私がラザール様と婚約解消してジュストと結婚したいと言っていると知って、絶対に阻止したいと考えているようだ。
何度かこれを伝えに来たけれど、私が頑として受け付けないものだから、オレリーの方も絶対に折れないと意地になってしまっている。
私だってこればかりは、可愛い妹オレリーが望んでいるからと引く訳にもいかない。
そして……父もラザール様がオレリーと婚約したがったことは、流石に知らせていないようだ。
「知っているわよ……そこが、好きなのよ!」
ジュストが性格が悪いことなんて、付き合いの長い私なんて十年ほど前から、ずっと知っているのだ。
ジュストの場合、好きな女の子だから虐めたいなどという可愛いものではない。多分、困っていたりイライラしているところを見て彼にしかわからぬ視点で楽しんでいるから、タチが悪いと思う。
……そんな彼のことを、世界で一番好きだと思っている私も相当おかしいとは思うけど。
「お姉様……男の趣味が悪過ぎよ!」
それは否定出来ないかもしれないけど、妹に騒がれたくらいで、好きな人を好きでなくなる決意をする姉は居ないと思う。私だってそうよ。
「ねえ。オレリー。私のことをいくら悪く言っても良いけど、私の好きな人のことを悪く言うのは止めてちょうだい。貴女だって、誰か好きな人が出来れば私の気持ちをわかってくれると思うわ」
オレリーは健康になって、これから楽しい貴族令嬢生活を開始するはずだ。社交界デビューだってちょうど良い年齢なのだし、もしこの子が夜会に出れば、貴族令息たちが列を成すはずよ。
……ひと目で恋に落ちたラザール様のことは置いておいたとしても、本当に私の妹は可愛いんだから。
「まあ! お姉さま。私のことを、いつまでも病弱で寝たきりだなんて思わないで。私にだって、すでに好きな人くらい居るもの」
私は妹が胸を張り言った『好きな人が居る』という言葉を聞いて、あまりに驚き過ぎて、唖然として声が出なくなってしまった。
え。どういうこと? ……オレリーに、好きな人が居るですって?
「……なんですって? それは、一体、誰のことなの?」
妹オレリーに好きな人が居るとなれば、色々と話は変わって来てしまう。そもそもの話、祖母同士の大昔にした約束なんて、それほど拘束力のあるものでもないと思うけれど……それにしたって。
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