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19 許されない③
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「ミシェルお姉様! お帰りなさい!」
呆然として彼の乗った馬車を見送っていた私の背中に、抱きついた柔らかい感触。
「ああ。オレリー……心配させてしまって、ごめんなさい」
向き直った私の目に映るのは、まるで妖精のような美しく儚い容姿を持つ妹オレリーだった。今流行のふわふわとした質感のドレスを纏っている事も相まって、今にも消えてしまいそうなくらいに美しい。
「お姉様、家出をしたって本当なの? 何があったの……どうして?」
それは私の婚約者が、貴女に恋をしてしまったから……なんて、何の罪もないオレリーにここで言えるはずもない。
「っ……なんだか、何もかも嫌になっただけなの。けれど、こうして戻って来たから大丈夫よ。オレリー。貴女、身体は大丈夫なの?」
私が心配して聞けば、オレリーは微笑んで首を横に振った。
「ええ。お姉様。あの特効薬を飲み出して、嘘のように身体が楽なのよ。呼吸もしやすくなって、動いても身体のどこも傷まないの。ほら」
身体を動かして見せる私の妹は、私にとって生まれてから当たり前のことが出来ると、本当に嬉しそうに笑う。
それがどんなに嬉しいか、身体の弱い彼女が育つのを、ずっと傍で見て来た私には良くわかった。
「良かったわ。私も嬉しい。お母様は、今どこに居るの?」
「実は……お姉様が家出して居なくなったと聞いて、倒れてしまったの。けれど、無事だとジュストからの手紙が届いて、だいぶ元気になって来たわ」
言いにくそうに顔を曇らせたオレリーを見て、私は喉に罪悪感が込み上げた。
「……そう。お母様にも、悪いことをしてしまったわね」
美しいお母様そっくりの容姿を持つオレリーは、身体が弱いところも受け継いでしまったようで、ナディーヌお母様も彼女と同じように身体が弱い。
私から離れたオレリーは先導するかのように、お母様の部屋へと歩き出した。それに続いて歩き出して、お母様にどう謝るべきかと思った。
家出する時には全てを捨てて、家族にはもう会わないと決意したけれど……こうして、もう一度会ってからあの決意を思い出すのは無理だった。
「ねえ。お姉様。ジュストが見つけたと言う、アンレーヌ村はどうだったの? 行ってみたいと、いつもお姉様が言っていた場所でしょう?」
隣を歩くオレリーは、私以上に外に出たことがない。
辻馬車で行けば片道で三日掛かるというジュストの遠い故郷アンレーヌ村が、とても気になっている様子だった。
「ええ……話に聞いていた通りに、素敵だったわ。民家の屋根の色が色鮮やかで、とても可愛いのよ」
今思えば本当に、可愛らしい村だった。村長も素敵な人だったし、父に反対されてすんなり出て行ってしまったジュストと結婚出来ないのであれば、彼を頼ろうと思う。
「私も行ってみたいなあ……お姉様、落ち着いたら、私と旅行に行きましょう」
「ええ。そうね。この調子だと、すぐに旅行出来そうだわ。オレリー」
新しく開発された薬でだいぶ身体が楽になったオレリーは、本当に普通の女の子になったようだった。
社交界デビューも、適齢の年齢に間に合うかもしれない。
「これからお姉様と、いろんなところに行けますね! 私、とっても楽しみです!」
見違えるように元気になったオレリーは無邪気に笑い、そんな妹が大好きな私は、楽しそうな彼女を見て本当に嬉しかった。
けど、目の前で婚約者ラザール様がオレリーに恋に落ちた、その瞬間。
可愛い妹のことをほんの少しだけでも憎く感じたことは、この先の未来へ進むために私は認めなければいけない。
呆然として彼の乗った馬車を見送っていた私の背中に、抱きついた柔らかい感触。
「ああ。オレリー……心配させてしまって、ごめんなさい」
向き直った私の目に映るのは、まるで妖精のような美しく儚い容姿を持つ妹オレリーだった。今流行のふわふわとした質感のドレスを纏っている事も相まって、今にも消えてしまいそうなくらいに美しい。
「お姉様、家出をしたって本当なの? 何があったの……どうして?」
それは私の婚約者が、貴女に恋をしてしまったから……なんて、何の罪もないオレリーにここで言えるはずもない。
「っ……なんだか、何もかも嫌になっただけなの。けれど、こうして戻って来たから大丈夫よ。オレリー。貴女、身体は大丈夫なの?」
私が心配して聞けば、オレリーは微笑んで首を横に振った。
「ええ。お姉様。あの特効薬を飲み出して、嘘のように身体が楽なのよ。呼吸もしやすくなって、動いても身体のどこも傷まないの。ほら」
身体を動かして見せる私の妹は、私にとって生まれてから当たり前のことが出来ると、本当に嬉しそうに笑う。
それがどんなに嬉しいか、身体の弱い彼女が育つのを、ずっと傍で見て来た私には良くわかった。
「良かったわ。私も嬉しい。お母様は、今どこに居るの?」
「実は……お姉様が家出して居なくなったと聞いて、倒れてしまったの。けれど、無事だとジュストからの手紙が届いて、だいぶ元気になって来たわ」
言いにくそうに顔を曇らせたオレリーを見て、私は喉に罪悪感が込み上げた。
「……そう。お母様にも、悪いことをしてしまったわね」
美しいお母様そっくりの容姿を持つオレリーは、身体が弱いところも受け継いでしまったようで、ナディーヌお母様も彼女と同じように身体が弱い。
私から離れたオレリーは先導するかのように、お母様の部屋へと歩き出した。それに続いて歩き出して、お母様にどう謝るべきかと思った。
家出する時には全てを捨てて、家族にはもう会わないと決意したけれど……こうして、もう一度会ってからあの決意を思い出すのは無理だった。
「ねえ。お姉様。ジュストが見つけたと言う、アンレーヌ村はどうだったの? 行ってみたいと、いつもお姉様が言っていた場所でしょう?」
隣を歩くオレリーは、私以上に外に出たことがない。
辻馬車で行けば片道で三日掛かるというジュストの遠い故郷アンレーヌ村が、とても気になっている様子だった。
「ええ……話に聞いていた通りに、素敵だったわ。民家の屋根の色が色鮮やかで、とても可愛いのよ」
今思えば本当に、可愛らしい村だった。村長も素敵な人だったし、父に反対されてすんなり出て行ってしまったジュストと結婚出来ないのであれば、彼を頼ろうと思う。
「私も行ってみたいなあ……お姉様、落ち着いたら、私と旅行に行きましょう」
「ええ。そうね。この調子だと、すぐに旅行出来そうだわ。オレリー」
新しく開発された薬でだいぶ身体が楽になったオレリーは、本当に普通の女の子になったようだった。
社交界デビューも、適齢の年齢に間に合うかもしれない。
「これからお姉様と、いろんなところに行けますね! 私、とっても楽しみです!」
見違えるように元気になったオレリーは無邪気に笑い、そんな妹が大好きな私は、楽しそうな彼女を見て本当に嬉しかった。
けど、目の前で婚約者ラザール様がオレリーに恋に落ちた、その瞬間。
可愛い妹のことをほんの少しだけでも憎く感じたことは、この先の未来へ進むために私は認めなければいけない。
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