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18 許されない②
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「もう良いから、落ち着きなさい。たとえ、ジュストが貴族の位を得ようが、お前は現在クロッシュ公爵家のラザール様と婚約しているんだ」
「……けれど、ラザール様はオレリーと結婚すれば良いのだわ。私とあの子は、同じサラクラン伯爵家の姉妹なのだから」
ここで私がジュストを追っても、すぐにここに連れ戻されてしまう。だって、私のお父様であるサラクラン伯爵の邸で彼の意向が一番に優先されるから。
「何を言い出すんだ。止めなさい……ミシェルとあの子は、姉妹だとしても違う人間だろう」
眉を顰めたお父様は、私にとても良く似ている。金髪に緑色の目、そして、美しく整ったと例えるよりも、可愛らしく愛嬌のある顔立ち。
見慣れた父の顔が険しく歪んでいるのを見て、私は悲しくなった。父は私の言いたいことだって既に承知しているはずなのに。
「だって……ラザール様は、あの子を望んだんでしょう。でしたら、それでもう良いはずです!」
ラザール様は自分の望んだ女の子オレリーと婚約出来るのだから、何の問題もないはず。
お父様は私がまさかそれを知っているとは思わなかったのか、とても驚いている表情になっていた。
「おい。どこで、それを知ったんだ? まさか、ジュストから聞いたのではないだろうな……?」
さっき涼しい顔をして出て行った護衛騎士ジュストを疑っているお父様に、私はすぐにそれを否定した。
「まさか! ジュストはそのような事は、私には一言も。私から彼に言ったんです。ジュストだって、驚いている様子でした。けれど、どうして私がそれを知っているかは、絶対に言いません」
実はメイドの噂話を立ち聞きしたからだけど、それを私がお父様に言えば、この邸から何人もメイドがいなくなってしまうことはわかっていた。
人の好いお父様だって使用人を雇用している立場があるし、甘い顔をしてはいけないと理解しているからだ。
私は無言でお父様と見つめ合い、観念したかのように大きく息をついたのは、お父様の方だった。
「とにかく、お前は頭を冷やしなさい。ミシェルが家出して居なくなったと聞いて、大変な騒動になった。三日目にジュストからお前を見つけたので連れ帰ると早馬の手紙が届いた時は、皆がどれだけ安心したことか」
「はい……ご心配をかけてしまって、ごめんなさい」
そのことについては、私が何度も謝るしかない。けれど、貴族であることもラザール様の婚約者である事も捨てようと思えば、そうするしかないと思った。
そこまで思い詰めての家出だったのだから。
「あれを知ったのなら、お前がこうして家出した理由も理解した。だが、お前たちには主従としての距離感はあるようだったし、ジュストが貴族の身分を得ようとするほどお前に本気だとは知らなかった。出て行って貰う以外はない」
「……ジュストのお父様が、叙爵されたのは、ただの偶然ですわ。お父様」
ジュストのお父様が功績を認められて叙爵をされたのはただの偶然で、そんな彼が公爵位を持つ未亡人と結婚することになったのも、別にそうしようとしてそうなった訳でもない。
そんな義理の母に気に入られて、彼が従属爵位を授かることになったのも。
「本当にお前は……いや、もう良い。下がりなさい。ナディーヌとオレリーも心配していたから、帰って来た挨拶をするように」
額に手をやったお父様は、まるで私を追い払うかのように手を振った。
……言われなくても!
父に退室することを許された私は慌ててさっき出て行けと言われた通り、部屋を出て行ったジュストが向かったはずの、使用人たちが住む三階へと向かった。
二階から階段を上がろうとした時に窓を何気なく見れば、旅装のジュストは既に外に居て大きな鞄ひとつをその手に持っていた。
「……え。ジュスト!?」
窓から自分を見る私に気がついたのか、ジュストは片手を振って爽やかに微笑んでいた。
そして、さっき私たちが乗って帰って来たはずの馬車へとあっさり乗り込んで行った。
……うっ……嘘でしょう! 私と結婚するって言っていたはずなのに、こんなにあっさり出て行って、どうするつもりなの!?
「……けれど、ラザール様はオレリーと結婚すれば良いのだわ。私とあの子は、同じサラクラン伯爵家の姉妹なのだから」
ここで私がジュストを追っても、すぐにここに連れ戻されてしまう。だって、私のお父様であるサラクラン伯爵の邸で彼の意向が一番に優先されるから。
「何を言い出すんだ。止めなさい……ミシェルとあの子は、姉妹だとしても違う人間だろう」
眉を顰めたお父様は、私にとても良く似ている。金髪に緑色の目、そして、美しく整ったと例えるよりも、可愛らしく愛嬌のある顔立ち。
見慣れた父の顔が険しく歪んでいるのを見て、私は悲しくなった。父は私の言いたいことだって既に承知しているはずなのに。
「だって……ラザール様は、あの子を望んだんでしょう。でしたら、それでもう良いはずです!」
ラザール様は自分の望んだ女の子オレリーと婚約出来るのだから、何の問題もないはず。
お父様は私がまさかそれを知っているとは思わなかったのか、とても驚いている表情になっていた。
「おい。どこで、それを知ったんだ? まさか、ジュストから聞いたのではないだろうな……?」
さっき涼しい顔をして出て行った護衛騎士ジュストを疑っているお父様に、私はすぐにそれを否定した。
「まさか! ジュストはそのような事は、私には一言も。私から彼に言ったんです。ジュストだって、驚いている様子でした。けれど、どうして私がそれを知っているかは、絶対に言いません」
実はメイドの噂話を立ち聞きしたからだけど、それを私がお父様に言えば、この邸から何人もメイドがいなくなってしまうことはわかっていた。
人の好いお父様だって使用人を雇用している立場があるし、甘い顔をしてはいけないと理解しているからだ。
私は無言でお父様と見つめ合い、観念したかのように大きく息をついたのは、お父様の方だった。
「とにかく、お前は頭を冷やしなさい。ミシェルが家出して居なくなったと聞いて、大変な騒動になった。三日目にジュストからお前を見つけたので連れ帰ると早馬の手紙が届いた時は、皆がどれだけ安心したことか」
「はい……ご心配をかけてしまって、ごめんなさい」
そのことについては、私が何度も謝るしかない。けれど、貴族であることもラザール様の婚約者である事も捨てようと思えば、そうするしかないと思った。
そこまで思い詰めての家出だったのだから。
「あれを知ったのなら、お前がこうして家出した理由も理解した。だが、お前たちには主従としての距離感はあるようだったし、ジュストが貴族の身分を得ようとするほどお前に本気だとは知らなかった。出て行って貰う以外はない」
「……ジュストのお父様が、叙爵されたのは、ただの偶然ですわ。お父様」
ジュストのお父様が功績を認められて叙爵をされたのはただの偶然で、そんな彼が公爵位を持つ未亡人と結婚することになったのも、別にそうしようとしてそうなった訳でもない。
そんな義理の母に気に入られて、彼が従属爵位を授かることになったのも。
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……言われなくても!
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「……え。ジュスト!?」
窓から自分を見る私に気がついたのか、ジュストは片手を振って爽やかに微笑んでいた。
そして、さっき私たちが乗って帰って来たはずの馬車へとあっさり乗り込んで行った。
……うっ……嘘でしょう! 私と結婚するって言っていたはずなのに、こんなにあっさり出て行って、どうするつもりなの!?
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