上 下
12 / 66

12 本当の気持ち③

しおりを挟む
「やっ……止めないで」

「かしこまりました」

 ジュストの唇は首の辺りにいくつも赤い跡を残しながら、下へ下へと降りていった。

「っ……ジュストっ……」

「申し訳ありません。痛かったです? これでは、痕に残ってしまいますね……」

 私の鎖骨に付いた赤い痕は、確かに他のものと比べて色が濃い。そして、ジュストはそこで呆気なく身体を離した。

「……どうして?」

 まだまだこの行為は続くだろうと思っていた私が驚いて見上げれば、ジュストは苦笑して上着を着るところだった。

「もう少し……我慢強いと思っていたんですが……すみません。ここまでにしておきます」

「どうして? 私たち結婚するんだし……良いでしょう?」

 私たち貴族令嬢は初夜まで純潔を守らねばと口では言いつつ、結婚の決まった婚約者と楽しんでいる子も居る。実際のところ、私とラザール様のようにキスも交わしていない方が珍しい。私たちはある程度、情報交換をしていたのだ。

 ジュストは両手で耳をパッと塞ぎ、目を閉じて、しばし無言だった。

「はー。危ない……サラクラン伯爵邸のシェフのジョンが夏祭りで女装して踊っているところを思い出して乗り切りました。まあ、まだ婚約している訳でもないですし、ここまでにしておきます。よしよしして頭を撫でてくれても良いですよ」

「ジョンの女装姿ですって? 私も見たかったわ」

 夏祭りは使用人たちは羽目を外すと聞いていたけれど、ジュストもそんな中で女装していたのかもしれない。

「ええ。彼のおかげで乗り切れて感謝しています。自慢の鋼の理性が終わってしまうところでした。危なかったです」

 てきぱきと私の服を直して、なんならドレスも元通りに着付けてくれた。

「……どうして、あれ以上しなかったの?」

 うずうずと高まりゆく行為に期待していたのは私だけだったのかと問えば、ジュストは微笑んで答えた。

「僕は三手先を読むを身上にしているんですが、快感に悶えるお嬢様の可愛さを完全に計算違いしておりました。ですが、ミシェルお嬢様への愛ゆえにギリギリで我慢することが出来たので、今はほっと一安心しております」

「それなら、別に我慢しなくても良かったのに……」

 途中で寸止めされてしまった私は、なんだか不完全燃焼だった。

「いえ。それは無理でした……けど、あそこまでいって、途中で止めようと踏みとどまった僕に拍手して欲しいです。お嬢様」

 これは揶揄っているのか大真面目なのか、判断のつかない私はベッドに座ったままで大きく息を吐いた。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

婚約破棄されて追放された私、今は隣国で充実な生活送っていますわよ? それがなにか?

鶯埜 餡
恋愛
 バドス王国の侯爵令嬢アメリアは無実の罪で王太子との婚約破棄、そして国外追放された。  今ですか?  めちゃくちゃ充実してますけど、なにか?

追放された悪役令嬢は辺境にて隠し子を養育する

3ツ月 葵(ミツヅキ アオイ)
恋愛
 婚約者である王太子からの突然の断罪!  それは自分の婚約者を奪おうとする義妹に嫉妬してイジメをしていたエステルを糾弾するものだった。  しかしこれは義妹に仕組まれた罠であったのだ。  味方のいないエステルは理不尽にも王城の敷地の端にある粗末な離れへと幽閉される。 「あぁ……。私は一生涯ここから出ることは叶わず、この場所で独り朽ち果ててしまうのね」  エステルは絶望の中で高い塀からのぞく狭い空を見上げた。  そこでの生活も数ヵ月が経って落ち着いてきた頃に突然の来訪者が。 「お姉様。ここから出してさし上げましょうか? そのかわり……」  義妹はエステルに悪魔の様な契約を押し付けようとしてくるのであった。

【完結】彼の瞳に映るのは  

たろ
恋愛
 今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。  優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。  そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。  わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。 ★ 短編から長編へ変更しました。

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

元王妃は時間をさかのぼったため、今度は愛してもらえる様に、(殿下は論外)頑張るらしい。

あはははは
恋愛
本日わたくし、ユリア アーベントロートは、処刑されるそうです。 願わくは、来世は愛されて生きてみたいですね。 王妃になるために生まれ、王妃になるための血を吐くような教育にも耐えた、ユリアの真意はなんであっただろう。 わあああぁ  人々の歓声が上がる。そして王は言った。 「皆の者、悪女 ユリア アーベントロートは、処刑された!」 誰も知らない。知っていても誰も理解しない。しようとしない。彼女、ユリアの最後の言葉を。 「わたくしはただ、愛されたかっただけなのです。愛されたいと、思うことは、罪なのですか?愛されているのを見て、うらやましいと思うことは、いけないのですか?」 彼女が求めていたのは、権力でも地位でもなかった。彼女が本当に欲しかったのは、愛だった。

【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?

氷雨そら
恋愛
3年間放置された妻、カティリアは白い結婚を宣言し、この結婚を無効にしようと決意していた。 しかし白い結婚が認められる3年を目前にして戦地から帰ってきた夫は彼女を溺愛しはじめて……。 夫は妻が大好き。勘違いすれ違いからの溺愛物語。 小説家なろうにも投稿中

この婚約は白い結婚に繋がっていたはずですが? 〜深窓の令嬢は赤獅子騎士団長に溺愛される〜

氷雨そら
恋愛
 婚約相手のいない婚約式。  通常であれば、この上なく惨めであろうその場所に、辺境伯令嬢ルナシェは、美しいベールをなびかせて、毅然とした姿で立っていた。  ベールから、こぼれ落ちるような髪は白銀にも見える。プラチナブロンドが、日差しに輝いて神々しい。  さすがは、白薔薇姫との呼び名高い辺境伯令嬢だという周囲の感嘆。  けれど、ルナシェの内心は、実はそれどころではなかった。 (まさかのやり直し……?)  先ほど確かに、ルナシェは断頭台に露と消えたのだ。しかし、この場所は確かに、あの日経験した、たった一人の婚約式だった。  ルナシェは、人生を変えるため、婚約式に現れなかった婚約者に、婚約破棄を告げるため、激戦の地へと足を向けるのだった。 小説家になろう様にも投稿しています。

処理中です...