41 / 60
41 仕返し②
しおりを挟む
ルシアが今まで会ったことのない人種で、どう対応して良いかわからず、戸惑ったまま無言で彼女を見ていた。
そんなルシアの反応が気に入らなかったのか、彼女はわかりやすく顔を顰め、手に持っていた扇を顔の前で拡げた。
「私はエリザベス・ジェイド・ワーリントン公爵令嬢よ。ワーリントン公爵の一人娘……まあ、本来ならカミーユ様が私の婚約者になる予定だったんだけど、どんな魔法を使ったの? それが、どうにも気になっていたの」
公爵家の一人娘ならば、王太子以外の王子が王族から臣籍に落ちる婿入り先に、確かにピッタリだと言える。だが、カミーユは彼女を嫌がり、それをつっぱねたのだろう。
(ああ……だから、私を見つけてここまで来たのね。公爵令嬢なのだから、プライドが高くてもそれは当たり前だし……)
自分よりも下の身分を持つ伯爵令嬢ルシアが気になり、城にやって来ていたから、ルシアを見付けてここまでやって来たのだ。
「私は……何も、魔法など……」
ルシアはどうしようと思った。ここで逃げてしまえば、公爵令嬢のエリザべスに対する侮辱に当たるし、ユスターシュ伯爵家が悪く言われるきっかけになってしまうかもしれない。
けれど、居丈高な態度を見せるエリザベスにこのまま捕まっていても、良いことは起こらないだろうと確信出来てしまうのだ。
彼女はどうやら、自分が婚約するはずだったカミーユと婚約するルシアをあまり良く思っていなさそうだから。
「けれど、可哀想なご令嬢だわ……両親を殺されて虐待まで! ああ……どんなことをされていたのかしら……とても恐ろしいわ……一体、犯罪者に何を……」
周囲に聞こえるようにエリザベスは大きな声を出し、ルシアは止めることも出来ず何も言えずに目を瞑った。これまで嫌な相手から何を言われても黙っていることで、身を守っていたからだ。
(ああ……早く終わって……)
「おい。そこのお前……いい加減にしろ」
ルシアの方に温かな手が乗り、気が付けばカミーユが前に居て庇われていた。
エリザベスはカミーユの登場が予想外だったのか、不快そうな表情を広げた扇で覆い隠した。
「まあ……カミーユ殿下、ご機嫌麗しく」
「これを見て、麗しい訳がないだろう。お前、いい加減にしろよ。俺はそういうお前が嫌なんだよ。何も悪くないルシアに嫌がらせか? もし、何か言いたいことがあれば、俺に直接言えば良いだろう。同情する振りをして、犯罪に巻き込まれただけの被害者に酷いことをしやがって……本当にうんざりなんだよ。失せろ」
カミーユの冷たい視線と不遜な態度に、エリザベスは顔を青くして慌てて去って行った。
「カミーユ……カミーユ殿下……申し訳ございません」
迷惑をかけてしまったとルシアが謝れば、カミーユは難しい表情で頷いた。
「別に良い。あれは、以前に俺が怒らせたんだ。こんな女と結婚したくないと、貴族全員の前で言ったから憎まれている。若かったんだ……今では女性にいらぬ恥をかかせてしまったと、反省はしている」
「……そうだったのですか」
(それは……あんな風に、私を見に来るはずだわ。すごくプライドの高そうな公爵令嬢だったもの)
カミーユの話を聞いて、ルシアは自分に対する彼女の失礼な態度に納得することが出来た。
「いや、それほどまでに嫌な女だが、わざわざ探してまでルシアに手を出すとは思わなかった。お前は完全なる被害者で、犯人と血が繋がっている訳でもない。騙されたというなら、ウィスタリア王国の王族含め、ほとんどの貴族もそうだ。気にするな」
「はい。ありがとうございます。カミーユ」
にっこり微笑んで礼を言ったルシアに顔を赤くしたカミーユは、彼女を抱き上げて歩き出した。
「きゃっ……どっ……どうしました?!」
急に視点が変わり慌てたルシアは、彼の首に手をかけた。
「いいや……俺とこういう仲だと周知されれば、誰も手は出せまい。最近、恋人が出来たから丸くなったと、少し舐められていたようだからな。お前が部屋に戻ってから、俺がどんな男なのか思い知らせてやるよ……あれにも、念を押して伝えねば」
逃げ出したエリザベスを追い掛け、ルシアに手を出すなと言うつもりなのだろう。
「……お手柔らかにしてください。カミーユは、本当に怖いので」
「それで良いんだ。このように舐められたら、後々面倒だからな。妙なことを言い出せば、返り討ちにする程度で思っていてくれれば良い」
氷の王子様と呼ばれるカミーユに何度も話し掛け冷たくされた経験があるルシアは、少しだけエリザベスに同情してしまった。
そんなルシアの反応が気に入らなかったのか、彼女はわかりやすく顔を顰め、手に持っていた扇を顔の前で拡げた。
「私はエリザベス・ジェイド・ワーリントン公爵令嬢よ。ワーリントン公爵の一人娘……まあ、本来ならカミーユ様が私の婚約者になる予定だったんだけど、どんな魔法を使ったの? それが、どうにも気になっていたの」
公爵家の一人娘ならば、王太子以外の王子が王族から臣籍に落ちる婿入り先に、確かにピッタリだと言える。だが、カミーユは彼女を嫌がり、それをつっぱねたのだろう。
(ああ……だから、私を見つけてここまで来たのね。公爵令嬢なのだから、プライドが高くてもそれは当たり前だし……)
自分よりも下の身分を持つ伯爵令嬢ルシアが気になり、城にやって来ていたから、ルシアを見付けてここまでやって来たのだ。
「私は……何も、魔法など……」
ルシアはどうしようと思った。ここで逃げてしまえば、公爵令嬢のエリザべスに対する侮辱に当たるし、ユスターシュ伯爵家が悪く言われるきっかけになってしまうかもしれない。
けれど、居丈高な態度を見せるエリザベスにこのまま捕まっていても、良いことは起こらないだろうと確信出来てしまうのだ。
彼女はどうやら、自分が婚約するはずだったカミーユと婚約するルシアをあまり良く思っていなさそうだから。
「けれど、可哀想なご令嬢だわ……両親を殺されて虐待まで! ああ……どんなことをされていたのかしら……とても恐ろしいわ……一体、犯罪者に何を……」
周囲に聞こえるようにエリザベスは大きな声を出し、ルシアは止めることも出来ず何も言えずに目を瞑った。これまで嫌な相手から何を言われても黙っていることで、身を守っていたからだ。
(ああ……早く終わって……)
「おい。そこのお前……いい加減にしろ」
ルシアの方に温かな手が乗り、気が付けばカミーユが前に居て庇われていた。
エリザベスはカミーユの登場が予想外だったのか、不快そうな表情を広げた扇で覆い隠した。
「まあ……カミーユ殿下、ご機嫌麗しく」
「これを見て、麗しい訳がないだろう。お前、いい加減にしろよ。俺はそういうお前が嫌なんだよ。何も悪くないルシアに嫌がらせか? もし、何か言いたいことがあれば、俺に直接言えば良いだろう。同情する振りをして、犯罪に巻き込まれただけの被害者に酷いことをしやがって……本当にうんざりなんだよ。失せろ」
カミーユの冷たい視線と不遜な態度に、エリザベスは顔を青くして慌てて去って行った。
「カミーユ……カミーユ殿下……申し訳ございません」
迷惑をかけてしまったとルシアが謝れば、カミーユは難しい表情で頷いた。
「別に良い。あれは、以前に俺が怒らせたんだ。こんな女と結婚したくないと、貴族全員の前で言ったから憎まれている。若かったんだ……今では女性にいらぬ恥をかかせてしまったと、反省はしている」
「……そうだったのですか」
(それは……あんな風に、私を見に来るはずだわ。すごくプライドの高そうな公爵令嬢だったもの)
カミーユの話を聞いて、ルシアは自分に対する彼女の失礼な態度に納得することが出来た。
「いや、それほどまでに嫌な女だが、わざわざ探してまでルシアに手を出すとは思わなかった。お前は完全なる被害者で、犯人と血が繋がっている訳でもない。騙されたというなら、ウィスタリア王国の王族含め、ほとんどの貴族もそうだ。気にするな」
「はい。ありがとうございます。カミーユ」
にっこり微笑んで礼を言ったルシアに顔を赤くしたカミーユは、彼女を抱き上げて歩き出した。
「きゃっ……どっ……どうしました?!」
急に視点が変わり慌てたルシアは、彼の首に手をかけた。
「いいや……俺とこういう仲だと周知されれば、誰も手は出せまい。最近、恋人が出来たから丸くなったと、少し舐められていたようだからな。お前が部屋に戻ってから、俺がどんな男なのか思い知らせてやるよ……あれにも、念を押して伝えねば」
逃げ出したエリザベスを追い掛け、ルシアに手を出すなと言うつもりなのだろう。
「……お手柔らかにしてください。カミーユは、本当に怖いので」
「それで良いんだ。このように舐められたら、後々面倒だからな。妙なことを言い出せば、返り討ちにする程度で思っていてくれれば良い」
氷の王子様と呼ばれるカミーユに何度も話し掛け冷たくされた経験があるルシアは、少しだけエリザベスに同情してしまった。
549
お気に入りに追加
2,052
あなたにおすすめの小説
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
悪役令嬢なのに王子の慰み者になってしまい、断罪が行われません
青の雀
恋愛
公爵令嬢エリーゼは、王立学園の3年生、あるとき不注意からか階段から転落してしまい、前世やりこんでいた乙女ゲームの中に転生してしまったことに気づく
でも、実際はヒロインから突き落とされてしまったのだ。その現場をたまたま見ていた婚約者の王子から溺愛されるようになり、ついにはカラダの関係にまで発展してしまう
この乙女ゲームは、悪役令嬢はバッドエンドの道しかなく、最後は必ずギロチンで絶命するのだが、王子様の慰み者になってから、どんどんストーリーが変わっていくのは、いいことなはずなのに、エリーゼは、いつか処刑される運命だと諦めて……、その表情が王子の心を煽り、王子はますますエリーゼに執着して、溺愛していく
そしてなぜかヒロインも姿を消していく
ほとんどエッチシーンばかりになるかも?
女嫌いな騎士団長が味わう、苦くて甘い恋の上書き
待鳥園子
恋愛
「では、言い出したお前が犠牲になれ」
「嫌ですぅ!」
惚れ薬の効果上書きで、女嫌いな騎士団長が一時的に好きになる対象になる事になったローラ。
薬の効果が切れるまで一ヶ月だし、すぐだろうと思っていたけれど、久しぶりに会ったルドルフ団長の様子がどうやらおかしいようで!?
※来栖もよりーぬ先生に「30ぐらいの女性苦手なヒーロー」と誕生日プレゼントリクエストされたので書きました。
箱入り令嬢と秘蜜の遊戯 -無垢な令嬢は王太子の溺愛で甘く蕩ける-
瀬月 ゆな
恋愛
「二人だけの秘密だよ」
伯爵家令嬢フィオレンツィアは、二歳年上の婚約者である王太子アドルフォードを子供の頃から「お兄様」と呼んで慕っている。
大人たちには秘密で口づけを交わし、素肌を曝し、まだ身体の交わりこそはないけれど身も心も離れられなくなって行く。
だけどせっかく社交界へのデビューを果たしたのに、アドルフォードはフィオレンツィアが夜会に出ることにあまり良い顔をしない。
そうして、従姉の振りをして一人こっそりと列席した夜会で、他の令嬢と親しそうに接するアドルフォードを見てしまい――。
「君の身体は誰のものなのか散々教え込んだつもりでいたけれど、まだ躾けが足りなかったかな」
第14回恋愛小説大賞にエントリーしています。
もしも気に入って下さったなら応援投票して下さると嬉しいです!
表紙には灰梅由雪様(https://twitter.com/haiumeyoshiyuki)が描いて下さったイラストを使用させていただいております。
☆エピソード完結型の連載として公開していた同タイトルの作品を元に、一つの話に再構築したものです。
完全に独立した全く別の話になっていますので、こちらだけでもお楽しみいただけると思います。
サブタイトルの後に「☆」マークがついている話にはR18描写が含まれますが、挿入シーン自体は最後の方にしかありません。
「★」マークがついている話はヒーロー視点です。
「ムーンライトノベルズ」様でも公開しています。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
【完結】王宮の飯炊き女ですが、強面の皇帝が私をオカズにしてるって本当ですか?
おのまとぺ
恋愛
オリヴィアはエーデルフィア帝国の王宮で料理人として勤務している。ある日、皇帝ネロが食堂に忘れていた指輪を部屋まで届けた際、オリヴィアは自分の名前を呼びながら自身を慰めるネロの姿を目にしてしまう。
オリヴィアに目撃されたことに気付いたネロは、彼のプライベートな時間を手伝ってほしいと申し出てきて…
◇飯炊き女が皇帝の夜をサポートする話
◇皇帝はちょっと(かなり)特殊な性癖を持ちます
◇IQを落として読むこと推奨
◇表紙はAI出力。他サイトにも掲載しています
【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。
三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。
それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。
頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。
短編恋愛になってます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる