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第一章
第20話 ナガレボシ三兄弟・2
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「それじゃあ、探し物屋さん。ありがとうございました!」
「「ありがとうございました!」」
「うん。気をつけて家に帰ってね」
「はい」
アカリさんは、もう泣いていなかった。
今は光一くんと三希くんと手をつないで、笑顔を浮かべている。
うん、見つかってよかった。
「家に帰ったら、しっかり怒られなさい」
「うっ……、はい」
「そうそう。お父さんもお母さんも、アカリさんのこと心配してるんでしょ? ちゃんと安心させてあげてね」
「俺たちがちゃんと、父さんと母さんのところまで連れて行くから大丈夫だ」
「まあ、おれたちも怒られると思うけどな」
おや、それはどういうことだろうか?
「もしかして、家出……?」
「違う!」
「違うぞ。俺たちはアカリみたいに勝手にいなくなってない」
僕のつぶやきを聞いた光一くんと三希くんは、とても怖い顔をしている。
「おれたちは、アカリを迎えに行くって手紙を書いてきたぞ。ちゃーんと、な」
「ああ、なるほど。手紙には書いたけど、お父さんとお母さんには伝えていないってことね」
「そういうことだ」
この子たち、なかなか問題児だな。
アカリさんの記憶で見た二人は、思春期のきた男の子って感じだったけど……。親にとっては反抗期じゃないかと思われたりしないかなあ?
……しない?
分からないか。うん、僕もよく分かってない。
「それじゃ、バイバイ」
「じゃーな」
「お前たちも、気をつけて帰れよー」
そう言って、アカリさん、光一くん、三希くんの三兄弟は南美橋の向こうへと行ってしまった。
「これで、解決かな」
「ええ、そうね。アカリのなくし物は見つけたし、ヒロトは元の世界に帰ることができると思うわ」
不思議な現象に巻き込まれて、強制的に三代目探し物屋になって、僕をこの世界に呼んだアカリさんを探して……。アカリさんのなくし物を見つけて、ようやく元の世界に戻れる。
「なんだか、たった数日なのに長い旅をした気分だよ」
「そうねえ。確かに、何時間もバスに揺られたものねえ……」
「あれはつらかった。しばらくバスには乗りたくないよ」
「私は家でゆっくりできるわー!」
「ずるーい」
もうすぐ、こことはお別れだろう。
ここは物語から生まれた世界だから、現実には存在しない。つまり、一度ここから出れば、二度と来ることはできないということだ。
「ヒロトは、帰るのか」
「うん、帰るよ。ここでの役目は終わったからね」
「そっかあ……」
つまり、ここで出会った人たちには二度と会えないということだ。
もし、またこの物語の中で困った人がいたなら、僕はここに呼ばれるかもしれない。けれど、同じ場所に呼ばれるとは限らないのだ。
ここまで一緒にアカリさんを探してくれたショッパにも、カフェのお姉さんにも、コガネくんにも、ロロさんにも、エン太くんたちにも、ジュンくんにも、政紀くんにも、アカリさんたち兄弟にも……。また、会えるとは限らない。
二度と会えないと思ったほうが、いいんだろうなあ。
「さみしくなるね」
「あら、ショッパはさみしいの?」
「うん。だって、友達ともう会えなくなるんだよ? さみしいに決まってるじゃないか」
ああ、そっか……。
ショッパは、僕を友達だと思ってくれるんだ。
「僕も、ショッパに会えなくなるのはさみしいなあ」
「あらまあ。ヒロトもなのね」
「うん。メルは、さみしくない?」
「そうねえ……」
メルは少し考えてから、「さみしくないわ」と言った。
「だって、友達なんだもの。会えなくても、私たちは友達でしょう?」
うん、そうだね。僕たちは友達だ。
「あはははっ! そう、だね。ボクたちは、友達だもんね!」
「うん、友達だよ。僕とメルと、ショッパは友達だ」
そして、僕とメルは白い光に包まれた。
家に帰るのは、一ヶ月ぶりだ。
「はぁぁぁ……」
「なにを緊張してるんだよ。自分の家だぞ」
「早く入るぞ」
そうだけど、そうだけど!
一ヶ月も家に帰らなかったんだよっっっ?
光一と三希が変わってないように、いや、私になんだか優しいから変わってるけど!
お父さんとお母さんもきっと変わってないだろうけど、心臓がドキドキするんだ。
うううぅぅ、開けなきゃ。玄関の扉を、開けなきゃ。
そして、私の手が触れようとした時、玄関の扉が突然開いた。
驚いて固まってしまった私は、光一と三希が後ろにひっぱってくれたから扉にぶつかることはなかったけど、こ……怖かった。
「アカリ!」
「無事だったのね!」
玄関の扉を開けたのは、お父さんとお母さんだった。
玄関から出てきたお父さんとお母さんは、ギュッと私を抱きしめて泣いている。
私が、帰ってこなかったから。
私が、なくし物をしてしまったから。
私が……。
「アカリ、ああ、よかった」
「怪我はないかい? 痛いところは? ああ、こんなに体が冷えて」
ごめんなさい、お母さん。心配をかけて。
ごめんなさい、お父さん。怪我も痛いところもないよ。それに、今日は川の中に入っていないから体は冷えていないよ。
「光一、三希。お前たちも」
「ごめん、父さん」
「ごめんね、母さん」
「いいえ、いいのよ。三人とも無事に帰ってきて、本当に……。本当に、よかったっ」
ごめんね。ごめんなさい。
お父さんとお母さんを悲しませちゃって、ごめんなさい。
一ヶ月も家に帰ってこなくて、ごめんなさい。
お母さんの大切なお守りを、なくしちゃってごめんなさい。
「ごめ、なさぁい……」
「この、バカ娘! 心配かけてっ」
「よかった。帰ってきてよかった……」
ごめんなさい。ごめんね、皆。
お父さんとお母さんの顔色が悪い気がする。私が心配をかけてしまったから……。
光一も三希も、泣きそうな顔をしている。私が二人になにも言わないで出かけたから……。
ごめんね。
私……。大切な家族をなくし物にするところだった。
あーあ、皆……。帰っちゃったなあ。
ヒロトも、メルも、アカリさんも、政紀も。
つまんないけど、仕方ないよねえ。ボクは、探し物屋をサポートするためにヒロトと、メルと一緒にいたんだから。
「探し物屋は外の世界から来る。そのサポートをするために、中の世界に住む人間の一人が選ばれる……かあ」
そのサポートに選ばれたのが、ボクだった。
旅の途中まで、それに気づけなかったけど……。いつの間にか、ボクはヒロトとメルのサポートをするために、あの町に行かなきゃいけないと思ったことに気づいた。
ボクは、この町に住んでいる。
政紀とは同級生で、ジュンは学年が違うけど名前は知っていた。政紀が幼馴染みのジュンの話をよく聞かせてくれたからね。
「政紀ー、どうしたんだ?」
「ああ、ショッパか」
「うん? それは、簪かな。綺麗だけど……、なんで川の中でそんな物持ってるのさ」
「ああ……、拾った」
あの日、政紀はボクにバッレバレのウソをついた。拾っただなんて、なにを言っているんだか。
この一ヶ月間、ボクは土日のほとんどをアカリさんの捜索に費やした。
バスに乗って山を下りながら、途中の町や村でアカリさんの情報を集めては家に帰り、次の休みはもっと先の町や村へ。途中で情報が途絶えたところもあるけれど、そこら辺はアカリさんが川の中に入って風邪をひいてしまって、外に出ることがなかったからじゃないかな?
探して、探して。一ヶ月が経ったころ、ボクはあの町にいた。ヒロトとメルと出会った、あの町に。
なぜだか分からないけど、あの町に行かなきゃいけないと思ったんだ。
その町でもアカリさんの情報はないかと思って、大通りに立ち並ぶお店で話を聞いてみた。ほとんど収穫と言っていいものはなかったけど、バス停前の本屋さんで、あの町では見覚えのない女の子がいたという情報を手に入れたんだ。その女の子は港町方面からのバスに乗ってきたと言っていて、その後はどこに行ったか分からないけれど、港町に行けば、アカリさんの情報が手に入ると思った。
そして、港町行きのバスに乗るためにバス停に行ったら……ヒロトとメルがいた。
「港町行きのバスなら、五分後に来るよ」
「へえ、そうなんだ。……って、誰?」
「ボクは正八。ショッパって呼んでよ」
ヒロトとメルは、ボクがなにかを知っていることに気づいていたと思う。
でも、なにも聞かなかった。聞かないでくれた。
ボクがアカリさんのなくし物を知っていることを隠していたのに、ヒロトとメルは、なにも聞かないで一緒にいてくれたんだ。
「あーあ、もう、ヒロトとメルには会えないのかあ……」
もっと、一緒に旅をしたかったなあ。
「「ありがとうございました!」」
「うん。気をつけて家に帰ってね」
「はい」
アカリさんは、もう泣いていなかった。
今は光一くんと三希くんと手をつないで、笑顔を浮かべている。
うん、見つかってよかった。
「家に帰ったら、しっかり怒られなさい」
「うっ……、はい」
「そうそう。お父さんもお母さんも、アカリさんのこと心配してるんでしょ? ちゃんと安心させてあげてね」
「俺たちがちゃんと、父さんと母さんのところまで連れて行くから大丈夫だ」
「まあ、おれたちも怒られると思うけどな」
おや、それはどういうことだろうか?
「もしかして、家出……?」
「違う!」
「違うぞ。俺たちはアカリみたいに勝手にいなくなってない」
僕のつぶやきを聞いた光一くんと三希くんは、とても怖い顔をしている。
「おれたちは、アカリを迎えに行くって手紙を書いてきたぞ。ちゃーんと、な」
「ああ、なるほど。手紙には書いたけど、お父さんとお母さんには伝えていないってことね」
「そういうことだ」
この子たち、なかなか問題児だな。
アカリさんの記憶で見た二人は、思春期のきた男の子って感じだったけど……。親にとっては反抗期じゃないかと思われたりしないかなあ?
……しない?
分からないか。うん、僕もよく分かってない。
「それじゃ、バイバイ」
「じゃーな」
「お前たちも、気をつけて帰れよー」
そう言って、アカリさん、光一くん、三希くんの三兄弟は南美橋の向こうへと行ってしまった。
「これで、解決かな」
「ええ、そうね。アカリのなくし物は見つけたし、ヒロトは元の世界に帰ることができると思うわ」
不思議な現象に巻き込まれて、強制的に三代目探し物屋になって、僕をこの世界に呼んだアカリさんを探して……。アカリさんのなくし物を見つけて、ようやく元の世界に戻れる。
「なんだか、たった数日なのに長い旅をした気分だよ」
「そうねえ。確かに、何時間もバスに揺られたものねえ……」
「あれはつらかった。しばらくバスには乗りたくないよ」
「私は家でゆっくりできるわー!」
「ずるーい」
もうすぐ、こことはお別れだろう。
ここは物語から生まれた世界だから、現実には存在しない。つまり、一度ここから出れば、二度と来ることはできないということだ。
「ヒロトは、帰るのか」
「うん、帰るよ。ここでの役目は終わったからね」
「そっかあ……」
つまり、ここで出会った人たちには二度と会えないということだ。
もし、またこの物語の中で困った人がいたなら、僕はここに呼ばれるかもしれない。けれど、同じ場所に呼ばれるとは限らないのだ。
ここまで一緒にアカリさんを探してくれたショッパにも、カフェのお姉さんにも、コガネくんにも、ロロさんにも、エン太くんたちにも、ジュンくんにも、政紀くんにも、アカリさんたち兄弟にも……。また、会えるとは限らない。
二度と会えないと思ったほうが、いいんだろうなあ。
「さみしくなるね」
「あら、ショッパはさみしいの?」
「うん。だって、友達ともう会えなくなるんだよ? さみしいに決まってるじゃないか」
ああ、そっか……。
ショッパは、僕を友達だと思ってくれるんだ。
「僕も、ショッパに会えなくなるのはさみしいなあ」
「あらまあ。ヒロトもなのね」
「うん。メルは、さみしくない?」
「そうねえ……」
メルは少し考えてから、「さみしくないわ」と言った。
「だって、友達なんだもの。会えなくても、私たちは友達でしょう?」
うん、そうだね。僕たちは友達だ。
「あはははっ! そう、だね。ボクたちは、友達だもんね!」
「うん、友達だよ。僕とメルと、ショッパは友達だ」
そして、僕とメルは白い光に包まれた。
家に帰るのは、一ヶ月ぶりだ。
「はぁぁぁ……」
「なにを緊張してるんだよ。自分の家だぞ」
「早く入るぞ」
そうだけど、そうだけど!
一ヶ月も家に帰らなかったんだよっっっ?
光一と三希が変わってないように、いや、私になんだか優しいから変わってるけど!
お父さんとお母さんもきっと変わってないだろうけど、心臓がドキドキするんだ。
うううぅぅ、開けなきゃ。玄関の扉を、開けなきゃ。
そして、私の手が触れようとした時、玄関の扉が突然開いた。
驚いて固まってしまった私は、光一と三希が後ろにひっぱってくれたから扉にぶつかることはなかったけど、こ……怖かった。
「アカリ!」
「無事だったのね!」
玄関の扉を開けたのは、お父さんとお母さんだった。
玄関から出てきたお父さんとお母さんは、ギュッと私を抱きしめて泣いている。
私が、帰ってこなかったから。
私が、なくし物をしてしまったから。
私が……。
「アカリ、ああ、よかった」
「怪我はないかい? 痛いところは? ああ、こんなに体が冷えて」
ごめんなさい、お母さん。心配をかけて。
ごめんなさい、お父さん。怪我も痛いところもないよ。それに、今日は川の中に入っていないから体は冷えていないよ。
「光一、三希。お前たちも」
「ごめん、父さん」
「ごめんね、母さん」
「いいえ、いいのよ。三人とも無事に帰ってきて、本当に……。本当に、よかったっ」
ごめんね。ごめんなさい。
お父さんとお母さんを悲しませちゃって、ごめんなさい。
一ヶ月も家に帰ってこなくて、ごめんなさい。
お母さんの大切なお守りを、なくしちゃってごめんなさい。
「ごめ、なさぁい……」
「この、バカ娘! 心配かけてっ」
「よかった。帰ってきてよかった……」
ごめんなさい。ごめんね、皆。
お父さんとお母さんの顔色が悪い気がする。私が心配をかけてしまったから……。
光一も三希も、泣きそうな顔をしている。私が二人になにも言わないで出かけたから……。
ごめんね。
私……。大切な家族をなくし物にするところだった。
あーあ、皆……。帰っちゃったなあ。
ヒロトも、メルも、アカリさんも、政紀も。
つまんないけど、仕方ないよねえ。ボクは、探し物屋をサポートするためにヒロトと、メルと一緒にいたんだから。
「探し物屋は外の世界から来る。そのサポートをするために、中の世界に住む人間の一人が選ばれる……かあ」
そのサポートに選ばれたのが、ボクだった。
旅の途中まで、それに気づけなかったけど……。いつの間にか、ボクはヒロトとメルのサポートをするために、あの町に行かなきゃいけないと思ったことに気づいた。
ボクは、この町に住んでいる。
政紀とは同級生で、ジュンは学年が違うけど名前は知っていた。政紀が幼馴染みのジュンの話をよく聞かせてくれたからね。
「政紀ー、どうしたんだ?」
「ああ、ショッパか」
「うん? それは、簪かな。綺麗だけど……、なんで川の中でそんな物持ってるのさ」
「ああ……、拾った」
あの日、政紀はボクにバッレバレのウソをついた。拾っただなんて、なにを言っているんだか。
この一ヶ月間、ボクは土日のほとんどをアカリさんの捜索に費やした。
バスに乗って山を下りながら、途中の町や村でアカリさんの情報を集めては家に帰り、次の休みはもっと先の町や村へ。途中で情報が途絶えたところもあるけれど、そこら辺はアカリさんが川の中に入って風邪をひいてしまって、外に出ることがなかったからじゃないかな?
探して、探して。一ヶ月が経ったころ、ボクはあの町にいた。ヒロトとメルと出会った、あの町に。
なぜだか分からないけど、あの町に行かなきゃいけないと思ったんだ。
その町でもアカリさんの情報はないかと思って、大通りに立ち並ぶお店で話を聞いてみた。ほとんど収穫と言っていいものはなかったけど、バス停前の本屋さんで、あの町では見覚えのない女の子がいたという情報を手に入れたんだ。その女の子は港町方面からのバスに乗ってきたと言っていて、その後はどこに行ったか分からないけれど、港町に行けば、アカリさんの情報が手に入ると思った。
そして、港町行きのバスに乗るためにバス停に行ったら……ヒロトとメルがいた。
「港町行きのバスなら、五分後に来るよ」
「へえ、そうなんだ。……って、誰?」
「ボクは正八。ショッパって呼んでよ」
ヒロトとメルは、ボクがなにかを知っていることに気づいていたと思う。
でも、なにも聞かなかった。聞かないでくれた。
ボクがアカリさんのなくし物を知っていることを隠していたのに、ヒロトとメルは、なにも聞かないで一緒にいてくれたんだ。
「あーあ、もう、ヒロトとメルには会えないのかあ……」
もっと、一緒に旅をしたかったなあ。
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