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 濃厚なキスをされながら、耳朶に触れられる。力を加えず、指先で輪郭を確かめるように撫でられる感触にゾクッとして首を竦めたら、唇もそちらに移動してきて、外耳に押し当てられた。はむ、と唇に挟まれ、チロリと舐められ、指先が耳の穴に触れる。
 自分で触れるのとは違う、毛穴が開くような感覚に狼狽えて顔を背けたら、宥めるように髪を撫でられ、露わになった首筋をツウッと舐められた。途中でプルッと震えたら、そこを執拗に舐められる。彼の両手が反対側の首筋や輪郭、うなじに触れはじめ、俺が反応する箇所を探りだすと、しきりに撫で、舌を這われる。
 性器でもない、そんな場所への愛撫で俺は欲情していた。 
 自分の反応に戸惑い、内股をもじもじと動かしたら、彼の下腹部が押しつけられた。
 硬く熱い塊の存在を布越しに主張され、腹の奥に痛みに似た熱が生まれる。
 彼はそこで、俺だけ裸で自分は服を着ていることを思いだしたようで、いったん身体を離し、服を脱いだ。
 逞しい上半身が目の前に晒される。男の本気を感じて、俺は自らこの状況を作ったくせに動揺した。
 さらにすべてを脱ぎ去った彼の下腹部には、腹につくほど反り返った性器。彼の興奮具合をうっかり見てしまい、これは見なかったようにしようと目を逸らしたところを捕まえられ、抱きしめられた。
 胸も腕も、硬く厚みのある筋肉に覆われた武人の身体。力も強く、抱きしめられたら苦しいほどだった。しかし密着する肌の感触と男の香りに興奮した。優しい抱擁などとは程遠い武骨な様が、この男らしいとも思った。
 俺も彼も、荒い息遣い。まだ触れあいはじめたばかりだというのに、互いの興奮と切羽詰まった内実を伝えてくる。
 彼は俺の腕をベッドに押さえつけると肌に唇を寄せ、全身にキスする勢いで食んでいった。そして乳首に目をつけると、舌を出して先端を舐めた。

「…っ」

 そんなところを。
 シモを舐める風習はないが乳首は舐めるらしい。
 そんな場所からも快感を拾ってしまい、身体がふるふると震えた。俺の反応を見た彼の舌はさらにいやらしくそこを舐め、吸いつく。
 ヌルヌルとした舌で嬲られ、乳輪ごと吸われると、そこがぷくりと腫れ、芯が硬くなった。もう一方は指先で摘ままれる。そうされるとそこから疼くような快感が生まれ、下腹部へ伝わった。連動するように俺の性器がビクビクしだし、硬くなってくる。

「ここ、舐めるのと、指で弄るの、どっちがいい」
「わ…、かんな…」
「どっちもよさそうだな」

 今度は舐めていたほうを指で弄られる。感度を確かめるように強弱をつけて摘ままれ、爪先でカリカリと引っかかれる。

「ん…、ぁ…ぁ」

 吐息が甘く震える。彼の片手が下へ伸び、俺の内腿を撫であげた。ゾクゾクとした快感が股間に集中する。
 もどかしさに腰を揺らすと、彼のものと擦れあった。団長も緩く腰を動かし、擦りあわせてくる。ゴリゴリとした感触に腰が甘く痺れる。
 団長の、すごく熱い。すごく硬い。
 団長のと俺のものが擦れるたびにそこから快感が溢れだし、溶けて混じりあってしまうような感覚。
 羞恥と快感がいっしょくたになって混乱し、異常なほど頭に血がのぼる。どうにかなりそうな不安から無意識に腰を捩ると、重なっていた彼のものとずれた。
 乳首から離れ、俺の首元に触れていた彼の口が、責めるように俺の首筋を噛んだ。

「ぁ……っ」
「逃げるな」
「逃げたつもりでは…。私はいいので、あの、このあいだのようなことをいたしますよ」

 俺まで気持ちよくならなくていい。一度出してしまえば団長も落ち着くだろう。フェラして終わらせよう。
 与えられる快楽への不安から、俺は早く終わらせたくなって申し出た。しかし。

「いや。今夜は、俺のやり方でやらせてくれ。一緒にしたい」
「え、あ…」

 彼の大きな手が俺の性器を掴む。そして自身のものと重ねて握ると、腰を揺らした。

「ぁ、あ…っ、ふぁ…っ…」

 急に強い刺激を加えられ、腰がグズグズに溶けていく。
 頭も熱で溶けだしたのか、ぼうっとし、目を瞑るとまぶたの裏が赤く染まった。
 彼の肩に縋りつき、指先に力を込めて刺激に耐えようとするけれども、プルプルと震え、俺の限界を相手に伝えてしまう。彼の手の動きが速まってくる。
 彼のカリが当たるところが…、あ、気持ちい…。
 身体中を巡っていた快感が極限まで膨らみ、それしか考えられなくなる。ああ、これ、ダメ。もうイく…。

「あ、あっ」

 俺は腰を震わせ、甘い声を上げながら絶頂に達した。ビリビリと痺れるような快感が頭から突き抜ける。

「――…っ」

 頭が真っ白になる。
 放心して目を開けると、獰猛な雄の眼差しに食い入るように見下ろされていた。舌なめずりしそうなほど興奮した表情を見せられ、ドキリとする。
 ハアハアと荒い呼吸を整えながら見つめあう。
 獲物になった気分で目を逸らせずにいると、仰向けのまま両脚を折りたたまれた。太腿のあいだに彼のものを挟まれ、脚をぎゅっと閉じさせられる。

「え、…また…」
「まだだ…もうすこしつきあってくれ」

 彼はまだイっていなかったようで、俺の太腿に挟まれたものは硬く熱く存在を主張していた。
 彼が俺の太腿を手で押さえて腰を揺すりだす。荒い動きで、イったばかりの俺のものも擦られて、たまらなかった。

「は…ん、ぁ、ぁ…ッ」

 グチュ、グチュ

 俺の出したものが潤滑剤となって、彼が腰を振るたびに卑猥な音が響く。
 こんなの、入れられてるのとさほど変わらないんじゃないか。
 敏感になっている身体は擦られるたびにビクビクと震え、快感に身悶えた。強すぎる快感に涙が滲む。彼の腰の動きが早まり、それにつられて俺も再び高みにのぼる。
 気持ちいい……。
 もうそれしか考えられない。

「はあ…、は…っ」

 彼の荒い息遣い。見上げると、興奮しきって熱に浮かされた瞳に見つめられていた。その表情に腰がゾクッと反応する。
 ああ、だめだ。こんなの、堪えきれない。

「あ、ぁ…っ、もぅ…、また、イく…っ」
「ああ。俺も――っ」

 耐え切れずに俺が二度目の絶頂を迎えたのとほぼ同時に彼も熱を放った。







「おはよう」

 翌朝目覚めると、団長は自分のベッドに腰かけて剣の手入れをしていた。俺が起きたのに気づくと、仄かな笑みを滲ませて挨拶をしてきた。
 そんな柔らかい表情で朝の挨拶をされたのは初めてのことである。意外なものを目にしたものだから、いつもの微笑を浮かべるのが一拍遅れた。
 完全に俺への警戒が消えている、無防備な顔と態度。
 なんだよその顔。うっかりときめいちゃうじゃないか……。

「……おはようございます。いい朝ですね」
「ああ。酔い潰れている者がいなければ、予定通り出発できそうだな」

 身支度を整え終えると、俺の支度を待っていたように団長が立ちあがり、先に扉へ向かった。そして扉を開き、俺の背に触れ、俺を先に通す。
 貴婦人への対応のようだ。これまで団長からそんな対応をされたことはなかったのに。
 そのまま一緒に食堂へ行き、団員たちと挨拶を交わしながら朝食のトレーを運び、テーブルへ着く。俺の席の向かいに団長がすわり、俺が祈りをささげた後に食べはじめる。
 部屋を出てからの一連の行動はいつも通り。いつもと違うのは、団長の視線だ。
 俺を見過ぎだ。一瞬も俺から視線を外さない。
 まさに事後の恋人そのものである。
 軍人の遠征中の性処理なんて、前戯やキスなどなく、文字通り処理という感じだろうと想像していた。しかし昨夜のあれは、恋人同士の営みのようだった。
 俺としては、あれは「アオイを騎士団に入れない」との言質をとるためのものだった。しかし団長にとっては、それだけのことではなかった…のだろうか…。
 いやいや。そんなはずはない。二か月半もの禁欲生活で、団長もちょっとおかしくなっているだけだ。
 とはいえ、それほど甘い雰囲気を醸しだされると恥ずかしいのだが。団員たちに誤解されるじゃないか。
 まあ、いい。団長とはどうせこれきりの関係。それよりアオイのことだ。
 俺の推測では、アオイは攻略対象者と恋をしていない。アオイが騎士団に入るとか、ゲーム期間が延長しそうな余計な道も潰した。
 このまま王都へ帰還し、アオイを故郷へ帰せばノーマルエンドになるはずだ。
 王都帰還後、アオイは国王から願いはないかと尋ねられる。誰かのルートに入っていると、王都に留まりたいので王宮内の職を斡旋してほしいと言いだす。ノーマルルートだと要求はなく、褒賞金だけ受けとる。
 それを見届けたら、この苦難と緊張の日々から解放されるのだ。
 団長の妙に甘い視線のせいで、俺と団長の仲を団員に勘繰られたとしても、今日限りで討伐騎士団は解散なのだしどう思われたっていい。
 今後も団長と王宮で顔をあわせることはあるだろうが、それは時々でしかなく、深く関わることはない。
 そう。団長は、今は俺に好意的に接しているが、これは今だけの一時的なものだ。日常に戻ったら彼も冷静さを取り戻すだろう。昨夜程度の触れ合いなど、モテる彼にとってはひと夏の思い出にすらならない。
 食事を終え、団員に出発の指示を与える頃には、団長もいつもの彼らしく振舞っていた。
 山間部では団長の馬に同乗していたが、トゥコ・ロザワを出てからは馬車を手配し、俺とアオイはそちらで移動している。
 宿を出て、団員が隊列を組む。馬車へ乗り込む際、傍にいた団長と目があったため、俺は営業スマイルを返した。
 すると、団長が声をかけてきた。

「主教」
「はい」
「……いや」

 彼は俺の目を見つめて口籠り、結局なにも言わなかった。思わず声をかけてしまったという感じだった。
 俺は彼に発言を促すことはせず、馬車へ乗り込んだ。用事があるなら声をかけてくるだろう。

「アオイ」

 出発してまもなく、俺は向かいにすわるアオイへ話しかけた。

「予定では夕方に王宮へ到着します。そこで国王陛下からお言葉があるはずです」
「はい」
「あなたには褒賞金が渡されます。相当な額のはずです。それを受けとったら、余計なことは言わないように。浄化という特殊能力の他、国の功労者という肩書も増えましたから、王都にいるとあなたを悪用しようという輩が大勢近づいてきます。すべて碌なものではありません。あなたは純粋ですから、褒賞金もすべて騙し取られ、その後悲惨な運命を辿る未来が、私には見えます」
「え、そ、そんな」
「ですから、王都には留まらないように。明日には故郷へ帰れるよう手配しています。あなたの故郷の詳細な地について私は漏らしておりませんから、故郷にまでは、王都の魔の手は届かぬはずです。近隣の領主と教会にあなたの保護を頼みますし、護衛もつけますので心配はいりません」
「ありがとうございます。……そうか……王都は危険なんですね……そんなこと考えてもみなかったです」

 最後の駄目押しで、速やかな帰郷を促しておいた。アオイは俺の言葉を信じて神妙な面持ちで頷いている。
 実際、今の話は大げさでもなく、故郷へ帰ったほうが無難だ。
 好きになった相手はいないか確認したい気持ちもあったが、そんなことを尋ねてアオイの意識がそちらへ向いてしまっては台無しなので、堪えた。
 あとは、運を天に任すのみ。

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