上 下
40 / 52
BL小説家と私小説家がパン屋でバイトしたらこうなった3

8

しおりを挟む
 困ったが、穂積を呼んでリュックを持ってきてもらうか、脱衣室に置いてあったタオルを借りるしかないと思いながら浴室の扉を開けると、穂積がまだそこにいた。腰にタオルを巻いただけの格好で。
 すでに出ていったものだと思っていたからぎょっとした。

「まだいたのか」
「歯磨きしていたんです」

 ほぼ全裸のまま腕を組み、いけしゃあしゃあとほざく。
 そして濡れた体を上から下まで、じっくりと見られた。私も肉体労働者であり、見られて困るような体ではないのだが、なんだかとてつもなく恥ずかしい。

「見るなよ。セクハラっぽいぞ」
「あなたと同じことをしているだけですよ」

 その通りなので言い返せない。
 穂積が組んでいた腕をおもむろに解き、私の背後の壁に左手をついた。そしてもう一方の手で浴室の扉を閉めた。私は彼の腕の中に囲まれた格好となる。壁ドンというやつだ。
 彼の顔が、ゆっくりと近づく。キスされる予感。

「久見さん……」

 色っぽく囁かれ、冷ましたはずの熱が蘇ってくる。胸の鼓動がせわしなくなる。

「ま、待て……」
「だめです。あなたが誘惑したんです。こんなに煽られて、我慢できるはずがないでしょう」

 見つめてくる男の瞳はひどく真剣で、熱を帯びていた。捕らえられ、逃げられない。
 男の体温を頬で感じる距離まで、唇が、近づく。

「そんなつもりじゃないなんて、言わせませんよ。こうなることは、わかっていたはずだ」

 云い終えるなり唇が重なる。柔らかく、しっとりとした感触。石鹸の香りと穂積の香りに、眩暈のような感覚を覚えた。
 唇が離れ、至近距離から顔を覗き込まれる。その目から逸らせなくて、見つめあった。見つめあったまま、もう一度、くちづけられた。同時に、両肩を掴まれる。その手がゆっくりと背後へまわされ、優しく抱きしめられた。
 もう一度唇が離れ、再び重ねられたとき、唇の隙間を舌で舐められた。その感触にびくりと震え、反射的に体を引こうとしたら、あやすように背を撫でられた。そして彼の一方の手が下へ降りてきて、私の中心に触れてきた。やんわりと刺激され、たちまちそこは硬くなる。

「あ……、穂積、くん…」

 どうしようという焦りから名を呼んだのだが、甘えた声になった。穂積が興奮した気配。

「向こうに行きましょうか」

 体を離され、腕を引かれた。

「体、濡れてる」
「かまいません」

 正直、こんな展開になることをまったく考えていなかったわけではない。宿泊しようと思いついたとき頭の片隅にチラリと、襲われる懸念は浮かんだ。もしかしたらとは思った。しかし楽観視し、その先を考えようとしなかった。VRのことで頭がいっぱいで、VRをしたくて、それ以外の思考を避けていたのだ。
 穂積の裸を見るという行為も、実行に移すまでは、そこまで彼を刺激すると思っていなかった。同性ならば銭湯や温泉、ジムの脱衣所等々、裸を見られることなど普通にあるからだ。男同士ならばおかしなことではない。しかし自分が彼の立場だったらと思うと、それはそうだよなとしか思えない。男女に変換して想像してみよう。風呂から上がったら好きな女子が待ち構えていて、自分の裸体を舐めるように見てきて、その後その女子は見られていると知りながら自ら服を脱いでシャワーを浴び、タオルで隠すでもなく裸体を晒して出てくる。うむ。これで手を出さなかったらその男は異常だ。
 どうしようと思っているうちにリビングにつき、ソファに押し倒された。あおむけに横たわる私の上に、穂積がのしかかる。

「あ、の、穂積くん……、あのな」

 穂積の言い分はもっともだし、この状況ですべてを拒むのは無理だとわかる。せめて妥協案を。

「私は、その、後ろは、まだ無理……だから、このあいだと同じくらいの塩梅で……」

 何をされるかと怯え、弱々しく伺いを立てた私に、穂積が頷いた。

「わかってます」

 優しく微笑み、顔を寄せて私の唇にキスを落とす。

「必ずしも後ろで繋がる必要はないです。一緒に気持ちよくなれたら、それでいいんですよ」
「きみは、アナル否定派なのか?」
「なんですそれ。いや、できるならしたいですよ。でも無理強いはしたくない」

 穂積は軽く笑い、からかうような口調で続ける。

「ところで、まだ無理、なんて言われると、じゃあいずれはいいのかな、なんて期待しちゃいますけど。いいんですか」

 赤面して目を泳がせる私の答えを待たず、穂積は愛撫をはじめた。腋窩から脇腹、そして乳首を舐め、いやらしく弄り、撫でていく。
 このあいだと同じ塩梅でと注文したのに、明らかに先日よりも濃厚で、限りなくセックスに近い。気持ちはうろたえるが、性欲が人一倍強く、エロい体にできている私は抗うことができない。期待で体が熱くなり、鼓動が速まる。
 そして全身の熱を高められた状態で中心を口に咥えられたら、期待以上の快楽に見舞われた。腰が甘く蕩け、内腿が震え、息があがって喘ぎ声をとめられない。

「ん、ぁ……、は……」

 たっぷりと可愛がられ、もう限界に達しそうだと思った頃、口を離された。

「あ……、っん…、なんで」

 快感に潤んだ目で見ると、彼は甘く笑って、ソファの下からローションをとりだした。それを自分の手のひらにとって温めてから、私の中心と内腿に塗り広げた。そして私の両脚を持ちあげ、胸に膝がつくほど折りたたむ。自然と腰が浮きあがり、後ろのすぼまりが彼に見られてしまう姿勢となった。羞恥で頭が眩む。M字、というには、両脚の隙間が狭い。しかしまさに、挿入に適した体勢。入れないと云っていたが、この格好は、そういうことではないのかと不安がよぎる。
 見れば、穂積がすぼまりに熱い視線を注いでいた。やはり、入れたいのか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

【R18】奴隷に堕ちた騎士

蒼い月
BL
気持ちはR25くらい。妖精族の騎士の美青年が①野盗に捕らえられて調教され②闇オークションにかけられて輪姦され③落札したご主人様に毎日めちゃくちゃに犯され④奴隷品評会で他の奴隷たちの特殊プレイを尻目に乱交し⑤縁あって一緒に自由の身になった両性具有の奴隷少年とよしよし百合セックスをしながらそっと暮らす話。9割は愛のないスケベですが、1割は救済用ラブ。サブヒロインは主人公とくっ付くまで大分可哀想な感じなので、地雷の気配を感じた方は読み飛ばしてください。 ※主人公は9割突っ込まれてアンアン言わされる側ですが、終盤1割は突っ込む側なので、攻守逆転が苦手な方はご注意ください。 誤字報告は近況ボードにお願いします。無理やり何となくハピエンですが、不幸な方が抜けたり萌えたりする方は3章くらいまでをおススメします。 ※無事に完結しました!

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

食事届いたけど配達員のほうを食べました

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか? そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。

壁穴奴隷No.19 麻袋の男

猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。 麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は? シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。 前編・後編+後日談の全3話 SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。 ※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。 ※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。

親友だと思ってた完璧幼馴染に執着されて監禁される平凡男子俺

toki
BL
エリート執着美形×平凡リーマン(幼馴染) ※監禁、無理矢理の要素があります。また、軽度ですが性的描写があります。 pixivでも同タイトルで投稿しています。 https://www.pixiv.net/users/3179376 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/98346398

処理中です...