ＢＬ小説家と私小説家がパン屋でバイトしたらこうなった

BL小説家と私小説家がパン屋でバイトしたらこうなった１

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　今日はバイトを終えると、一目散に書店へ向かった。
　愛読している純文学系雑誌の発売日なのである。
　しかも今号は、新人賞の発表が掲載されているのである。
　購入し、胸を弾ませながらアパートへ戻ると手洗いもせずにベッドに寝転がり、ページを捲る。
　バイトとＢＬ小説執筆の傍ら、時間を見つけてはコツコツと書いた作品を、約半年前に投稿したのだ。その結果が載っているのである。
　新人賞掲載ページを見つけ、逸はやる胸を抑えて字面を追う。
　事前に連絡がないことから、大賞を逃していることは承知している。しかし、私のペンネームが紙面のいずこかに載っていれば、落選でも希望はある。上位に載っていることを願って隅から隅まで確認した。しかし。

「……」

　載っていなかった。
　嗚呼。今回も、箸にも棒にも引っかからない結果に終わった。
　同人で発表すればよいとの向きもあるだろう。そちらから商業へ引かれる話も聞く。しかし偏狭な質の私は雑誌投稿という形にこだわっている。浅学菲才の私が狭き門を通過することなど、生涯不可能と思おぼしき挑戦である。しかし諦められない。穂積のような圧倒的な才能を目の当たりにしても、書くことを辞めずにおれないのは宿業であろうか。
　怠惰で飽き性で性格に難があり、どんな仕事も長続きしない自分が、これだけは飽きずに何年も続けられている。すでに私にとって生活の一部であり、生きる意味であり、どれほど落選し続けても書くことはやめられない。賞の選考者にとっては迷惑なことであろう。
　どうしたら受賞することができるのだろう。　
　いっそ、穂積に教えを請おうかという思いがちらとよぎったが、そんな思惑は即座に叩き潰し、ページを閉じた。
　雑誌の表紙には、穂積の名前が記されていた。
　いつか、この名と並び記される日が来ることを夢想する。そのとき私は、すました顔をして彼に対峙するのだ。その日まで、とにかく書くしかない。
　今日、穂積とは会っていない。そういえば朝からラインをチェックしていなかったと思いだし、スマホを見ると連絡が入っていた。

『俺とのことを、ＢＬで書くといいと思うんですよね』

　などと書かれていた。またもやそんなことをほざくのか。
　唐突と思われるその文言は、私の落選を知ってのことだろう。馬鹿言うなと返信すると、すぐに食事の誘いが届いた。
　私の落選日にラインを送ってくる彼の思惑について思いめぐらせつつ、立ちあがる。
　いま、私小説家と会って気分転換になるかわからないが、家に籠っているよりマシだろうと判断し、返信を送るなりジャンバーを羽織って、彼に会いに出かけた。


　私が穂積との出来事をＢＬのジャンルで私小説として書こうと覚悟を決めるのは、これより少し先の話である。

　1（了）