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リストバンドの絆
しおりを挟む『リストバンドの絆』
高校2年生の夏、暑さに負けじと校庭に響く掛け声。放課後のグラウンドでは、陸上部の練習に汗を流す生徒たちの姿があった。その中には、二人の男子高校生、川島拓真(かわしま たくま)と三浦翔(みうら しょう)がいた。
拓真と翔は幼なじみで、陸上部でも特に仲が良かった。共に短距離走の選手であり、特に翔は1年の頃から学校記録を更新し、エースとして活躍していた。翔は周囲からも期待される存在だったが、その影で、拓真も彼に負けないくらい努力を重ねていた。だが、記録を更新するたびに翔との差を感じるようになり、拓真の胸には焦りが募っていた。
ある日、練習が終わり、二人で帰り道を歩いていると、拓真は思わずポツリと呟いた。
「翔、なんでお前はそんなに速くなれるんだ?」
「…そうだなぁ、何でだろう。拓真も頑張ってるよな」
翔は少し笑ってごまかしたが、拓真の問いにはどこか真剣さがあった。翔に追いつきたいという思いと、勝てないという現実。友達でありながらライバルである翔への複雑な感情が、心の奥底にずっとくすぶり続けていた。
翌日、部活に顔を出した拓真は、顧問の先生からあるニュースを聞いた。
「来月の大会、県大会のリレーに出場してもらうことになった。拓真、翔、お前たち二人もメンバーだ」
チームのメンバーに選ばれた喜びと同時に、拓真は不安も抱いた。個人の短距離走ではなく、リレーというチーム競技。自分の遅れが少しでもあれば、それがチーム全体に影響してしまう。翔のように速く走れれば…と自信が揺らいだ。
するとその日の練習後、翔が拓真にリストバンドを差し出した。
「なあ、これ、拓真にあげるよ」
「え、俺に?」
そのリストバンドは、青と白のストライプで、翔がいつも大切にしているものだった。
「実はこれ、俺が中学の時に、お父さんからもらったんだ。ちょうど陸上を始めた頃でさ、初めて出る大会の時に応援の意味でくれたんだ」
翔が照れ臭そうにリストバンドの思い出を語るのを聞き、拓真は少し驚いた。いつも自信満々に見える翔にも、そんな大切なものがあったのだと知り、どこか安心したような気持ちになった。
「でも、いいのか?こんな大事なものを…」
「もちろん。大会が終わったら返してくれればいい。それまでは、お守りみたいなもんだ」
翔の真剣な目を見て、拓真はふっと笑い、リストバンドを受け取った。その夜、拓真はそのリストバンドを手にしながら、翔の優しさに改めて気づいた。今までは彼をライバルとしてばかり見ていたが、翔はいつもそばで支えようとしてくれていたのだ。拓真は胸が温かくなるのを感じながら、リストバンドを腕に巻き、目を閉じた。
それからの練習で、拓真はリストバンドをつけて走った。焦りや不安に苛まれそうになるたび、手首のリストバンドに触れることで不思議と落ち着きを取り戻せるのだ。そして翔も、いつも以上にサポート役に徹し、拓真の走りを見守り続けた。
いよいよ県大会の日がやってきた。リレー種目の出番を控え、スタート地点で待つ拓真のもとに翔が駆け寄った。
「緊張してるか?」
「…少しな。でも、大丈夫だよ。翔のお守りのおかげで」
「そうか。だったら、信じて任せるからな!」
そう言って翔は拓真の肩を力強く叩き、笑顔を見せた。スタートの合図が鳴り、バトンがつながる中、次第に自分の番が近づいてくる。先輩からバトンを受け取った瞬間、拓真は何もかも忘れ、ただ一心に走った。腕に巻かれたリストバンドが、彼に安心感と勇気を与えてくれるようだった。
ゴールまで数メートルというところで、拓真はついに翔にバトンをつないだ。翔はそのままゴールに向かって駆け抜け、彼らのチームは2位でフィニッシュ。結果は決して完璧ではなかったが、拓真はやり切ったという気持ちでいっぱいだった。
その日の夕暮れ、二人はグラウンドの片隅に座り込んでいた。拓真は手首からリストバンドを外し、翔に返そうとした。
「ありがとうな、翔。これがあったから、最後まで走れた気がする」
翔はリストバンドを見つめ、微笑んだ。
「いや、それはお前に預けるよ。お前があの時、自分の限界を超えようとしてる姿を見てさ、俺も背中を押されたよ。これからもずっと、こうやって一緒に頑張ろうな。俺が頑張れなくなったとき返してもらうよ」
「もちろん、これからも!」
二人はお互いに笑い合い、グータッチを交わした。その瞬間、拓真の心には新しい目標が芽生えていた。それは、翔と共にこれからも自分を超え続けるということ。そしていつか、翔にも負けない自分を手に入れることだ。
数日後、二人はまた部活で汗を流していた。拓真は翔から預かったリストバンドに触れながら、ふと思った。このリストバンドはただの布切れではない。大切な友達から預かった「信頼」という名の絆なのだと。
それからも、拓真と翔は共に努力を重ね、次の大会へ向けて走り続けた。リストバンドは今や二人にとっての象徴となり、いつまでも彼らの絆をつないでいくものとなった。
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