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 けれど、そんな機会は訪れなかった。


 休み明け、学校に行くと誰も彼女の存在を覚えていなかった……なんてことはなかったが。
 彼女は転校したと先生に告げられた。
 そして行き先を知る人はいない。

 彼女の家に行ってみるともぬけの殻で、ぱっと見荒らされた様子はないが、玄関に鍵はかかっていなかった。
 何が起こったんだろうと思う。
 それでも様子がおかしかった彼女はとにかく、小母さんがいつも通りだったのが意味が分からない。
 考えてみれば赤子一人こんな世界に送られたところで生活できるとは限らない。肉体には引きずられても魂だけなら引きずられないとでも仮定すれば生かそうとする存在も世界を越えてかは別として一緒に送り込んでいて当然だ。
 もっと単純な夜逃げで、いつも通りだったのはそうしようとする事を悟らせないためという現実的な理由も考えられるのに、メールの内容から思いつくあれこれが止まらない。
 だとしたら小母さんは彼女を呼び戻そうとした側からすれば敵で排除されたのかもしれない。
 けれど彼女にとって敵だったかどうかは分からない。

 こちらの記憶を覚えていようとしていたならば、彼女はすくなくともまだ向こうに行きたくなかったはず。
 口だけかもしれないが異世界に行きたいと言っているヤツはいる。そんな考えも浮かばないほど向こうは嫌なのかもしれない。
 ならば干渉が強まったか……こちらのくさびが断ち切られた?
 何かあっただろうか?

 …………まさか、「もういい」といったから?
 あんな子供っぽい癇癪で世界から断ち切られたと思ったのだろうか?
 それとも忘れまいとする努力を否定されて、絶望したのだろうか?
 そんな事はないという考えとそうであればいいという身勝手な願望がせめぎ合う。
 それくらい特別にはなりたかった。

 けれど願望はすぐに後悔に押し流される。
 あの時の「さよなら」は「またな」という雰囲気ではなかったので言い換えたもの。
 いやそこまで考えてすらいなかったかもしれない。
 ただ確かなのは、けして永の別れを告げたかったわけでも告げたつもりもない。
 なのに彼女はいなくなってしまった。

 彼女が何を思っていたにしろ、こちらがもう何も出来ない事には違いない。


 たとえば、彼女のあのメールは冗談か強がりか逃避であって。
 もしいつか普通に再会して、また恋が出来たとしても。
 今の彼女は永遠に失われてしまったのだろう。


 家に行く前に送ったメールが宛先不明で返ってきていた。
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