叶わぬ夢を見たけれど

こうやさい

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「君にはすまないことをしたと思っている」
 何時聞いても素晴らしい声ですが、それが憂いを帯びていることにたまらなく胸が締め付けられます。
「いいえ陛下、役目を果たせなかったわたくしがいけないのです」
 なのでそれを否定します。
 その結果、たとえわたくしがどうなろうとも。

 わたくしと同年代や少し上の方は実は陛下が初恋だという方が多いんですの。単純に見目もいいですし、親から散々脅かされた後に子供扱いとはいえ優しく接していただけければそりゃ恋にも落ちますわよね。
 ……もっともそれを未だ引きずっているのはわたくしぐらいでしょうけれど。
 出会った当初の陛下は王妃様がまだご健在で、同い年の王子殿下もいましたわ。
 夢を見る暇もなく叶わないと理解しました。
 それでも諦めきれないとも。
 といっても略奪しようとかそんなことを考えはしませんでしたので、この時点ではまだ違うものだったのかもしれませんわね。
 王妃様が亡くなった後ですらただお役に立ちたいと。
 ですから陛下の欠点として当人の資質以前に挙がるようになりはじめた評判の悪い王子殿下の婚約者に立候補しました。他の誰も受けたがらなくて陛下が困ってらしたのですもの。どうせ好きでもない方に嫁ぐなら、相手は好きな方に近い存在の方がいいとも思っていましたし。
 その殿下の一番の悪評ですが、まとめてしまうと女好きというものでした。殿下のその当時の年齢を考えるとぎりぎりではありますが言う方が自意識過剰だと思われかねないでしょうし、母親が亡くなってでお寂しい可能性も少しはあるかと、さすがにはっきりとそうおっしゃる方はいらっしゃりませんでしたが、下手に婚約者になれば何をされるか分からないし、何時他の女に手を出してややこしいことになるか分からないと。
 ……わたくしも、今ほどはっきりとは分からないもののそう感じておりました。
 ですからそれを何とかしようと思っていました。失敗した訳ですけれど。
 婚約してみると殿下はエスコート以上にわたくしに触れることはありませんでした。他の女性には相変わらずでしたので、婚約者に下手に手を出せば素早く結婚させられて自由がなくなると思ったのでしょうね。この国は国王とて側妃は認められていませんし。
 そのせいもあってか殿下に恋愛対象が移る事もなく、良くも悪くも出来の悪い弟といる感じでしたわ。
 けれども殿下の方はその辺りの女性に軽々しく触れるなと口うるさい姉に親しみを感じることは欠片もなかったのでしょう。
 学園に入ってから、特待生の、わたくしたちの常識からすれば少し貞操観念の緩い女生徒と噂になり、彼女が居るから婚約を破棄すると皆がいるところで宣言しわたくしをさらし者にしました。
 わたくしが口うるさいのは嫉妬ゆえと言われたときには思わず笑いそうになりましたわ。本当にその子を愛しているのなら、味方をしてもいいと思っていた気持ちは嫉妬なのかしら?
 まぁ、立場目当てと言われればうっかり動揺してしまったかもしれませんので、そこは幸いでしたけど。
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