殿下にとっての婚約破棄

誰かにとっての不幸あるいは幸福

それで殿下は決意する

　会えない時間は長く感じると言うが、彼女に久しぶりに会ったとき、思っていた以上に長かったのだと殿下は思わずにいられなかった。
　それほど疲れているように見えた。
　それはもしかしたら成人したばかりの人が多かれ少なかれ体験する程度の疲れなのかもしれない。
　けれど後ろめたさがあるせいで余計に刺さる。
　それでも殿下には笑顔を見せる。却って痛々しい。
　少し見ない間に身長が伸びたとか、そんなことを言ってくる。
　以前なら褒められたと喜んだだろうか。彼女にまたすこし近づけたと嬉しく思っただろうか。案外と子供扱いされているとすねただろうか。
　けれど今は身長のように精神が成長していないことに対するいたたまれなさでいっぱいだった。
　彼女を好きなのは本当。
　父親に……他の誰かに取られたくないのも本当。
　けれど彼女を苦しめたい訳ではないことも本当なのに。
　しがらみがないなら破棄したいような婚約はさせたくないと言っておきながら、そのしがらみを無くそうとしていなかった。
　彼女も王族だから完全に自由になることは無理だろうけど。
　選択肢を増やすどころか結局縛り付ける事しかしていない。
　それなのに選んでほしいだなんてなんて勝手なんだろう。
　結局自分の事しか考えていなかった。
　俯いた殿下の顔を彼女は不思議そうにのぞき込む。
　身長が伸びた分だけ物理的な距離は縮まったはずなのに。
　気持ちはちっとも近づいた気がしない。

　結局久しぶりに会えたのに殿下は彼女に心配をかけるしか出来なかった。
　考えた末、殿下は一つの決意をする。

　それ以来、殿下は彼女にもっと優しくなった。