我が罪への供物

こうやさい

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せいじゃない

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 わたしの一族は女性の血族だけに伝わる役目がある。
 一人を海神に嫁がせること。
 もう一人はその役目を子孫に伝えること。

 わたしは花嫁で。
 姉が語り部だった。

 花嫁になるのを幸せと感じた記憶はないけれど。
 不幸だと理解するのも早かった。
 それでも一人では暮らしていけないことも理解して。
 義務教育の間は行方不明になると騒ぎが大きくなるから避けるだろうと考えて。
 中学の卒業式の日に家出を敢行した。

 とはいえ、実は行く当てがなかったわけではない。

 父方の祖母は当然役目を知らず。
 そして母との折り合いが悪かった。
 祖母の意地悪の結果そうなったのではなく、母は語り部である姉を大事にする事を当然と考え、その分いなくなるわたしをないがしろにしたので、それをいさめた結果だった。
 同居を望んでくれていたがそれは叶わず、会ったときは姉との差を埋めるようにかわいがってくれた。
 なので頼った。
 期待通りに味方してくれた。


 祖母の手によって逃がされたわたしは、母に行方が知れないように進学も就職も出来ず、祖母の援助とバイトで日々を繋いでいた。
 わたしは行方不明とされているらしい。祖母にはっきりとではないが別れを告げていなくなったことにしたらしい。
 姉は既に結婚しているので花嫁にはなれないし、仮になったとしても悲しみはしないだろう。
 妹はさすがに難しいだろう。
 いつまでこんな生活を続けるのかという不安はあるものの、今は役目からの開放感の方が大きい。


 けれど少しずつ何かがわたしを締め付けている。
 それは大きな災害のニュース、特に海に関係したものを見聞きしたときに感じる。
 それらはわたしが生贄になっていれば防げたのではないか、と。

 海で何人死のうとも、それはわたしのせいじゃない。
 そう、たった一人に押しつけるにはあまりにも大きすぎる出来事に、思った端から否定しているけれど。
 そもそも役目自体うさんくさい物だけれど。
 それでも残滓が足に絡みつく海藻のようにまとわりついてくる。

 いずれはこの罪悪感で、あるいは生活に疲れて。
 結局は死を選ぶことになるかもしれない。
 それでも。
 海に身投げだけは絶対しない。

 絶対に認めない。
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