我が罪への供物

こうやさい

文字の大きさ
上 下
6 / 40

やり方にすぎない

しおりを挟む
 肉を切る。白も黒も花柄も染まってしまえばみんな赤い。水着だから染みになることは普段の服より少ないと思うけど、もう気にする人もいないだろう。
 刺す。人を殺すのを普通に料理をするのと変わりないと表現した人がいたけれど、肉の塊を突き刺すような料理を寡聞にしてわたしは知らない。塊で買うのだろうか? 死体でも入りそうな冷凍庫でも持っているんだろうか?
 血で水が赤く染まるというけれど、想像したほどじゃない。海は広いし、波がさらうから拡散する。それとも人数が足りないのだろうか?
 けれど周りに居るのは既に事切れている女性達と倒れて溺れ死にかけてる女性達、そして遠巻きに隙を窺っているような男性達。別に血を流すのが目的じゃない以上遺体を切る気は起こらない
 説得をするためか、気を逸らすためか、誰かが犯行理由を遠くから半ば怒鳴るような声量で尋ねてくるが、それが言えるならそもそもこんなことはしていない。

 わたしにはやることがある。
 海神様の花嫁を捧げること、それを女性の血族のみに受け継いでいくこと。
 人によっては両立出来るだろうこれがわたしには出来ないと気づいたのは最近だった。
 天涯孤独になったとでもいえばいいのだろうか。
 いや伝承に関係ある血族以外の身内はいっぱいいる。父方は祖父母どころかその上まで健在だし叔父も叔母も従姉妹もいる。ついでにいえば父は再婚したので義母も義兄も義妹もいるという、言葉だけ聞くと違う意味で確かに孤独になりそうな状態だが、関係はいたって良好だと思っている。
 ……その人達にはこの状況は衝撃的だったかなと、そちらに対しては罪悪感が湧いてくる。
 とにかく家族はいっぱいいても海神様の花嫁に捧げられる人も、それを受け継がせていい人もいなかった。
 実母はわたしを産んだ時に死んでしまったし、伝承を教えてくれた母方の祖母の先日なくなっている。こちらはそれ以外の身内を存在すら知らない。
 わたしが花嫁になる事は可能だろう。けれどその場合誰に伝承を伝えればいいだろう。将来娘が生まれる可能性なんて欠片もなくなってしまうのだから。
 ならば逆に娘を産むことを目的に別の人に嫁すならば――そのことを海神様は赦してくれるだろうか?

 なので考えた。本当にわたし以外の血族がいないのかと。
 血は濃くなることもあるけれど広がることもある。
 これだけ若い女性を捧げれば伝承は途切れていても一人ぐらい資格をもったものもいたかもしれない。
 これでわたしは伝えることに集中できる――訳はもちろんなく。
 この状態から逃げ切れると思うほどおめでたくないし、仮に出来たとしても逃亡生活を続けながら子供を複数育てられるとは思っていない。
 だからわたしもここで死ぬ。
 本当はさっき殺した女性の中に血族がいなくても構わない。
 その場合わたしが花嫁になるつもりだから。
 それでも最初から海で自殺しただけじゃ意味がない。
 これだけ適齢期の女性ばかりを殺せばニュースになるだろう。
 花嫁は捧げられたとどこかで伝承を受け付いているかもしれない人達に知らせたかった。
 もう捧げなくてもいいのだから、わたしの代わりに伝承を受け継いで欲しいと。

 どこかにいるわたしの血族達に。

 刃こぼれを横目で確認し、ほんの少しため息を付き、首に当てた刃を引いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

強制調教脱出ゲーム

荒邦
ホラー
脱出ゲームr18です。 肛虐多め 拉致された犠牲者がBDSMなどのSMプレイに強制参加させられます。

もらうね

あむあむ
ホラー
少女の日常が 出会いによって壊れていく 恐怖の訪れ 読んでくださった方の日常が 非日常へと変わらないとこを願います

生意気な女の子久しぶりのお仕置き

恩知らずなわんこ
現代文学
久しくお仕置きを受けていなかった女の子彩花はすっかり調子に乗っていた。そんな彩花はある事から久しぶりに厳しいお仕置きを受けてしまう。

【一話完結】3分で読める背筋の凍る怖い話

冬一こもる
ホラー
本当に怖いのはありそうな恐怖。日常に潜むあり得る恐怖。 読者の日常に不安の種を植え付けます。 きっといつか不安の花は開く。

拷問部屋

荒邦
ホラー
エログロです。どこからか連れてこられた人たちがアレコレされる話です。 拷問器具とか拷問が出てきます。作者の性癖全開です。 名前がしっくり来なくてアルファベットにしてます。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

処理中です...