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ホントウの復讐は……?
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『私は好きな人が出来た。よってそなたとの婚約を解消し、その人と新たな婚約を結ぶ。そなたは今から好きな道を行けばいい』
『……かしこまりました、殿下』
そうやって、一礼した後顔を上げた元婚約者の頬に一筋の涙が流れた。
「殿下ぁ、どうなさったんですかぁ?」
元婚約者は笑顔ではあるが隙はなく、何事も完璧にこなし、むしろ劣等感を煽られるだけだった。
少し甘えるような現婚約者の声は頼られているようで嬉しかった。
けれど今はそれを聞いて心がざらつく。
あの一筋の涙がすべての印象を覆した。
たとえばこの子が泣いたならば、むしろ一筋ですむのならさほど悲しくはないのだろうと思うだろう。
けれど彼女が、あの表情を変えない令嬢が流した一筋は、隠していた何かが耐えきれずにこぼれ落ちたようにしか見えなかった。
思えば彼女も昔は……そう婚約が決まる前はもう少し素直に笑っていた。
子供だったからで済ませてもいいかもしれないが、それが終わるのがあまりにも早すぎた気がする。
だとすればああなったのは婚約をしたからの可能性が高い。
そして意図的か無意識かはとにかくそうなることを私の関係者が求めたのかもしれない。
なのにそれを私が否定した。
私が苦手意識を持っていたのも確かだが、彼女も私といるとき楽しそうには見えなかった。
だから向こうも婚約は望んでいないのだと、そう思っていた。解消すれば向こうも喜ぶとまで。
けれどもし私といるために必要でそう振る舞っていたとするなら。
この上なく不条理で酷いことを言ったことになる。
今彼女は叔母のつてを辿り外国にいるという。
円満に婚約を解消したつもりだったが、どうもこちらが何かの非を理由に婚約破棄したと周りに思われているらしく、我が国に彼女の居場所はなくなったらしい。
結果的に国外追放のような目に遭わせておいて、どうやって好きな道を行かせるつもりだったのだろう。
そう自分に問うてみても、ただ浅はかだったという事実が浮かび上がるだけだ。
ましてやその道が私に繋がっていたというのなら。
以前はこの子といて感じるのは安らぎや自信だった。
けれど今は彼女の涙を思い出して苦い気持ちになる。
ひどいときなど、この子は妃殿下になるための努力をしているのだろうかとさえ思う。
感情に流されて、そんな女性を選んでおきながらそれを求めるのは身勝手だろう。
仮にこの子が妃殿下らしくなったとしても。
あるいは今のまま変わらなくても。
あの日、思い描いた無邪気な幸せはもう見えない。
『……かしこまりました、殿下』
そうやって、一礼した後顔を上げた元婚約者の頬に一筋の涙が流れた。
「殿下ぁ、どうなさったんですかぁ?」
元婚約者は笑顔ではあるが隙はなく、何事も完璧にこなし、むしろ劣等感を煽られるだけだった。
少し甘えるような現婚約者の声は頼られているようで嬉しかった。
けれど今はそれを聞いて心がざらつく。
あの一筋の涙がすべての印象を覆した。
たとえばこの子が泣いたならば、むしろ一筋ですむのならさほど悲しくはないのだろうと思うだろう。
けれど彼女が、あの表情を変えない令嬢が流した一筋は、隠していた何かが耐えきれずにこぼれ落ちたようにしか見えなかった。
思えば彼女も昔は……そう婚約が決まる前はもう少し素直に笑っていた。
子供だったからで済ませてもいいかもしれないが、それが終わるのがあまりにも早すぎた気がする。
だとすればああなったのは婚約をしたからの可能性が高い。
そして意図的か無意識かはとにかくそうなることを私の関係者が求めたのかもしれない。
なのにそれを私が否定した。
私が苦手意識を持っていたのも確かだが、彼女も私といるとき楽しそうには見えなかった。
だから向こうも婚約は望んでいないのだと、そう思っていた。解消すれば向こうも喜ぶとまで。
けれどもし私といるために必要でそう振る舞っていたとするなら。
この上なく不条理で酷いことを言ったことになる。
今彼女は叔母のつてを辿り外国にいるという。
円満に婚約を解消したつもりだったが、どうもこちらが何かの非を理由に婚約破棄したと周りに思われているらしく、我が国に彼女の居場所はなくなったらしい。
結果的に国外追放のような目に遭わせておいて、どうやって好きな道を行かせるつもりだったのだろう。
そう自分に問うてみても、ただ浅はかだったという事実が浮かび上がるだけだ。
ましてやその道が私に繋がっていたというのなら。
以前はこの子といて感じるのは安らぎや自信だった。
けれど今は彼女の涙を思い出して苦い気持ちになる。
ひどいときなど、この子は妃殿下になるための努力をしているのだろうかとさえ思う。
感情に流されて、そんな女性を選んでおきながらそれを求めるのは身勝手だろう。
仮にこの子が妃殿下らしくなったとしても。
あるいは今のまま変わらなくても。
あの日、思い描いた無邪気な幸せはもう見えない。
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