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始まったはずの何かと現実の

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「……まだ、殿下に未練がある?」
「はい?」
 思いがけなさすぎて思わず真顔になりましたわ。
「最初から殿下にそのような想いを抱いたことはございませんが」
 確かはっきりそう言いましたわよね?
「まだ意味がよく分かっていなかったのかもと」
 確かに子供のごっこ遊びや、一時の感情、あるいは意地の可能性などもあった状況かもしれません。
 そこまで考えて、うっかり顔を上げてしまったことに気づきます。
 さっきよりも少し距離が開いて、けれど目が合ってしまっては結局動けなくなります。
 こちらを見下ろすお義兄さまの目が、光の加減か、なにかどろりとした暗いものを孕んでいるように見えます。
「ならばどうして?」
 さっきまでと口調は同じなのにどこか苦しげに聞こえるのは何故でしょう?
「……そもそも、わたくしに婚約の話が出ていましたの?」
 わたくしの声もどこかいつもと違って聞こえます。
 だとしても聞いた内容に相違はございません。
 予想をつけたというだけで、殿下との婚約解消以降直接的にも間接的にも家族から話をされたことはございませんわ。
「聞いていない?」
「はい」
 はっきり聞いてしまってはお義兄さま相手でもそうでなくても逃げられなくなってしまいますもの。
 もし他の方は相手を聞いてから断るならまだしも逃げるだなんて失礼すぎますし。そもそも逃げる必要がないかもしれませんけれど、さすがに心の準備は必要ですもの。
 お義兄さまが相手なら……誘惑に負けてしまったかもしれませんし。
 結局わたくしは弱いですもの。もしかしたらお義兄さまの気持ちを無視してそのまま婚約しようとするしれません。
 そうでなくともシナリオが未だ見え隠れしてますし。
 シナリオをもっと思い切り壊せる方法を今までとらなかったのは結局わたくしが甘えていたのでしょう。
 それでもお義兄さまのそばにいたいという。
 わたくしが破滅するのは構いません、分かっていてここまで来たなら自業自得です。
 けれどそれにお義兄さまを巻き込むのはいけないことです。
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