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前編

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「生まれ変わったら結婚しよう」
 それは死にゆくあたしに向けられた、陳腐で、ありふれて、だからこそ魂にまで刻み込まれた恋人の言葉。
 覚えている中で一番古い前世の唯一のはっきりした記憶。
 あたしの運命。

 一目見て分かる。
 が彼の何度目かの生まれ変わりだと。
 今度も年下だった。


 最初に前世の記憶があると気づいたのは、飢饉の為に人数が増えた孤児院に、端っこに引っかかっているだけとはいえ貴族の令嬢の義務として慰問に行ったときだった。
 増えた子供達の中に彼はいた。
 客観的に、そして貴族の令嬢としての感覚でいうなら痩せ細った小汚い子供でしかなかった。
 けれどどこからあふれてくる懐かしさと愛おしさで目が離せなかった。
 なぜそう思うのだろうと考えた時、の意識は暗転した。

 結論から言うに彼は前世で将来を約束したあたしの恋人だった。
 ただあたしの方がかなり年上だということの違和感が酷い。きちんと覚えてないけどそこまで離れてはなかった気がする。

 それでも思い出したあたしは父様にとりあえずねだった。
 彼をうちで引き取らせて欲しいって。
 もうわがままも言わないからって。

 で、彼は家令の養子ということで引き取られた。義弟とかにされたらややこしいことになりそうで嫌なのでそれはいい。
 うちは貴族といえど家令まで貴族でなくともなんの問題もない。後継者が出来て家令もむしろ喜んでいた。

 そしてあたしは彼を構い倒した。
 家令に甘やかさないで下さいと注意されつつも、子供だからかわいいし、一緒に居ると幸せなのだからしょうがない。
 さすがにそれは恋人のようなふれあいではなかったけれど。
 彼も少なくとも懐いてはくれていたと信じている。

 けれど身分差と年齢差はやっぱりあって。
 そして貴族の令嬢なのだから政略結婚の義務がある。

 わがままを言わないと言ってしまったのはあたしだ。
 元々飢饉の時の借金の形に将来あたしを娶りたいという話は当時からされていたらしい。
 相手がなんというか、政略でもまっとうなら選ばないような相手というか、あの子とは違う意味で年が離れているというか。
 いい言葉ではないがわかりやすくいうとチビハゲデブオヤジというヤツだった。これ多分前世の感覚だ。
 借金の形で嫁をもらおうという辺り、善人とも思えない。
 領地のためだし結局は行かなければならなかったのだろうが、それでもあたしが嫌がるだろうと父は悩んでいたそうだ。
 そこに子供を一人引き取ればわがままは言わないと宣言してしまったわけで。
 男の子とはいえ愛人に出来るような年齢でもないし、嫁ぎ先に連れて行ける訳でもない。
 義弟にするなら予算もかかるが、使用人の養子ならそこまででもない。
 強いて問題点を挙げるならあたしが彼に構い過ぎて妙な評判がついたことだが、引取先が既に決まっているのだから些細な事とされたのだろう。

 結局、それで終わり。
 あたしは嫁に行かされることになり、彼はさみしがってはくれたものの、一緒に逃げてくれるほどの力もなく。
 そもそもあたしに恋をしていなかった。

 その後、運命と引き離された以上、もう役目は済んだとばかりにあっさりと命を落とした。
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