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 幼い頃からどういう訳か奇妙な確信というか既視感というか、なぜそう思うのだろうとどことなく違和感を感じていた。
 何か知りたくてに周り訴え尋ねてみたが、通じなかったのか、殿下とはいえ子供の言うことだと思われたのかまともに取り合ってもらえなかった。
 なのでその瞬間まで分からなかった。

 その時母上は身重で、弟か妹が出来ると聞かされていた。
 そして僕は兄になるのだから少しはおなかの子に譲ってあげなさいと、周りに母上から遠ざけられることが多かった。
 要するに妊婦にやんちゃ盛りの子供を近づけたくなかったのだろう。うっかりぶつかりでもしたら大事になりかねないし、直接的な危害は加えなくとも気遣いのない行動が大きな負担をかけることもある。
 なので、母上の様子で子供の性別を推測するというあまり当てにならないことすら出来なかったのに、妹が出来ると信じて疑わなかった。
 やはり理由は分からない。

 ある日、今日は体調がいいからと母上が構ってくれることになった。
 久しぶりに会えれば当然うれしくて、いつも以上に子供っぽく立場を忘れはしゃいだ。
 それでだろう、危惧を現実にさせてしまった。
 うっかり足をもつれさせ、母上の方へと勢いよく転んだ。
 ぶつかりそうになった身体は母上に避けられた。

 今回はその時に気づいてしまった。

 そう、
 既視感もあるわけだ。僕が今日のこの日を過ごすのは二度目だ。
 それまではそれでも代わり映えのしない日々を送っているせいで既視感を感じているのだと最終的には無理矢理結論づけていた。要するに気のせいだと。
 けれど違った。
 どういう理屈でどういう理由か分からないけど、僕には僕として過ごした生まれる前の記憶があった。
 自分にもう一度生まれ変わったと言うべきなのだろうか? それとも自分の人生をやり直していると?
 けれどどちらにしても変えられる部分があまりにも少なかった。
 深く考えずに動けば性格の問題もあるだろうが以前と同じ行動を結果的に繰り返す。
 何か違えようと動いても、すぐにつじつまを合わせるように最低限の変化に変えられてしまう。

 前回うっかり少し破ってしまった絵を派手に破ってみた。怒られたあと翌日には記憶と同じ新しいものに変わっていた。
 前回やらなかった小さな花壇の花をこっそりと全部抜こうとした。抜ききる前に見つかってこれまた怒られたあとすぐに代わりの花が植えられはじめた。
 逆に前回うっかり割った花瓶を割らないように気をつけてみた。今回は当然怒られはせず、けれど花瓶はそれでも違うものに変えられてしまった。

 一つ一つはごく些細なことでおかしくもなんともない。
 必要だからそこにあった物なら代わりを用意しようというのは当然のことだし、逆に必要ないのならそこからどけられる理由に僕が関わろうが関わるまいが関係ない。
 けれどそれらが積み重なって行くことに恐怖を感じずにはいられなかった。
 もっと大きく誤魔化しようのないほど変えてみようと思っても、上手くいってもいかなくてもより動けなくなりそうで出来ず。
 いっそ自分を壊すべきかと自殺を考えてみたが、また同じように時が戻り繰り返すだけではと思うと踏み切れなかった。
 恐らく少し狂いかけていたのだろう。

 なぜなら、これからの僕の未来はろくなものではなかった。
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