真実は婚約破棄

こうやさい

文字の大きさ
上 下
4 / 5
関係あるかもしれないしないかもしれない話

きっと悪役はわたし 前編

しおりを挟む
 誓って、当初殿下に恋情は持っていませんでした。

 王族皇族には政略の駒として出せる女児が多い方がよいと世間では思われているようですが、子供を育てるということは予算がそれなりにかかることですし、王族皇族ともなれば使い捨てに近い駒にも品質を求めるというもの。誰彼構わず差し出さなければならないほど立場が弱いわけでもないことですし。
 わたしは身分の低い側妃の娘のうえその品質が少しばかり悪くございました。
 順番としても第六皇女という微妙なもので、とりあえず早く生まれたというだけで、仮に多少微妙でも価値をつけるために教育や美容に早期から力を注がれるため一定水準以上に達することになる第一第二でも、その影響が色濃く残る第三辺りでもなく、その下ともなればよほど容姿や能力に優れているとか、生母やその実家の立場が強いなどの付加価値がなければ、どこかおざなりに育てられるもの。
 もう少し後に生まれればお姉様方では年齢的に合わない相手に嫁ぐなどの場合のために状況によって扱いは違うのでしょうけれど、ちょうどわたしはそこから外れています。その上お姉様方は小細工なしでも美しく聡明ですので、今更わたしが注目されることはないでしょう。
 もちろん皇女としてはわたし以下に扱われているものもいます。けれどそこまでいけば母親が臣下に下賜されたのについて行きその家のお嬢様として育てられるとか、いっそ市井に降りて城ほどの生活は出来ないものの自由を手に入れられた方もいるそうです。
 それでも全員が生きて幸せになれる訳ではないのだから皇帝陛下の慈悲に感謝しなさいと子供の頃は特によく言われましたわ。にです、にじゃありません。わたしの今の生活がだけでなく、存在そのものが皇帝陛下の慈悲の結果であり、父親に対する何かを求めるな、と。
 ある意味では間違っていませんわね、気まぐれに侍女に手をつけた結果だと聞いた事があります。
 なのに外には出られずに、お姉様方の輪にも入れず、傲慢かもしれませんが孤独を感じておりました。

 そんなわたしにも義務はきっちり回ってきます、場合によっては死んできてもいいという捨て駒に近いものですが。
 もしそうなってもきっちり利用なさるんでしょうね、本当に皇族というものは因果ですこと。
 なので今現在関係が微妙な隣国の学園へ外交を理由に留学いたしました。
 少しでも均衡が崩れれば、向こうはわたしを人質にするでしょうし、それを理由に皇帝陛下は攻め込むおつもりでしょう。もちろんわたしの身の安全は考慮されません。
 近しいものはとにかく、陛下は無事を望んではくれません。問題を起こさず模範的に過ごすことを求められ……ただけならばまだ心配して下さった可能性もあるのですけれど、端々に出来るなら向こうの弱みの一つも探ってこいと匂わせる辺り、どう考えてもわたしの穏やかで安定した生活自体は二の次でしょう。
 そのくせ何かをやって万一失敗したら、そんな事は命じていないと切り捨てるおつもりなのでしょう。

 そしてわたしは成り行き上、見事に期待に応えて帰ってきたわけで。

 関係が微妙といっても、一応こちらの国の方が強いためか、第六皇女でも概ね邪険に扱われることはありませんでした。
 特に同じ学園の上級生である第一王子殿下は、内心思うことはおありでしょうのに、丁寧にもてなして下さいました。
 それは王族としての責任感も多々あったでしょうが、きっと元々のお人柄もよいのだろうと充分に思えるものでした。
 隣国とその王族に対して好感を持ちました。
 それを私情と呼ぶのならある意味間違いではないのでしょうが。

 ある日、その殿下の婚約者を名乗る方に空き教室に呼び出され……最終的には閉じ込められました。
 王族関係者といえど一枚岩ではないと分かってはいましたが、いきなり閉じ込められるとまでは考えなかったのはこちらの失態ですわね。
 彼女によるとわたしは殿下に一目惚れしてあの手この手で誘惑したそうで……皇族として招待を受けたのが彼女にとってはわたしが誘惑したことになるんですのね。色仕掛けをした記憶はありませんし、我が国の盛装の露出度が高いなんてこともないのですが。怪しい薬などむしろどうやったら持ち込めるのかと聞きたいくらいなものです。
 他にもお姉様方にだったら逆に通じないような直接的な罵詈雑言を浴びせられ、脅しともとれる捨て台詞とともに突き飛ばされ、後ろに転ばされうっかり呆然としている隙に扉と錠を閉めらました。
 そのあとご丁寧にも何か重い物を引きずるような音が聞こえてきました。そういえば不自然な箱が置いてあったような?
 幸いだったのは、彼女に信頼できる協力者がいなかったのか、素早く攫って、乗り物でどこか分からなくするために移動して、郊外の小屋に閉じ込めて、火をかける……なんてことをしなかったところですわね。
 さすがに学校に火はつけないでしょうしつけてもわたしが死ぬ前に鎮火させられそうですし、空き教室とはいえ何日も人が通りかかることすらないことはまずないでしょう。あいにくと鍵がないと開かない錠のようですが屋内のものですからそこまで頑丈でもないでしょうから最悪の場合壊せばいいわけですし、箱も彼女一人で動かせる程度の重さならよほど巧妙な置かれ方でもしていない限り何とかなるでしょう。
 それに王族も通う場所なのですから教室内にも少人数ならば幾日かは籠城できる準備や場所も助けを呼ぶ方法も隠されております。必要に迫られた――多少場所は変えるにしろ将来のその場所に対する対策を取られる危険性より、今わたしに万一のことがあったとき何とか出来るよう安全性をとった――とはいえ、他国の皇族であるわたしが一部分とはいえ教えて頂けたのに殿下の婚約者が知らないとはなんて滑稽なのでしょう。
 それとも騙りだったのでしょうか? 紹介しては頂けていませんし。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

10日後に婚約破棄される公爵令嬢

雨野六月(旧アカウント)
恋愛
公爵令嬢ミシェル・ローレンは、婚約者である第三王子が「卒業パーティでミシェルとの婚約を破棄するつもりだ」と話しているのを聞いてしまう。 「そんな目に遭わされてたまるもんですか。なんとかパーティまでに手を打って、婚約破棄を阻止してみせるわ!」「まあ頑張れよ。それはそれとして、課題はちゃんとやってきたんだろうな? ミシェル・ローレン」「先生ったら、今それどころじゃないって分からないの? どうしても提出してほしいなら先生も協力してちょうだい」 これは公爵令嬢ミシェル・ローレンが婚約破棄を阻止するために(なぜか学院教師エドガーを巻き込みながら)奮闘した10日間の備忘録である。

貴方といると、お茶が不味い

わらびもち
恋愛
貴方の婚約者は私。 なのに貴方は私との逢瀬に別の女性を同伴する。 王太子殿下の婚約者である令嬢を―――。

貴方の子どもじゃありません

初瀬 叶
恋愛
あぁ……どうしてこんなことになってしまったんだろう。 私は眠っている男性を起こさない様に、そっと寝台を降りた。 私が着ていたお仕着せは、乱暴に脱がされたせいでボタンは千切れ、エプロンも破れていた。 私は仕方なくそのお仕着せに袖を通すと、止められなくなったシャツの前を握りしめる様にした。 そして、部屋の扉にそっと手を掛ける。 ドアノブは回る。いつの間にか 鍵は開いていたみたいだ。 私は最後に後ろを振り返った。そこには裸で眠っている男性の胸が上下している事が確認出来る。深い眠りについている様だ。 外はまだ夜中。月明かりだけが差し込むこの部屋は薄暗い。男性の顔ははっきりとは確認出来なかった。 ※ 私の頭の中の異世界のお話です ※相変わらずのゆるゆるふわふわ設定です。ご了承下さい ※直接的な性描写等はありませんが、その行為を匂わせる言葉を使う場合があります。苦手な方はそっと閉じて下さると、自衛になるかと思います ※誤字脱字がちりばめられている可能性を否定出来ません。広い心で読んでいただけるとありがたいです

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

悪役令嬢が残した破滅の種

八代奏多
恋愛
 妹を虐げていると噂されていた公爵令嬢のクラウディア。  そんな彼女が婚約破棄され国外追放になった。  その事実に彼女を疎ましく思っていた周囲の人々は喜んだ。  しかし、その日を境に色々なことが上手く回らなくなる。  断罪した者は次々にこう口にした。 「どうか戻ってきてください」  しかし、クラウディアは既に隣国に心地よい居場所を得ていて、戻る気は全く無かった。  何も知らずに私欲のまま断罪した者達が、破滅へと向かうお話し。 ※小説家になろう様でも連載中です。  9/27 HOTランキング1位、日間小説ランキング3位に掲載されました。ありがとうございます。

【完結】氷の令嬢は王子様の熱で溶かされる

花草青依
恋愛
"氷の令嬢"と揶揄されているイザベラは学園の卒業パーティで婚約者から婚約破棄を言い渡された。それを受け入れて帰ろうとした矢先、エドワード王太子からの求婚を受ける。エドワードに対して関心を持っていなかったイザベラだが、彼の恋人として振る舞ううちに、イザベラは少しずつ変わっていく。/拙作『捨てられた悪役令嬢は大公殿下との新たな恋に夢を見る』と同じ世界の話ですが、続編ではないです。王道の恋愛物(のつもり)/第17回恋愛小説大賞にエントリーしています/番外編連載中

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

処理中です...