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一章 女神と花冠の乙女

70 あなたのお名前は?

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眩い錫杖の放つ光にフィリアナの中で蠢く怨念が散り散りになって舞殿に溢れる。

私の力を押し込まれて内側から身を焼き、追い出された怨念や、妄執の塊がティティに浄化される。逃げ惑ってもチュウ吉先生の結界からは逃げられずカリンの神炎に焼かれ消滅していく。

掴んでいた触手はついに耐えられなくなって砂のように崩れ落ちた。

ふとロウの気配が過る。ティティのギフトと聖属性の魔力を観察しているのかも知れない。
何が出来て、出来ないのか。

今の私には、大まかな事しか分からない。
ティティのギフト、【中和】はどうやら魔力を中和しているようだ。
だから、瘴気や邪気を操るフィリアナの【邪属性】の魔力が上手く働かず、操りきれていない。
影の中から溢れ、這いずっているだけだ。


そして、瘴気や邪気は聖属性を持っている人なら大抵は浄化能力を持っている。力の差はあれど。
だがティティは、闇と光の双方を均一に持った聖属性で浄化しているーーーーううん、やっぱり昇華の方がしっくりくる。

泥水を浄化しても水は残るけど、ティティのは気化に近い。ティティの魔力による浄化は、残らないのだ。

ティティ自身の魔力が中和されていないのは、もしかして選択制?それとも自分の魔力だからかな?
誰かのギフトにも効くのかな?

それにしてもーーーーロウ先生、実戦教育パネェっす。コレ絶対に私も実戦うんたらだよね。

たった今『フィア様は、お尻に火が着いた方がやる気出ると思いまして』とかいう幻聴が聞こえた気がする。

そして対峙するのはこの凄まじい瘴気だ。
これだけ中和に、昇華に絶え間なく晒されているのに、尽きる気配が無い。

瘴気や邪気が生まれる要素は幾つかあるけれど、人の負の感情からも生まれる。
怨念や妄執、妬み嫉みなど様々な邪気や念が煮詰まってしまうと瘴気を生む。
ただ、生きていると肉体という器がストッパーの代わりになって、例え外へ出てしまっても、自然界の中で浄化されてしまう程度のものだ。

だが死者は違う。肉体という器ーーーー鎧が無い剥き出しの魂は、感情を、特に負の感情はダイレクトに放出する。

フィリアナは魔女を魂の内に抱えているーーーーつまり、瘴気を生みやすいのだ。
しかも、フィリアナ自身、一度死んでいる。

一体どれ程の邪気、念を抱えているのか。


「もう一度聞くわ。貴女は一体、誰?」

私はフィリアナに歩み寄ると、数メートル手前で止まる。
瘴気と同化した影は相変わらず蠢いて、臭気を放つ。

「その花をーーーー私の欠片を飲み込んで、どうするの?身の内側に入れても、もう、同化は出来ない」

別れていた記憶と力が再び一つになった。
もう、無意識でも、意識しても、私の力をコソコソと引き出す事も出来ない。
フィリアナに対して、異物だと認識するだろうから。
例え、記憶を垣間見る事が出来ても、他人の記憶が【そこ】にあるだけだ。
見ても虚しいだけだろうに。
憐れに思う。

「その花は、力だけじゃない、私に向けられた愛情が結晶化したものでもあるし?」

喉を無理やり通そうと藻掻くフィリアナに言う。

その中に私の記憶と、力の欠片があるけど。
誰から向けられた情なのかは、言わない。
ラインハルトーーーーライディオス兄様だけじゃないし。
ロウや他の兄様達、母様達、父様、フロースに、メルガルド、ディオンストム。
数え出したらきりが無い位に沢山の愛情、愛された記憶。

その中で、トルマリンブルーの輝きは、きっと特別な色だった。
花弁一枚分だけの記憶。まだ輪郭のハッキリしない、ピンぼけと手ブレの酷い写真のような感覚だけど。

「う、るさい!アタシから何もかもを奪っておきながら、言う事じゃないわよッ」

あ、まだその設定引っ張るんだ。

無理やり飲み込んだらしいフィリアナは、唾液をこぼしながら叫んだけど、大丈夫だったのかな?食道とか、胃とかどうなっているんだろう。
口が裂けた時点で、気にする事ではないかも知れないけどね。

花は身体の中を焼くであろうに、フィリアナは諦めない。
荒い呼吸を繰り返して、必死に整えようとしている。
視れば胸の辺りが淡く光ってきた。


どうやら【フィリアナ】の身体に宿っている光の聖属性が身体を傷つけまいとして反応したらしい。
でも、それなりに熱いだろうけど。

何というか、凄い執念だ。
私は錫杖を握る手に力を入れ直して、フィリアナに押し込む神力を更に高めた。


絶叫と共にフィリアナが身体を折り曲げ、長い髪を振り乱す。
そのまま花を吐き出してしまえばいい。
これ以上の罪を犯す前に、神の裁きでは無く、人の世の法で。それで、例え迎えるのが死であっても。冥界の泉で時は途方もなく掛かるだろうけど。


フィリアナの中にある魔女の魂。消えゆく僅かなモノであっても、刻印は完全に消滅する迄は残る。
ほぼ同化してしまったフィリアナの魂にもそれは継承されていた。
何とか引き剥がして冥界へ送れないだろうか。
ライディオス兄様の決定を覆す事が出来るのは、恐らく私だけだ。

またこの世に産まれて来られるように。
と、思うのは半分で、もう半分は、このまま放っておくと面倒なーーーーゲフン、きっと地上にとっても良くないし!
そうなる前に、冥界で魂をお洗濯しましょうと言うことなんだけど•••••汚れが酷くなると中々落ちないし。
ぶっつけ本番だ、上手くいくかは分からない。
けど、やるだけやってみようと思う。


「玄冥よーーーー」

祈りながら錫杖を振るった、その時ーーーー。

フィリアナの身体がいきなり二つにブレた。

「フィア様ーーーー!」

私の名をーーーー叫ぶ声と、振るった錫杖が弾かれたのが同時だった。

フィリアナに重なって視える黒い影は、徐々に形を成し、私はそこに一人の女性を見い出す。

エルフの血を引いているのだろう、人間よりも少しだけ長く尖った耳、整った顔立ちはーーーーそう、この世に己よりも美しい女はいないと豪語した女王。



「厄災の魔女ーーーー女王エルフリンデ」




少しだけ取り戻した記憶が、私にその名を呟かせた。






#####


読んでいただきありがとうございました!

お気に入り登録ありがとうございます♪( 'ω' و(و"

やる気がモリモリ出てきます!

厄災の魔女が出てきましたが、エピローグまで後少しです。

今は小話と閑話を書いていますが、その前に章の設定をしなくては!!

更新頑張ります!
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