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2章 「小川 真季」
12月24日③
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「私には胸を張れる経験なんてないよ…。」
「真季が自分でそう思ってるだけだろ。少なくとも俺は、涼香と真季と会えて、ここまで仲良くなれたことも胸を張れる経験だ。俺は将来の夢が決まらなくたって、クラスメイトに嫌われようが、友達を大切にできるなら生きていける。さっき、真季は今の環境が続けばいいと言ったが、ここまで積み重ねたから今続けたい環境があるんだ。これまでの自分もこれからの自分も否定して現状維持を続けようなんて矛盾してるんだ。」
真季は黙りこむ。前に進むべきなのはわかっている。自分の将来を自分で決めきれない不安と闘っていた。
「真季の将来は自分で決めるもんだ。でも、そこには少なからず自分じゃない原因は入り込んでくる。親の期待だったり、周囲の人の進路だったり、金銭面だったり、性別だったり、道は広がって制限されてめちゃくちゃにされる。そんな関門をくぐり抜けながら未来を生きていくんだ。冒険みたいなもんさ。不安だよ。でも、助けてくれる仲間がいる。違う道を進み、その道を教えてくれる仲間もいる。先を生き、道の様子を教えてくれる仲間もいる。そんな仲間にも出会えずに生活することの、どこを生きるっていうんだ?」
「で、でも…。」
「ごちゃごちゃうるせーな。いつものお節介真季でいろよ。」
俺は説得を諦めた。伝えられる言葉はもう、本音だけだ。
「お前が俺らを助けてくれた分、俺らはお前を助けるんだよ。将来の不安だ?人間関係が不安だ?俺らに散々お節介をやいてきてくれたお前がそんな不安な顔してる方が俺らはよっぽど不安なんだよ。これまでのお前でいろ。不安が拭えなくても、将来上手くいかなくても、俺たちと現実で成長していくのが生きる意味だ。」
「ちょっと…遥希く…」
エゴを押し付ける発言に戸惑った涼香の声を遮って、真季が質問をする。
「将来が上手くいかなかったら、どうするの?」
「どんな将来を歩むかも決めてない奴がそんなこと考えてどうするんだよ。必ず失敗する進路なんてないんだよ。大体、失敗した将来ってなんだよ。借金王になることか?犯罪者になることか?友達も無くして天涯孤独になることか?どれもやり直せるし、そうならないために俺らがいるんだろ。うだうだ考えるな。マイナスなことは考え出したらキリがないんだ。考えられるマイナスを見つけるのは道を進む奴じゃない。俺ら友達の役目だ。アホ面して上手くいくことだけ考えてろ。」
「じゃあ、絶対私のこと助けてよね。」
真季は呟くように言って体をそらす。
「話は整いましたか。」
銃を構え直し、引き金に指をかける。
「バァカ。絶対なんて無いし、絶対助けられるほど万能な人間なんていないだろ。」
銃声が響く。神谷の胸元には赤いシミが広がり倒れ込む。
「俺が言える絶対は、真季の友達で居続けることだけだ。」
次の瞬間、全員の視界が光に包まれる。宙に浮く感覚に襲われ、体の自由が効かなくなる。館から現実世界へ戻っているのだ。
12/24 PM 21:22
現実世界に戻るともとの公園にいた。公園では警官が事件の後処理をしていた。その警官の目が届かないところ、館に連れて行かれる前に立っていた場所とは違う場所だった。
「あれから2時間ちょっとしか経ってない…?」
「みたいだな。」
遥希はスマホを確認する。世間はまだクリスマスイブだ。
「2人は、将来の夢、なにになるの?」
真季が尋ねる。
「私もまだ決まってないよ。まず大学に行って、何かやりたいことを見つけようかなぁ、くらい。」
「俺は先生になろうかな。」
「大人になりたいって思う?」
「俺はなりたいしなりたくないな。今の友達との距離感なんて嫌でも変わるだろうし、責任も増えてくる。大人になると面倒そうだなとも思う。でも、自分の成長も楽しみだし、できることも大人になると増えてるし。今よりも自由で窮屈なんじゃないかな。」
「自由で…窮屈…か。」
真季が何かを考えながら繰り返す。涼香が、真季の背中を押すように先ほどの質問に答える。
「私は大人になりたいよ。親に心配かけたくないし。私も今が続いて欲しいけど、今のままじゃいられないこともたくさんある。」
涼香が視線を向けてくる。なぜか反射のように視線を逸らす。
「続いて欲しい今は、真季ちゃんや遥希くんとの関係だったり色々あるけど、それを繋ぎ止める努力をしてれば大人になっても変わらないって思ってる。大人になって変えたいものと変わりたくないものを見つけるって、大事だと思う。」
「私にもなんとなくわかってきた…。そんな何かを見つけられるように頑張るしかないのか。」
【真季は諦めたような、何かを手に入れたような表情をしていた。クリスマスはキリストの命日であるが、子どもにとってはプレゼントをもらう日である。俺たちは長い館での生活で何かを得たのだと思う。俺がクリスマスで得たものは、『覚醒』した能力。糸にはまだ特殊なものが見えないが、『覚醒』とは何なのか、SCCはなにを考えているのか、考えが落ち着かない。】
「真季が自分でそう思ってるだけだろ。少なくとも俺は、涼香と真季と会えて、ここまで仲良くなれたことも胸を張れる経験だ。俺は将来の夢が決まらなくたって、クラスメイトに嫌われようが、友達を大切にできるなら生きていける。さっき、真季は今の環境が続けばいいと言ったが、ここまで積み重ねたから今続けたい環境があるんだ。これまでの自分もこれからの自分も否定して現状維持を続けようなんて矛盾してるんだ。」
真季は黙りこむ。前に進むべきなのはわかっている。自分の将来を自分で決めきれない不安と闘っていた。
「真季の将来は自分で決めるもんだ。でも、そこには少なからず自分じゃない原因は入り込んでくる。親の期待だったり、周囲の人の進路だったり、金銭面だったり、性別だったり、道は広がって制限されてめちゃくちゃにされる。そんな関門をくぐり抜けながら未来を生きていくんだ。冒険みたいなもんさ。不安だよ。でも、助けてくれる仲間がいる。違う道を進み、その道を教えてくれる仲間もいる。先を生き、道の様子を教えてくれる仲間もいる。そんな仲間にも出会えずに生活することの、どこを生きるっていうんだ?」
「で、でも…。」
「ごちゃごちゃうるせーな。いつものお節介真季でいろよ。」
俺は説得を諦めた。伝えられる言葉はもう、本音だけだ。
「お前が俺らを助けてくれた分、俺らはお前を助けるんだよ。将来の不安だ?人間関係が不安だ?俺らに散々お節介をやいてきてくれたお前がそんな不安な顔してる方が俺らはよっぽど不安なんだよ。これまでのお前でいろ。不安が拭えなくても、将来上手くいかなくても、俺たちと現実で成長していくのが生きる意味だ。」
「ちょっと…遥希く…」
エゴを押し付ける発言に戸惑った涼香の声を遮って、真季が質問をする。
「将来が上手くいかなかったら、どうするの?」
「どんな将来を歩むかも決めてない奴がそんなこと考えてどうするんだよ。必ず失敗する進路なんてないんだよ。大体、失敗した将来ってなんだよ。借金王になることか?犯罪者になることか?友達も無くして天涯孤独になることか?どれもやり直せるし、そうならないために俺らがいるんだろ。うだうだ考えるな。マイナスなことは考え出したらキリがないんだ。考えられるマイナスを見つけるのは道を進む奴じゃない。俺ら友達の役目だ。アホ面して上手くいくことだけ考えてろ。」
「じゃあ、絶対私のこと助けてよね。」
真季は呟くように言って体をそらす。
「話は整いましたか。」
銃を構え直し、引き金に指をかける。
「バァカ。絶対なんて無いし、絶対助けられるほど万能な人間なんていないだろ。」
銃声が響く。神谷の胸元には赤いシミが広がり倒れ込む。
「俺が言える絶対は、真季の友達で居続けることだけだ。」
次の瞬間、全員の視界が光に包まれる。宙に浮く感覚に襲われ、体の自由が効かなくなる。館から現実世界へ戻っているのだ。
12/24 PM 21:22
現実世界に戻るともとの公園にいた。公園では警官が事件の後処理をしていた。その警官の目が届かないところ、館に連れて行かれる前に立っていた場所とは違う場所だった。
「あれから2時間ちょっとしか経ってない…?」
「みたいだな。」
遥希はスマホを確認する。世間はまだクリスマスイブだ。
「2人は、将来の夢、なにになるの?」
真季が尋ねる。
「私もまだ決まってないよ。まず大学に行って、何かやりたいことを見つけようかなぁ、くらい。」
「俺は先生になろうかな。」
「大人になりたいって思う?」
「俺はなりたいしなりたくないな。今の友達との距離感なんて嫌でも変わるだろうし、責任も増えてくる。大人になると面倒そうだなとも思う。でも、自分の成長も楽しみだし、できることも大人になると増えてるし。今よりも自由で窮屈なんじゃないかな。」
「自由で…窮屈…か。」
真季が何かを考えながら繰り返す。涼香が、真季の背中を押すように先ほどの質問に答える。
「私は大人になりたいよ。親に心配かけたくないし。私も今が続いて欲しいけど、今のままじゃいられないこともたくさんある。」
涼香が視線を向けてくる。なぜか反射のように視線を逸らす。
「続いて欲しい今は、真季ちゃんや遥希くんとの関係だったり色々あるけど、それを繋ぎ止める努力をしてれば大人になっても変わらないって思ってる。大人になって変えたいものと変わりたくないものを見つけるって、大事だと思う。」
「私にもなんとなくわかってきた…。そんな何かを見つけられるように頑張るしかないのか。」
【真季は諦めたような、何かを手に入れたような表情をしていた。クリスマスはキリストの命日であるが、子どもにとってはプレゼントをもらう日である。俺たちは長い館での生活で何かを得たのだと思う。俺がクリスマスで得たものは、『覚醒』した能力。糸にはまだ特殊なものが見えないが、『覚醒』とは何なのか、SCCはなにを考えているのか、考えが落ち着かない。】
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