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第四部
172 エレナと女神様の礼拝堂
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白くてすらっとした指が絡まる。
「エレナ様がお気に病んでいらっしゃるんじゃないか、わたくしに何かお手伝いできる事はないかと考えておりましたの」
「え?」
「わたくし、この前ステファン様と街にデートに参りましたの。あ、いけませんわ。デートなんて思ってるのはわたくしだけかもしれませんのに……でも、街中を歩いても馴染むようにと市井の人々のような格好になりまして、手を繋いで歩いてくださりましたの! まるで本物の恋人のようで幸せなひとときでしたわ! そう、手を繋いでいただきましたの! ステファン様の手は働き者の手でいらっしゃるので、右手の人差し指に大きなペンだこがありますのよ? 手を繋いでいただきわたくしの手にそのペンだこが触れますと、真摯に仕事をされるステファン様の姿を思い出して、誇らしい気持ちになるとともに心配になりましたの。エレナ様やメアリさんならご存知かと思いますけど、ステファン様はご自身の体調よりもお仕事を優先される方なものですから、いつか倒れるんじゃないかと──」
ネリーネ様も、兄であるハロルド様に似て饒舌だ。語り出すと止まらない。
……わたしもどこかでお兄様に似て大袈裟で適当なことばっかり言う人間だと思われてるのかもしれない。
わたしは気がついてしまった内容を打ち消すようにかぶりを振る。
「そうですわ! コーデリア様やミンディ様のご婚約者様は騎士を目指されていると伺いましたけど、やはり騎士の方ですと剣を握ってらっしゃるから、生傷が絶えませんでしょう? コーデリア様もご婚約様のお身体が心配に──」
わたしが考え事をしている間もネリーネ様の脱線しまくる話は止まらない。まだ本題に辿り着かない様子だ。
コーデリア様やミンディさんに急に話を振って真っ赤にさせている。
「べっ、別にあの朴念仁はこれから公爵家の跡取りとして教育しなくてはいけませんの。いつまでも剣を振り回している時間なんてありませんわ。生傷なんて作っている場合ではございませんの。……ただこれから領地について学ぶのは、頭をろくにつかってこなかったダスティンには大変かもしれませんけどね! 公爵家の用意した家庭教師による教育で倒れたなんてあったら恥晒しになりますから、わたくしが同じ部屋でしっかりと監視しておりますもの。問題ございませんわ!」
コーデリア様のツンデレは、今日も尊い。
心配になってずっとお部屋で見守ってらっしゃる姿を想像してニヤニヤが止まらない。
「まあ! それでしたら安心ですわね! では、ミンディ様はいかがですの⁈」
ネリーネ様は鼻息荒くミンディさんに詰め寄る。
「えっ? わっわたしもですか⁈ それはその生傷が絶えないのが心配かって聞かれれば心配ですけど、それは別にブライアンが小さな頃から騎士になるって決めている事ですし、わたしが心配するような事じゃないっていうか……」
ミンディさんも婚約者様と幼馴染ということで素直に甘えられないタイプらしい。
しかも義理の妹になるベリンダさんもいるもんね。恥ずかしそうに真っ赤になってしどろもどろで返事をする様はかまいたくなる。
それにしても婚約者であるステファン様の事を真っ直ぐに大好きなネリーネ様は見ていて眩しい。
ドレスについた宝石たちとの相乗効果でキラッキラしていた。
「それで、お二人でデートをされてどうなさいましたの?」
わたしはネリーネ様に逸れてしまった話を元に戻して進めるように促す。
「あら嫌ですわ。わたくしったら! ついつい興味のある話があると話がそれて夢中になってしまうのはわたくしの悪い癖ですわ! それで、わたくしステファン様と市井で人気の芝居を見て参りましたの」
「市井で話題の芝居……?」
「ええ、人気の演目でチケットを買いに行った時もすぐの日付は売り切れて取れずに、随分と先の日付けの──」
──市井で話題の芝居。
その単語を聞いた瞬間、背中に嫌な汗が流れて胸がバクバクと鳴る。
嫌な予感がした。
「エレナ様がお気に病んでいらっしゃるんじゃないか、わたくしに何かお手伝いできる事はないかと考えておりましたの」
「え?」
「わたくし、この前ステファン様と街にデートに参りましたの。あ、いけませんわ。デートなんて思ってるのはわたくしだけかもしれませんのに……でも、街中を歩いても馴染むようにと市井の人々のような格好になりまして、手を繋いで歩いてくださりましたの! まるで本物の恋人のようで幸せなひとときでしたわ! そう、手を繋いでいただきましたの! ステファン様の手は働き者の手でいらっしゃるので、右手の人差し指に大きなペンだこがありますのよ? 手を繋いでいただきわたくしの手にそのペンだこが触れますと、真摯に仕事をされるステファン様の姿を思い出して、誇らしい気持ちになるとともに心配になりましたの。エレナ様やメアリさんならご存知かと思いますけど、ステファン様はご自身の体調よりもお仕事を優先される方なものですから、いつか倒れるんじゃないかと──」
ネリーネ様も、兄であるハロルド様に似て饒舌だ。語り出すと止まらない。
……わたしもどこかでお兄様に似て大袈裟で適当なことばっかり言う人間だと思われてるのかもしれない。
わたしは気がついてしまった内容を打ち消すようにかぶりを振る。
「そうですわ! コーデリア様やミンディ様のご婚約者様は騎士を目指されていると伺いましたけど、やはり騎士の方ですと剣を握ってらっしゃるから、生傷が絶えませんでしょう? コーデリア様もご婚約様のお身体が心配に──」
わたしが考え事をしている間もネリーネ様の脱線しまくる話は止まらない。まだ本題に辿り着かない様子だ。
コーデリア様やミンディさんに急に話を振って真っ赤にさせている。
「べっ、別にあの朴念仁はこれから公爵家の跡取りとして教育しなくてはいけませんの。いつまでも剣を振り回している時間なんてありませんわ。生傷なんて作っている場合ではございませんの。……ただこれから領地について学ぶのは、頭をろくにつかってこなかったダスティンには大変かもしれませんけどね! 公爵家の用意した家庭教師による教育で倒れたなんてあったら恥晒しになりますから、わたくしが同じ部屋でしっかりと監視しておりますもの。問題ございませんわ!」
コーデリア様のツンデレは、今日も尊い。
心配になってずっとお部屋で見守ってらっしゃる姿を想像してニヤニヤが止まらない。
「まあ! それでしたら安心ですわね! では、ミンディ様はいかがですの⁈」
ネリーネ様は鼻息荒くミンディさんに詰め寄る。
「えっ? わっわたしもですか⁈ それはその生傷が絶えないのが心配かって聞かれれば心配ですけど、それは別にブライアンが小さな頃から騎士になるって決めている事ですし、わたしが心配するような事じゃないっていうか……」
ミンディさんも婚約者様と幼馴染ということで素直に甘えられないタイプらしい。
しかも義理の妹になるベリンダさんもいるもんね。恥ずかしそうに真っ赤になってしどろもどろで返事をする様はかまいたくなる。
それにしても婚約者であるステファン様の事を真っ直ぐに大好きなネリーネ様は見ていて眩しい。
ドレスについた宝石たちとの相乗効果でキラッキラしていた。
「それで、お二人でデートをされてどうなさいましたの?」
わたしはネリーネ様に逸れてしまった話を元に戻して進めるように促す。
「あら嫌ですわ。わたくしったら! ついつい興味のある話があると話がそれて夢中になってしまうのはわたくしの悪い癖ですわ! それで、わたくしステファン様と市井で人気の芝居を見て参りましたの」
「市井で話題の芝居……?」
「ええ、人気の演目でチケットを買いに行った時もすぐの日付は売り切れて取れずに、随分と先の日付けの──」
──市井で話題の芝居。
その単語を聞いた瞬間、背中に嫌な汗が流れて胸がバクバクと鳴る。
嫌な予感がした。
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