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第四部
162 エレナと社交界の毒花令嬢
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「ねえ、ステファン様がご婚約されたって本当なの?」
夕食を終えてお兄様とアイラン様とまったりとした時間を過ごす。
せっかくなので、お兄様にステファン様の婚約者について探りを入れる。
わたしの質問にお兄様は半目で見つめる。
「……いい? エレナ。殿下ってばエッグスタンドもびっくりするくらい器が小さいから、エレナがステファンを気にしてるなんて絶対に殿下の前で言っちゃダメだよ?」
「お兄様。なんてことおっしゃるの。殿下は寛大よ? わたしをまだかりそめの婚約者として留めておいてくださるんだもの。それにわたしなんかのこと気にも止めてらっしゃらないわ」
「わたしなんかとか言わないの。エレナはこの世で二番目に可愛いんだから自信を持ちなよ」
二番目ね。
お兄様は、お兄様の中で一番可愛いであろう存在なアイラン様の膝枕に横たわっている。くつろぎ時間だからってくつろぎ過ぎだわ。
「で、ステファンが婚約したからなんなの?」
「ですからステファン様の婚約者がどなたか気になるんです。聞いた話によるとハロルド様の妹君だとか」
「そうだけど、それがなんで?」
「やっぱり!」
わたしの耳に入らないことも、なぜかお兄様の耳にはしっかりと入ってる。
「投資家だと伺ったので、領地に建てる工場の出資をしてもらえないかご相談するために、王宮にお越しいただけないか相談したのよ」
「なんだ、そういうことなら早く言ってよ」
お兄様は目を輝かせて起き上がると、今度はアイラン様を膝に乗せる。
小さな悲鳴をあげたアイラン様の顔は真っ赤に染まる。
お兄様はゆでだこみたいなアイラン様の耳元で『工場に出資してくれる投資家をエレナが見つけてきてくれたって』とイスファーン語で囁く。
単なる領地運営の話なはずがお兄様の振る舞いだけみてるとまるで愛を囁いているように見える。
今度はわたしが半目で見つめる番だ。
「ハロルドと僕だと銀行を通しての融資って話になっちゃうからさ。大きい金額ならいいけど、まだどれくらい売れるかもわからないのに、そこまで大々的に融資の話にされちゃうと困ると思ってたんだよね。ネリーネ嬢に投資してもらえたらありがたいよ」
投資話にホクホク顔なお兄様をみて思い出す。
「あ、そうだわ。メアリさんが国内で水着の販売するなら卸は是非ジェイムズ商会にっておっしゃってたわ。優先して卸す代わりにジェームズ商会にも投資してもらったらどうかしら」
「いいね! ……あ。やっぱりよくない。国内では水着は売らないよ」
「どうして? ほら、ボルボラ諸島のリゾート事業が動いてるんだから水着を売り出したら儲かるんじゃない?」
「……ボルボラ諸島ね」
いつもならお金儲けに食いつくお兄様もボルボラ諸島と聞いて遠い目をしてため息をつく。
一時期みたいに無駄にアンニュイだ。
そういえば、聞いてもどうせ教えてくれないし放っておいたから、なんでお兄様があんなに無駄にアンニュイだったのか原因はわからないままだわ。
『ボルボラ諸島がどうかしたの?』
アイラン様はお兄様を心配そうに見つめる。
ボルボラ諸島はアイラン様にとって幸せの象徴だ。なのに、ボルボラ諸島の名を聞いてアンニュイな雰囲気を醸し出されたりしたら気になるだろう。
お兄様は膝の上のアイラン様をギュッと抱きしめた。
『ボルボラ諸島でアイランとの婚約をたくさんの人に祝ってもらってこの世の幸せを独り占めしていい気分だったのを、エレナが水着なんて作っていったりするから殿下に台無しにされたのを思い出しただけだよ』
お兄様はわたしの話が飛躍することを文句言っていた癖に、お兄様も話が飛躍している。
お兄様の話じゃわたしが水着を作った話がなんで殿下への文句になるのかわからないし、殿下がなんでお兄様がいい気分だったのを台無しにしたのかもわからない。
アイラン様も小首を傾げている。
お兄様は王立学園を卒業されたら、殿下の補佐官として働くのに、こんな飛躍しまくる話っぷりで大丈夫なのかしら。
「まあ、とりあえず水着の国内販売については、初期投資の段階じゃ量は作れないからメアリ夫人の話はまた今度だね。とりあえずネリーネ嬢に会う時は僕も会わせてよ」
いつも通りに戻ったお兄様はアイラン様を抱きしめる力を緩めた。
「お兄様から事業の話をするんですか?」
「ううん。エレナがしなよ。僕はステファンがネリーネ嬢に夢中らしいから会ってみたいだけ」
「もう。ステファン様をあまり揶揄ってはいけないわ」
いたずらそうに笑うお兄様は悪趣味だわ。
「それで、ネリーネ様ってどんな方なの? お兄様は同じ講義を受けたりされてたって聞いたからご存知なんでしょ?」
「ネリーネ嬢はハロルドの可愛い妹さ。僕はそれ以上のことを語れるほどネリーネ嬢のことは知らないよ」
「噂では『毒花令嬢』なんて呼ばれてるんでしょう?」
「噂なんてどうでもいいと思わない? ネリーネ嬢はハロルドの可愛い妹で、エレナは僕の可愛い妹だ。それで十分でしょ。エレナはネリーネ嬢の噂を知ってどうするの? ただ噂の中身を知りたいなんて悪趣味だよ」
……そうだわ。自分だって噂に悲しい思いをしたのに。
どんな方か知りたいなら、きちんとお会いして自分で判断すればいいのよ。
わたしはステファン様の婚約者様と会うのを楽しみにすることにした。
夕食を終えてお兄様とアイラン様とまったりとした時間を過ごす。
せっかくなので、お兄様にステファン様の婚約者について探りを入れる。
わたしの質問にお兄様は半目で見つめる。
「……いい? エレナ。殿下ってばエッグスタンドもびっくりするくらい器が小さいから、エレナがステファンを気にしてるなんて絶対に殿下の前で言っちゃダメだよ?」
「お兄様。なんてことおっしゃるの。殿下は寛大よ? わたしをまだかりそめの婚約者として留めておいてくださるんだもの。それにわたしなんかのこと気にも止めてらっしゃらないわ」
「わたしなんかとか言わないの。エレナはこの世で二番目に可愛いんだから自信を持ちなよ」
二番目ね。
お兄様は、お兄様の中で一番可愛いであろう存在なアイラン様の膝枕に横たわっている。くつろぎ時間だからってくつろぎ過ぎだわ。
「で、ステファンが婚約したからなんなの?」
「ですからステファン様の婚約者がどなたか気になるんです。聞いた話によるとハロルド様の妹君だとか」
「そうだけど、それがなんで?」
「やっぱり!」
わたしの耳に入らないことも、なぜかお兄様の耳にはしっかりと入ってる。
「投資家だと伺ったので、領地に建てる工場の出資をしてもらえないかご相談するために、王宮にお越しいただけないか相談したのよ」
「なんだ、そういうことなら早く言ってよ」
お兄様は目を輝かせて起き上がると、今度はアイラン様を膝に乗せる。
小さな悲鳴をあげたアイラン様の顔は真っ赤に染まる。
お兄様はゆでだこみたいなアイラン様の耳元で『工場に出資してくれる投資家をエレナが見つけてきてくれたって』とイスファーン語で囁く。
単なる領地運営の話なはずがお兄様の振る舞いだけみてるとまるで愛を囁いているように見える。
今度はわたしが半目で見つめる番だ。
「ハロルドと僕だと銀行を通しての融資って話になっちゃうからさ。大きい金額ならいいけど、まだどれくらい売れるかもわからないのに、そこまで大々的に融資の話にされちゃうと困ると思ってたんだよね。ネリーネ嬢に投資してもらえたらありがたいよ」
投資話にホクホク顔なお兄様をみて思い出す。
「あ、そうだわ。メアリさんが国内で水着の販売するなら卸は是非ジェイムズ商会にっておっしゃってたわ。優先して卸す代わりにジェームズ商会にも投資してもらったらどうかしら」
「いいね! ……あ。やっぱりよくない。国内では水着は売らないよ」
「どうして? ほら、ボルボラ諸島のリゾート事業が動いてるんだから水着を売り出したら儲かるんじゃない?」
「……ボルボラ諸島ね」
いつもならお金儲けに食いつくお兄様もボルボラ諸島と聞いて遠い目をしてため息をつく。
一時期みたいに無駄にアンニュイだ。
そういえば、聞いてもどうせ教えてくれないし放っておいたから、なんでお兄様があんなに無駄にアンニュイだったのか原因はわからないままだわ。
『ボルボラ諸島がどうかしたの?』
アイラン様はお兄様を心配そうに見つめる。
ボルボラ諸島はアイラン様にとって幸せの象徴だ。なのに、ボルボラ諸島の名を聞いてアンニュイな雰囲気を醸し出されたりしたら気になるだろう。
お兄様は膝の上のアイラン様をギュッと抱きしめた。
『ボルボラ諸島でアイランとの婚約をたくさんの人に祝ってもらってこの世の幸せを独り占めしていい気分だったのを、エレナが水着なんて作っていったりするから殿下に台無しにされたのを思い出しただけだよ』
お兄様はわたしの話が飛躍することを文句言っていた癖に、お兄様も話が飛躍している。
お兄様の話じゃわたしが水着を作った話がなんで殿下への文句になるのかわからないし、殿下がなんでお兄様がいい気分だったのを台無しにしたのかもわからない。
アイラン様も小首を傾げている。
お兄様は王立学園を卒業されたら、殿下の補佐官として働くのに、こんな飛躍しまくる話っぷりで大丈夫なのかしら。
「まあ、とりあえず水着の国内販売については、初期投資の段階じゃ量は作れないからメアリ夫人の話はまた今度だね。とりあえずネリーネ嬢に会う時は僕も会わせてよ」
いつも通りに戻ったお兄様はアイラン様を抱きしめる力を緩めた。
「お兄様から事業の話をするんですか?」
「ううん。エレナがしなよ。僕はステファンがネリーネ嬢に夢中らしいから会ってみたいだけ」
「もう。ステファン様をあまり揶揄ってはいけないわ」
いたずらそうに笑うお兄様は悪趣味だわ。
「それで、ネリーネ様ってどんな方なの? お兄様は同じ講義を受けたりされてたって聞いたからご存知なんでしょ?」
「ネリーネ嬢はハロルドの可愛い妹さ。僕はそれ以上のことを語れるほどネリーネ嬢のことは知らないよ」
「噂では『毒花令嬢』なんて呼ばれてるんでしょう?」
「噂なんてどうでもいいと思わない? ネリーネ嬢はハロルドの可愛い妹で、エレナは僕の可愛い妹だ。それで十分でしょ。エレナはネリーネ嬢の噂を知ってどうするの? ただ噂の中身を知りたいなんて悪趣味だよ」
……そうだわ。自分だって噂に悲しい思いをしたのに。
どんな方か知りたいなら、きちんとお会いして自分で判断すればいいのよ。
わたしはステファン様の婚約者様と会うのを楽しみにすることにした。
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