167 / 222
第四部
157 エレナ、王宮で働く
しおりを挟む
落ち着いたわたしは、リリィさんと文書室に戻る。
リリィさんは殿下たちのお戻りを気にしているけど、メアリさんやハロルド様はいつも通り明るく振舞ってくれる。
二人の気遣いがありがたい。
なにがあったか聞かれたら、また泣いてしまいそうだもの。
自分が考えていた以上にエレナの評判は悪くて、もうすでに手遅れで。なにをどう足掻いても婚約破棄は免れない。
婚約破棄の後の人生を考えなくちゃいけないと決意を新たにする。
リリィさんに宣言したみたいに、女官見習いとしてしっかり仕事をすれば婚約破棄された後も王宮で女官として働く道も開けるはず。
わたしは今まで以上に気合いが入る。
文書室には再び殿下に届けるための書類が山積みになっていた。
書類にざっと目を通し、書類を分類する。
法律関係に問題がありそうな書類は部屋に着いたらまずステファン様にみていただこう。
経理上問題がありそうなのはケインさんに、貴族院に登院する領主たちに確認が必要な書類は愛想のよいニールスさんが届けるとスムーズに済むことが多い……
リリィさんは書類の振り分けが終われば今日はもう上がっていいと言ってくれたけど、そうはいかない。
殿下はあんなに怒ってたのよ。わたしが自分で殿下の役に立ちたいから出仕したいって言ったのに、女官見習いの仕事もろくにしないで外で遊びたいって騒いでるって思われちゃったんだわ。
それにきっとあの部屋のみんなにも、泣いて逃げ出したわたしのことを噂通りのわがままな癇癪持ちの侯爵令嬢だと思われちゃったはず。
少しでもリカバリーしなくっちゃ。
仕事は責任持ってやらせて欲しいとお願いする。振り分けた書類をケースに入れて、さっき逃げ出した部屋に戻った。
部屋に入ると、みんなわたしが戻ってくるなんて思わなかったみたいで、驚いた顔を向ける。
そんななか、最近はわたしを喜んで出迎えてくれていたステファン様だけが顔を背けた。
「ステファン様……先ほどは兄が余計なことを言うものだから、ご迷惑をおかけいたしました」
「いや。こちらこそ、さっきは、あの……申し訳なかった」
ステファン様は顔を背けたまま絞り出すようにそう言った。
気を使わせてしまったのよね。ステファン様に謝らせてしまった。
図書館で本をご紹介しようとしてくださっただけなのを、お兄様がデートだなんて言うから。
十歳くらい年上だろうステファン様が、子どもみたいなエレナなんかを相手になんてするわけがない。
給金もまだあまりもらえない女官見習いだと思っていたから、本を手軽に買えないと思って本を貸してくださったり図書館に連れて行ってくださろうとしただけなのに。
それをお兄様があんなに大騒ぎするから。きっとステファン様まで、仕事中に見境なく女性を口説いて街で遊ぼうと騒いでいると思われてしまったわ。
女性を口説くどころか、食事を取る間も惜しんで仕事をしていらっしゃるのに……
わたしは、そっとステファン様の手を取る。
「わたしがきちんと殿下にご説明しますわね」
「へっ?」
一瞬わたしの顔を見たステファン様は慌てて顔を背ける。逃げ出そうとする手をギュッと握る。流石に振り払うまではされなかった。
「ステファン様がわたしみたいな子供相手にデートなんて誘うわけないのにお兄様が大騒ぎするから、きっと殿下はステファン様が女性とみたら見境なく口説いて仕事もろくにしないと勘違いされてお怒りになったんだわ。女の子をちやほやすることばかり考えてるお兄様や、仕事をサボることばかり考えているような役に立たない役人と、この部屋の皆様は違います。きちんと説明すれば殿下はわかってくださるはずだわ」
「いや、あの……ご婚約者様のお手を煩わせるようなことは……」
丁寧な言葉遣いにステファン様と距離を感じる。
騒ぎの前までは、話っぷりだって先生みたいだったのに。
「ステファン様は、いままでのようにわたしの先生ではいてくださらないのね」
そう口に出してしまうと、また涙がこぼれそうになる。
「先生……あ、いや。そうだな先生と生徒だ。私はその、本当は王立学園で講師を勤めて君のような優秀な生徒を受け持ちたいと思っていたのだ」
優秀な方に優秀だと褒めてもらえると、ぺちゃんこに潰れた自尊心が少しだけ少しだけ持ち直す。
「だから、その、私も君の師だと自認しているので、生徒である君を矢面に立たせることはしたくない。私自身で王太子殿下に説明させていただくので任せてくれたまえ」
ステファン様はようやくわたしと目を合わせた。
「あと、その……君と一度話せば、噂の令嬢とは異なることはわかるはずだ。ここにいる皆、君は噂と異なることを理解している」
わたしが部屋の中を見回すと、みんな頷いてくれていた。
親切で優しいみんなのためにも役に立ちたい。
わたしは持ってきた書類を説明しながら配った。
リリィさんは殿下たちのお戻りを気にしているけど、メアリさんやハロルド様はいつも通り明るく振舞ってくれる。
二人の気遣いがありがたい。
なにがあったか聞かれたら、また泣いてしまいそうだもの。
自分が考えていた以上にエレナの評判は悪くて、もうすでに手遅れで。なにをどう足掻いても婚約破棄は免れない。
婚約破棄の後の人生を考えなくちゃいけないと決意を新たにする。
リリィさんに宣言したみたいに、女官見習いとしてしっかり仕事をすれば婚約破棄された後も王宮で女官として働く道も開けるはず。
わたしは今まで以上に気合いが入る。
文書室には再び殿下に届けるための書類が山積みになっていた。
書類にざっと目を通し、書類を分類する。
法律関係に問題がありそうな書類は部屋に着いたらまずステファン様にみていただこう。
経理上問題がありそうなのはケインさんに、貴族院に登院する領主たちに確認が必要な書類は愛想のよいニールスさんが届けるとスムーズに済むことが多い……
リリィさんは書類の振り分けが終われば今日はもう上がっていいと言ってくれたけど、そうはいかない。
殿下はあんなに怒ってたのよ。わたしが自分で殿下の役に立ちたいから出仕したいって言ったのに、女官見習いの仕事もろくにしないで外で遊びたいって騒いでるって思われちゃったんだわ。
それにきっとあの部屋のみんなにも、泣いて逃げ出したわたしのことを噂通りのわがままな癇癪持ちの侯爵令嬢だと思われちゃったはず。
少しでもリカバリーしなくっちゃ。
仕事は責任持ってやらせて欲しいとお願いする。振り分けた書類をケースに入れて、さっき逃げ出した部屋に戻った。
部屋に入ると、みんなわたしが戻ってくるなんて思わなかったみたいで、驚いた顔を向ける。
そんななか、最近はわたしを喜んで出迎えてくれていたステファン様だけが顔を背けた。
「ステファン様……先ほどは兄が余計なことを言うものだから、ご迷惑をおかけいたしました」
「いや。こちらこそ、さっきは、あの……申し訳なかった」
ステファン様は顔を背けたまま絞り出すようにそう言った。
気を使わせてしまったのよね。ステファン様に謝らせてしまった。
図書館で本をご紹介しようとしてくださっただけなのを、お兄様がデートだなんて言うから。
十歳くらい年上だろうステファン様が、子どもみたいなエレナなんかを相手になんてするわけがない。
給金もまだあまりもらえない女官見習いだと思っていたから、本を手軽に買えないと思って本を貸してくださったり図書館に連れて行ってくださろうとしただけなのに。
それをお兄様があんなに大騒ぎするから。きっとステファン様まで、仕事中に見境なく女性を口説いて街で遊ぼうと騒いでいると思われてしまったわ。
女性を口説くどころか、食事を取る間も惜しんで仕事をしていらっしゃるのに……
わたしは、そっとステファン様の手を取る。
「わたしがきちんと殿下にご説明しますわね」
「へっ?」
一瞬わたしの顔を見たステファン様は慌てて顔を背ける。逃げ出そうとする手をギュッと握る。流石に振り払うまではされなかった。
「ステファン様がわたしみたいな子供相手にデートなんて誘うわけないのにお兄様が大騒ぎするから、きっと殿下はステファン様が女性とみたら見境なく口説いて仕事もろくにしないと勘違いされてお怒りになったんだわ。女の子をちやほやすることばかり考えてるお兄様や、仕事をサボることばかり考えているような役に立たない役人と、この部屋の皆様は違います。きちんと説明すれば殿下はわかってくださるはずだわ」
「いや、あの……ご婚約者様のお手を煩わせるようなことは……」
丁寧な言葉遣いにステファン様と距離を感じる。
騒ぎの前までは、話っぷりだって先生みたいだったのに。
「ステファン様は、いままでのようにわたしの先生ではいてくださらないのね」
そう口に出してしまうと、また涙がこぼれそうになる。
「先生……あ、いや。そうだな先生と生徒だ。私はその、本当は王立学園で講師を勤めて君のような優秀な生徒を受け持ちたいと思っていたのだ」
優秀な方に優秀だと褒めてもらえると、ぺちゃんこに潰れた自尊心が少しだけ少しだけ持ち直す。
「だから、その、私も君の師だと自認しているので、生徒である君を矢面に立たせることはしたくない。私自身で王太子殿下に説明させていただくので任せてくれたまえ」
ステファン様はようやくわたしと目を合わせた。
「あと、その……君と一度話せば、噂の令嬢とは異なることはわかるはずだ。ここにいる皆、君は噂と異なることを理解している」
わたしが部屋の中を見回すと、みんな頷いてくれていた。
親切で優しいみんなのためにも役に立ちたい。
わたしは持ってきた書類を説明しながら配った。
2
お気に入りに追加
1,115
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は自称親友の令嬢に婚約者を取られ、予定どおり無事に婚約破棄されることに成功しましたが、そのあとのことは考えてませんでした
みゅー
恋愛
婚約者のエーリクと共に招待された舞踏会、公の場に二人で参加するのは初めてだったオルヘルスは、緊張しながらその場へ臨んだ。
会場に入ると前方にいた幼馴染みのアリネアと目が合った。すると、彼女は突然泣き出しそんな彼女にあろうことか婚約者のエーリクが駆け寄る。
そんな二人に注目が集まるなか、エーリクは突然オルヘルスに婚約破棄を言い渡す……。
【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?
ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。
卒業3か月前の事です。
卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。
もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。
カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。
でも大丈夫ですか?
婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。
※ゆるゆる設定です
※軽い感じで読み流して下さい
毒、毒、毒⁉︎ 毒で死んでループする令嬢は見知らぬうちに、魔法使いに溺愛されていた。
にのまえ
恋愛
婚約者の裏切り、毒キノコなど……
毎回、毒で死んで7歳まで巻き戻る、公爵家の令嬢ルルーナ・ダルダニオン。
「これで、10回目の巻き戻り……」
巻き戻りにも、飽きてきたルルーナ。
今度こそ生きてみせる。と決めた、彼女の運命がいま動き出す。
エルブリスタにて掲載中です。
新しくプロローグを追加いたしました。
いらないと言ったのはあなたの方なのに
水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。
セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。
エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。
ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。
しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。
◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬
◇いいね、エールありがとうございます!
転生したら死亡エンドしかない悪役令嬢だったので、王子との婚約を全力で回避します
真理亜
恋愛
気合いを入れて臨んだ憧れの第二王子とのお茶会。婚約者に選ばれようと我先にと飛び出した私は、将棋倒しに巻き込まれて意識を失う。目が覚めた時には前世の記憶が蘇っていた。そしてこの世界が自分が好きだった小説の世界だと知る。どうやら転生したらしい。しかも死亡エンドしかない悪役令嬢に! これは是が非でも王子との婚約を回避せねば! だけどなんだか知らないけど、いくら断っても王子の方から近寄って来るわ、ヒロインはヒロインで全然攻略しないわでもう大変! 一体なにがどーなってんの!? 長くなって来たんで短編から長編に変更しました。
兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜
藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。
__婚約破棄、大歓迎だ。
そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った!
勝負は一瞬!王子は場外へ!
シスコン兄と無自覚ブラコン妹。
そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。
周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!?
短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています
カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。
今さら、私に構わないでください
ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。
彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。
愛し合う二人の前では私は悪役。
幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。
しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……?
タイトル変更しました。
【完結】 お前を愛することはないと、だんなさまに宣言されました。その後、イケメン隣国の王子が物欲しそうに付きまとって来るんですけど?!
buchi
恋愛
トマシンは伯爵家の令嬢。平民の愛人と結婚したいスノードン侯爵は、おとなしそうな令嬢トマシンと偽装結婚を謀る。そしてトマシンに派手好き、遊び好きとうわさを立てて、気の毒な夫として同情を集めようとした。これで浮気もしたい放題。何ならトマシンの有責離婚で、あわよくば愛人と再婚したい。有責の証拠のためにトマシンが連れていかれた娼館で、トマシンは美しい宝石のようなイケメンに出会う。「イケメン、危険」美人でも人目を惹くわけでもないトマシンは用心するが、イケメンの方が引っ付いてきた?「ねえねえ、復讐しようよ~」これは、イケメン主導による、トマシンの予期せぬザマァ&シンデレラストーリー。
甘々?は後半です。すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる