153 / 222
第四部
147 エレナ、王宮で働く
しおりを挟む
お兄様は自分から私たちのことを食堂に誘ったくせに、食堂の利用方法と席を案内してくれたら、知り合いを見つけたらしくそちらに行ってしまった。
ひどい。
「メアリさん、うちのお兄様が自由すぎてごめんなさいね」
目の前でパンをちぎるメアリさんにお詫びする。
「いえいえ。謝る必要なんて全くないので気にしないでください。むしろ近くで拝めて眼福でしたわ。王立学園で女生徒人気がトップクラスなのも納得の振る舞いですよね」
お兄様が触れた手をわきわきとさせて嬉しそうなメアリさんにホッとする。
「それにしても、わたしが王立学園をお休みしている間に、メアリさんがジェームズ商会の若奥様になってるなんて想像もしていなかったわ」
「本当に噂をご存じなかったんですね」
「ええ。それに、メアリさんのご婚約者様はわたしと同い年でしょう。結婚されるなんて今でも信じられなくて」
「そうなんです。だから、わたしも結婚はまだ二年は先だって油断してたんですけどね……」
新婚ほやほやなはずのメアリさんは、嬉しそうと言うよりもゲンナリしている。
もしかして、息子と結婚すると思ってたら父親の妾だったとか⁈
「わたしは一応子爵家の娘だから、十八歳にならないと結婚できないんですけど、アイザック……あ、相手はアイザック・ジェームズっていうんですけど」
「もちろん知ってるわ。同じクラスですし、お世話になりましたもの」
よかった。わたしの認識通り結婚相手は息子のままだった。
ジェイムズ商会のご子息であるアイザックさんには以前カフスボタンの依頼でお世話になった。
その上お兄様がカフスボタンのオーダーを受ける時にわたしが殿下に贈ったのを売り文句にするならマージン寄越せなんて言って恥ずかしい思いもしてる。
忘れられるはずがない。
「ありがとうございます。知ってるって聞いたら喜びますよ。で、こないだわたしが十八歳になった途端アイザックのやつが『僕は平民だから結婚年齢の縛りはないし、メアリは十八歳になったんだから結婚できるはずだ』って言い出して、貴族院に『婚姻によるストーン子爵家からの離籍』を申請しにいっちゃったんです。こちらはまだ二年後だと思ってるから、嫁入りの準備なんてろくにしてないんですよ? 嫁に行っただけで結婚式もあげてないんですから」
確かに、結婚の年齢制限があるのは貴族だけだけど……
でもだからって勝手に申請はできないはず。
「申請するにも、子爵家当主であるストーン子爵の同意がないと無理でしょう?」
「我が家はジェイムズ家にかなりの金額を援助してもらってるので、父は断れないんです。跡継ぎでもないわたしが王立学園に通えてるのだって、ジェイムズ家のお義父様がお金で教養とコネが手に入るなら安いもんだって払ってくれてるからなんです。しかも護衛のためになんて言って双子の弟の分まで払ってくれてるので、うちの父はジェイムズ家に頭があがらないんですよ」
「そうだったのね。貴族院ではすぐに受け付けてもらえたの?」
「貴族院も最初は突っぱねてくれたんですよ」
メアリさんはちぎったパンをスープに投入すると一気にかき込み、ドンと机を叩く。
熱がこもっている。
そうよね。貴族院は貴族のプライドを守ることに躍起だもの。
言い方は悪いけど、いくら国内最大級の商会であるジェイムズ商会子息の結婚だからって平民の言い分を貴族院が飲むとは思えない。
「ほら、男女逆だとまあまあある話じゃないですか。ロリコンのお貴族様が趣味を隠しもせずに平民の少女娶ったりとかで十歳になるかならないかの貴族夫人とか」
「……そうね。聞いたことあるわ」
わたしはメアリさんの嫌そうな顔に頷きながら、違和感を覚える。
あれ? ロリコンって、この世界でも通じる言葉だっけ?
確か小説の題名が由来じゃなかった? この世界の小説じゃないよね?
わたしの違和感にメアリさんは気を止めることもなく喋り続ける。
「貴族であれば認められない年齢にも関わらず、結婚年齢の決まりのない平民の少女であれば、妻として貴族籍に入れるのは認められて、貴族として結婚が認められる年齢の令嬢が結婚年齢の決まりのない十六歳の平民と結婚するために貴族籍を離脱するのが認められないのはおかしいだろって大騒ぎしたんです。だからアイザックのせいでわたしは一気に有名人になっちゃって……わたしはモブでいたかったのに」
モブ? モブも通じる? みんな普段使う言葉?
ううん。お兄様たちが使うのを聞いたことない。
「そもそも、激重執着系の腹黒糸目男子はアニキャラで十分っていうか、リアルででっかい矢印向けられると困るっていうか……」
アニキャラ⁈ 兄キャラじゃないよね? あのアニメのことだよね?
なんでメアリさんはアニキャラなんて言葉知ってるの?
──もしかして……メアリさんは転生者なの⁈
ひどい。
「メアリさん、うちのお兄様が自由すぎてごめんなさいね」
目の前でパンをちぎるメアリさんにお詫びする。
「いえいえ。謝る必要なんて全くないので気にしないでください。むしろ近くで拝めて眼福でしたわ。王立学園で女生徒人気がトップクラスなのも納得の振る舞いですよね」
お兄様が触れた手をわきわきとさせて嬉しそうなメアリさんにホッとする。
「それにしても、わたしが王立学園をお休みしている間に、メアリさんがジェームズ商会の若奥様になってるなんて想像もしていなかったわ」
「本当に噂をご存じなかったんですね」
「ええ。それに、メアリさんのご婚約者様はわたしと同い年でしょう。結婚されるなんて今でも信じられなくて」
「そうなんです。だから、わたしも結婚はまだ二年は先だって油断してたんですけどね……」
新婚ほやほやなはずのメアリさんは、嬉しそうと言うよりもゲンナリしている。
もしかして、息子と結婚すると思ってたら父親の妾だったとか⁈
「わたしは一応子爵家の娘だから、十八歳にならないと結婚できないんですけど、アイザック……あ、相手はアイザック・ジェームズっていうんですけど」
「もちろん知ってるわ。同じクラスですし、お世話になりましたもの」
よかった。わたしの認識通り結婚相手は息子のままだった。
ジェイムズ商会のご子息であるアイザックさんには以前カフスボタンの依頼でお世話になった。
その上お兄様がカフスボタンのオーダーを受ける時にわたしが殿下に贈ったのを売り文句にするならマージン寄越せなんて言って恥ずかしい思いもしてる。
忘れられるはずがない。
「ありがとうございます。知ってるって聞いたら喜びますよ。で、こないだわたしが十八歳になった途端アイザックのやつが『僕は平民だから結婚年齢の縛りはないし、メアリは十八歳になったんだから結婚できるはずだ』って言い出して、貴族院に『婚姻によるストーン子爵家からの離籍』を申請しにいっちゃったんです。こちらはまだ二年後だと思ってるから、嫁入りの準備なんてろくにしてないんですよ? 嫁に行っただけで結婚式もあげてないんですから」
確かに、結婚の年齢制限があるのは貴族だけだけど……
でもだからって勝手に申請はできないはず。
「申請するにも、子爵家当主であるストーン子爵の同意がないと無理でしょう?」
「我が家はジェイムズ家にかなりの金額を援助してもらってるので、父は断れないんです。跡継ぎでもないわたしが王立学園に通えてるのだって、ジェイムズ家のお義父様がお金で教養とコネが手に入るなら安いもんだって払ってくれてるからなんです。しかも護衛のためになんて言って双子の弟の分まで払ってくれてるので、うちの父はジェイムズ家に頭があがらないんですよ」
「そうだったのね。貴族院ではすぐに受け付けてもらえたの?」
「貴族院も最初は突っぱねてくれたんですよ」
メアリさんはちぎったパンをスープに投入すると一気にかき込み、ドンと机を叩く。
熱がこもっている。
そうよね。貴族院は貴族のプライドを守ることに躍起だもの。
言い方は悪いけど、いくら国内最大級の商会であるジェイムズ商会子息の結婚だからって平民の言い分を貴族院が飲むとは思えない。
「ほら、男女逆だとまあまあある話じゃないですか。ロリコンのお貴族様が趣味を隠しもせずに平民の少女娶ったりとかで十歳になるかならないかの貴族夫人とか」
「……そうね。聞いたことあるわ」
わたしはメアリさんの嫌そうな顔に頷きながら、違和感を覚える。
あれ? ロリコンって、この世界でも通じる言葉だっけ?
確か小説の題名が由来じゃなかった? この世界の小説じゃないよね?
わたしの違和感にメアリさんは気を止めることもなく喋り続ける。
「貴族であれば認められない年齢にも関わらず、結婚年齢の決まりのない平民の少女であれば、妻として貴族籍に入れるのは認められて、貴族として結婚が認められる年齢の令嬢が結婚年齢の決まりのない十六歳の平民と結婚するために貴族籍を離脱するのが認められないのはおかしいだろって大騒ぎしたんです。だからアイザックのせいでわたしは一気に有名人になっちゃって……わたしはモブでいたかったのに」
モブ? モブも通じる? みんな普段使う言葉?
ううん。お兄様たちが使うのを聞いたことない。
「そもそも、激重執着系の腹黒糸目男子はアニキャラで十分っていうか、リアルででっかい矢印向けられると困るっていうか……」
アニキャラ⁈ 兄キャラじゃないよね? あのアニメのことだよね?
なんでメアリさんはアニキャラなんて言葉知ってるの?
──もしかして……メアリさんは転生者なの⁈
1
お気に入りに追加
1,115
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は自称親友の令嬢に婚約者を取られ、予定どおり無事に婚約破棄されることに成功しましたが、そのあとのことは考えてませんでした
みゅー
恋愛
婚約者のエーリクと共に招待された舞踏会、公の場に二人で参加するのは初めてだったオルヘルスは、緊張しながらその場へ臨んだ。
会場に入ると前方にいた幼馴染みのアリネアと目が合った。すると、彼女は突然泣き出しそんな彼女にあろうことか婚約者のエーリクが駆け寄る。
そんな二人に注目が集まるなか、エーリクは突然オルヘルスに婚約破棄を言い渡す……。
【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?
ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。
卒業3か月前の事です。
卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。
もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。
カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。
でも大丈夫ですか?
婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。
※ゆるゆる設定です
※軽い感じで読み流して下さい
毒、毒、毒⁉︎ 毒で死んでループする令嬢は見知らぬうちに、魔法使いに溺愛されていた。
にのまえ
恋愛
婚約者の裏切り、毒キノコなど……
毎回、毒で死んで7歳まで巻き戻る、公爵家の令嬢ルルーナ・ダルダニオン。
「これで、10回目の巻き戻り……」
巻き戻りにも、飽きてきたルルーナ。
今度こそ生きてみせる。と決めた、彼女の運命がいま動き出す。
エルブリスタにて掲載中です。
新しくプロローグを追加いたしました。
いらないと言ったのはあなたの方なのに
水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。
セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。
エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。
ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。
しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。
◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬
◇いいね、エールありがとうございます!
転生したら死亡エンドしかない悪役令嬢だったので、王子との婚約を全力で回避します
真理亜
恋愛
気合いを入れて臨んだ憧れの第二王子とのお茶会。婚約者に選ばれようと我先にと飛び出した私は、将棋倒しに巻き込まれて意識を失う。目が覚めた時には前世の記憶が蘇っていた。そしてこの世界が自分が好きだった小説の世界だと知る。どうやら転生したらしい。しかも死亡エンドしかない悪役令嬢に! これは是が非でも王子との婚約を回避せねば! だけどなんだか知らないけど、いくら断っても王子の方から近寄って来るわ、ヒロインはヒロインで全然攻略しないわでもう大変! 一体なにがどーなってんの!? 長くなって来たんで短編から長編に変更しました。
兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜
藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。
__婚約破棄、大歓迎だ。
そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った!
勝負は一瞬!王子は場外へ!
シスコン兄と無自覚ブラコン妹。
そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。
周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!?
短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています
カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。
今さら、私に構わないでください
ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。
彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。
愛し合う二人の前では私は悪役。
幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。
しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……?
タイトル変更しました。
【完結】 お前を愛することはないと、だんなさまに宣言されました。その後、イケメン隣国の王子が物欲しそうに付きまとって来るんですけど?!
buchi
恋愛
トマシンは伯爵家の令嬢。平民の愛人と結婚したいスノードン侯爵は、おとなしそうな令嬢トマシンと偽装結婚を謀る。そしてトマシンに派手好き、遊び好きとうわさを立てて、気の毒な夫として同情を集めようとした。これで浮気もしたい放題。何ならトマシンの有責離婚で、あわよくば愛人と再婚したい。有責の証拠のためにトマシンが連れていかれた娼館で、トマシンは美しい宝石のようなイケメンに出会う。「イケメン、危険」美人でも人目を惹くわけでもないトマシンは用心するが、イケメンの方が引っ付いてきた?「ねえねえ、復讐しようよ~」これは、イケメン主導による、トマシンの予期せぬザマァ&シンデレラストーリー。
甘々?は後半です。すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる