145 / 228
第三部 運命の番(つがい)のお兄様に婚約者の座を譲って破滅フラグを回避します!
137 幼い頃の思い出の別荘
しおりを挟む
お兄様はひとしきり、「あー。かわいい」だとか「あー。癒される」だとかのたまってアイラン様の膝枕でゴロゴロとしている。
ついつい「呆れた」と口から漏れ出てしまうくと、殿下も「そう……だな……」と応じて呟いた。
「何? 二人とも何か言いたいことあるなら、はっきり言えば?」
アイラン様に膝枕してもらったまま半目でわたしと殿下を見つめているお兄様は、挑発するような態度だ。
殿下に対してもアイラン様に対しても不敬この上ない。
「ネネイがいないからって調子に乗って。だらしない格好で子供みたいに甘えたりして、みっともないわ」
はっきりと断言する。
「ふふ。子供みたい?」
お兄様はそう言って笑うと、寝転がったままアイラン様の黒髪を一房すくう。
真っ赤に染まっていくアイラン様に微笑みながら、黒髪に唇を落とした。
『エレナったら僕が子供みたいな振る舞いしてるだって。アイラン様はどう思う?』
『……とんでもないわ。大人よ』
新婚だ何だと騒いでいても、まだ十四歳のアイラン様には刺激が強すぎるんだろう。
顔を横に振る首筋まで赤くなっている。
「ほら。膝枕なんて婚約者らしい戯れだよ。ウェードだってそう思うでしょう?」
ハーブティーと焼き菓子の給仕をしているウェードにまで同意を求める。
「さあ、どうなのでしょう。私の妻は庶民の出なものですから、貴族の子息として一般的な婚約者というものに縁遠く、残念ながらエリオット様のご質問にお答えできるほどの経験を持ち得ておりませんね」
そう言って、給仕を終えたウェードはお辞儀をすると壁際で待機する。
この状態になったら、殿下のご用事でもないと、置物よろしく私たちが何を言っても答えてくれない。
お兄様はつまらなそうに唇を尖らせる。
わたしは、テーブルに刺繍枠を置き、ハーブティーをひと口飲んで無理やりにでもリラックスしようとする。
「じゃあ、ランスとかブライアンに聞いてみようかな」
新婚のランス様や、もうすぐ結婚するブライアン様なら、確かに質問相手として相応しいかもしれないけれど、この場に呼びつけてそんな質問されたりするのは針のむしろに違いないわ。
しつこいお兄様を睨む。
「やめてやれ。いいか、エリオット。別に私もエレナも膝枕をすること自体が子供のような振る舞いだと言いたい訳ではなく、だらしない姿で甘えるのは外聞が悪いと言いたいだけだ。するのであれば誰から見ても恥ずかしくない振る舞いを心掛けろ」
殿下はそう言ってご自身の膝の上で握る手に力をこめた。
「ふぅん。じゃあ手本を見せてよ」
「は?」
そう言ってお兄様は有無を言わせないくらいの満面の笑顔を浮かべた。
「さあ、早く。殿下は臣民の規範となるべきお方でしょう。ほら、僕に誰から見ても恥ずかしくない膝枕を教えてください。あ、それとも、やっぱり外聞のよい膝枕なんて殿下でも無理でしたか? できないことおっしゃるなんて殿下らしくもない。そんなことないですよね? どうなんですか?」
お兄様はアイラン様が自分のバックにいるからと強気だ。ニコニコと笑いながら責め立てる。
「……いま、この場でやりようがないだろう」
殿下は出来るとも出来ないとも言わずに、やりようがないことにして逃げようとする。
「殿下ったら何をおっしゃてるんですか? 殿下だって隣に婚約者がいるじゃない。むしろこの場以外にやる場があると思えませんけど? ほら、エレナ。殿下が外聞のよい膝枕の手本を僕に見せてくださるそうだから、殿下にお膝を貸して差し上げて?」
「えっ?」
「エレナは別に殿下に膝を貸すくらいは嫌じゃないでしょ?」
意地の悪い聞き方だ。そんな聞き方されて断ったら殿下に対して失礼な態度になる。
こんなことで不敬罪で訴えられたりしたら困るわ。
「……そりゃ、もちろん嫌な訳ないわ」
わたしはそう答えるしかない。
それなのに、隣に座っている殿下が両手で顔を覆い下を向くのが目の端にとまる。
呻き声のようなお腹から振り絞った深いため息が、わたしの返事を責めているように聞こえた。
「さあ、お手本をどうぞ」
こちらの気持ちも気にせずお兄様は、殿下に「ほら、ほら」と急かす。
「エレナ……すまない……」
殿下の苦しげな謝罪の声が聞こえた後、ポスっと私の眼下に淡い金色が広がった。
ついつい「呆れた」と口から漏れ出てしまうくと、殿下も「そう……だな……」と応じて呟いた。
「何? 二人とも何か言いたいことあるなら、はっきり言えば?」
アイラン様に膝枕してもらったまま半目でわたしと殿下を見つめているお兄様は、挑発するような態度だ。
殿下に対してもアイラン様に対しても不敬この上ない。
「ネネイがいないからって調子に乗って。だらしない格好で子供みたいに甘えたりして、みっともないわ」
はっきりと断言する。
「ふふ。子供みたい?」
お兄様はそう言って笑うと、寝転がったままアイラン様の黒髪を一房すくう。
真っ赤に染まっていくアイラン様に微笑みながら、黒髪に唇を落とした。
『エレナったら僕が子供みたいな振る舞いしてるだって。アイラン様はどう思う?』
『……とんでもないわ。大人よ』
新婚だ何だと騒いでいても、まだ十四歳のアイラン様には刺激が強すぎるんだろう。
顔を横に振る首筋まで赤くなっている。
「ほら。膝枕なんて婚約者らしい戯れだよ。ウェードだってそう思うでしょう?」
ハーブティーと焼き菓子の給仕をしているウェードにまで同意を求める。
「さあ、どうなのでしょう。私の妻は庶民の出なものですから、貴族の子息として一般的な婚約者というものに縁遠く、残念ながらエリオット様のご質問にお答えできるほどの経験を持ち得ておりませんね」
そう言って、給仕を終えたウェードはお辞儀をすると壁際で待機する。
この状態になったら、殿下のご用事でもないと、置物よろしく私たちが何を言っても答えてくれない。
お兄様はつまらなそうに唇を尖らせる。
わたしは、テーブルに刺繍枠を置き、ハーブティーをひと口飲んで無理やりにでもリラックスしようとする。
「じゃあ、ランスとかブライアンに聞いてみようかな」
新婚のランス様や、もうすぐ結婚するブライアン様なら、確かに質問相手として相応しいかもしれないけれど、この場に呼びつけてそんな質問されたりするのは針のむしろに違いないわ。
しつこいお兄様を睨む。
「やめてやれ。いいか、エリオット。別に私もエレナも膝枕をすること自体が子供のような振る舞いだと言いたい訳ではなく、だらしない姿で甘えるのは外聞が悪いと言いたいだけだ。するのであれば誰から見ても恥ずかしくない振る舞いを心掛けろ」
殿下はそう言ってご自身の膝の上で握る手に力をこめた。
「ふぅん。じゃあ手本を見せてよ」
「は?」
そう言ってお兄様は有無を言わせないくらいの満面の笑顔を浮かべた。
「さあ、早く。殿下は臣民の規範となるべきお方でしょう。ほら、僕に誰から見ても恥ずかしくない膝枕を教えてください。あ、それとも、やっぱり外聞のよい膝枕なんて殿下でも無理でしたか? できないことおっしゃるなんて殿下らしくもない。そんなことないですよね? どうなんですか?」
お兄様はアイラン様が自分のバックにいるからと強気だ。ニコニコと笑いながら責め立てる。
「……いま、この場でやりようがないだろう」
殿下は出来るとも出来ないとも言わずに、やりようがないことにして逃げようとする。
「殿下ったら何をおっしゃてるんですか? 殿下だって隣に婚約者がいるじゃない。むしろこの場以外にやる場があると思えませんけど? ほら、エレナ。殿下が外聞のよい膝枕の手本を僕に見せてくださるそうだから、殿下にお膝を貸して差し上げて?」
「えっ?」
「エレナは別に殿下に膝を貸すくらいは嫌じゃないでしょ?」
意地の悪い聞き方だ。そんな聞き方されて断ったら殿下に対して失礼な態度になる。
こんなことで不敬罪で訴えられたりしたら困るわ。
「……そりゃ、もちろん嫌な訳ないわ」
わたしはそう答えるしかない。
それなのに、隣に座っている殿下が両手で顔を覆い下を向くのが目の端にとまる。
呻き声のようなお腹から振り絞った深いため息が、わたしの返事を責めているように聞こえた。
「さあ、お手本をどうぞ」
こちらの気持ちも気にせずお兄様は、殿下に「ほら、ほら」と急かす。
「エレナ……すまない……」
殿下の苦しげな謝罪の声が聞こえた後、ポスっと私の眼下に淡い金色が広がった。
6
お気に入りに追加
1,110
あなたにおすすめの小説
父の大事な家族は、再婚相手と異母妹のみで、私は元より家族ではなかったようです
珠宮さくら
恋愛
フィロマという国で、母の病を治そうとした1人の少女がいた。母のみならず、その病に苦しむ者は、年々増えていたが、治せる薬はなく、進行を遅らせる薬しかなかった。
その病を色んな本を読んで調べあげた彼女の名前は、ヴァリャ・チャンダ。だが、それで病に効く特効薬が出来上がることになったが、母を救うことは叶わなかった。
そんな彼女が、楽しみにしていたのは隣国のラジェスへの留学だったのだが、そのために必死に貯めていた資金も父に取り上げられ、義母と異母妹の散財のために金を稼げとまで言われてしまう。
そこにヴァリャにとって救世主のように現れた令嬢がいたことで、彼女の人生は一変していくのだが、彼女らしさが消えることはなかった。
今さら後悔しても知りません 婚約者は浮気相手に夢中なようなので消えてさしあげます
神崎 ルナ
恋愛
旧題:長年の婚約者は政略結婚の私より、恋愛結婚をしたい相手がいるようなので、消えてあげようと思います。
【奨励賞頂きましたっ( ゚Д゚) ありがとうございます(人''▽`)】 コッペリア・マドルーク公爵令嬢は、王太子アレンの婚約者として良好な関係を維持してきたと思っていた。
だが、ある時アレンとマリアの会話を聞いてしまう。
「あんな堅苦しい女性は苦手だ。もし許されるのであれば、君を王太子妃にしたかった」
マリア・ダグラス男爵令嬢は下級貴族であり、王太子と婚約などできるはずもない。
(そう。そんなに彼女が良かったの)
長年に渡る王太子妃教育を耐えてきた彼女がそう決意を固めるのも早かった。
何故なら、彼らは将来自分達の子を王に据え、更にはコッペリアに公務を押し付け、自分達だけ遊び惚けていようとしているようだったから。
(私は都合のいい道具なの?)
絶望したコッペリアは毒薬を入手しようと、お忍びでとある店を探す。
侍女達が話していたのはここだろうか?
店に入ると老婆が迎えてくれ、コッペリアに何が入用か、と尋ねてきた。
コッペリアが正直に全て話すと、
「今のあんたにぴったりの物がある」
渡されたのは、小瓶に入った液状の薬。
「体を休める薬だよ。ん? 毒じゃないのかって? まあ、似たようなものだね。これを飲んだらあんたは眠る。ただし」
そこで老婆は言葉を切った。
「目覚めるには条件がある。それを満たすのは並大抵のことじゃ出来ないよ。下手をすれば永遠に眠ることになる。それでもいいのかい?」
コッペリアは深く頷いた。
薬を飲んだコッペリアは眠りについた。
そして――。
アレン王子と向かい合うコッペリア(?)がいた。
「は? 書類の整理を手伝え? お断り致しますわ」
※お読み頂きありがとうございます(人''▽`) hotランキング、全ての小説、恋愛小説ランキングにて1位をいただきました( ゚Д゚)
(2023.2.3)
ありがとうございますっm(__)m ジャンピング土下座×1000000
※お読みくださり有難うございました(人''▽`) 完結しました(^▽^)
大切なあのひとを失ったこと絶対許しません
にいるず
恋愛
公爵令嬢キャスリン・ダイモックは、王太子の思い人の命を脅かした罪状で、毒杯を飲んで死んだ。
はずだった。
目を開けると、いつものベッド。ここは天国?違う?
あれっ、私生きかえったの?しかも若返ってる?
でもどうしてこの世界にあの人はいないの?どうしてみんなあの人の事を覚えていないの?
私だけは、自分を犠牲にして助けてくれたあの人の事を忘れない。絶対に許すものか。こんな原因を作った人たちを。
どう頑張っても死亡ルートしかない悪役令嬢に転生したので、一切頑張らないことにしました
小倉みち
恋愛
7歳の誕生日、突然雷に打たれ、そのショックで前世を思い出した公爵令嬢のレティシア。
前世では夥しいほどの仕事に追われる社畜だった彼女。
唯一の楽しみだった乙女ゲームの新作を発売日当日に買いに行こうとしたその日、交通事故で命を落としたこと。
そして――。
この世界が、その乙女ゲームの設定とそっくりそのままであり、自分自身が悪役令嬢であるレティシアに転生してしまったことを。
この悪役令嬢、自分に関心のない家族を振り向かせるために、死に物狂いで努力し、第一王子の婚約者という地位を勝ち取った。
しかしその第一王子の心がぽっと出の主人公に奪われ、嫉妬に狂い主人公に毒を盛る。
それがバレてしまい、最終的に死刑に処される役となっている。
しかも、第一王子ではなくどの攻略対象ルートでも、必ず主人公を虐め、処刑されてしまう噛ませ犬的キャラクター。
レティシアは考えた。
どれだけ努力をしても、どれだけ頑張っても、最終的に自分は死んでしまう。
――ということは。
これから先どんな努力もせず、ただの馬鹿な一般令嬢として生きれば、一切攻略対象と関わらなければ、そもそもその土俵に乗ることさえしなければ。
私はこの恐ろしい世界で、生き残ることが出来るのではないだろうか。
婚約者のいる側近と婚約させられた私は悪の聖女と呼ばれています。
鈴木べにこ
恋愛
幼い頃から一緒に育ってきた婚約者の王子ギルフォードから婚約破棄を言い渡された聖女マリーベル。
突然の出来事に困惑するマリーベルをよそに、王子は自身の代わりに側近である宰相の息子ロイドとマリーベルを王命で強制的に婚約させたと言い出したのであった。
ロイドに愛する婚約者がいるの事を知っていたマリーベルはギルフォードに王命を取り下げるように訴えるが聞いてもらえず・・・。
カクヨム、小説家になろうでも連載中。
※最初の数話はイジメ表現のようなキツイ描写が出てくるので注意。
初投稿です。
勢いで書いてるので誤字脱字や変な表現が多いし、余裕で気付かないの時があるのでお気軽に教えてくださるとありがたいです٩( 'ω' )و
気分転換もかねて、他の作品と同時連載をしています。
【書庫の幽霊王妃は、貴方を愛することができない。】
という作品も同時に書いているので、この作品が気に入りましたら是非読んでみてください。
家出した伯爵令嬢【完結済】
弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。
番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています
6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております
【完結】婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~
Na20
恋愛
セレーナは嫁いで三年が経ってもいまだに旦那様と使用人達に受け入れられないでいた。
そんな時頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出し、家を出ていくことを決意する。
「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」
※ご都合主義、ふんわり設定です
※小説家になろう様にも掲載しています
【完結】ええと?あなたはどなたでしたか?
ここ
恋愛
アリサの婚約者ミゲルは、婚約のときから、平凡なアリサが気に入らなかった。
アリサはそれに気づいていたが、政略結婚に逆らえない。
15歳と16歳になった2人。ミゲルには恋人ができていた。マーシャという綺麗な令嬢だ。邪魔なアリサにこわい思いをさせて、婚約解消をねらうが、事態は思わぬ方向に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる