上 下
125 / 222
第三部 運命の番(つがい)のお兄様に婚約者の座を譲って破滅フラグを回避します!

119 マリッジブルーのお兄様と逃避行

しおりを挟む
「予定よりも早くいらっしゃるのに、手紙一つで済ませるなんてひどいです」

 王室の別荘で出迎えてくれた目の前の美少年は、そう言って頬を膨らませる。
 使用人ではあるけれど、わたしたちと兄弟のように育ったユーゴは遠慮がない。

 王室の別荘ではアイラン様が快適にお過ごしいただけるように、以前の滞在で対応した使用人達が再び集められた。
 ユーゴは元々王室の別荘で働く使用人と、トワイン家から派遣された使用人の差配に目が回る忙しさだったと主張する。
 後ろに控える使用人達は、あたかも一人で頑張ったように言い張るユーゴを、孫でも見るような暖かい眼差しで見つめていた。

 そもそもアイラン様とお兄様の婚約はユーゴが起こした騒ぎが原因なはずなのに、愛されキャラのユーゴは騒ぎを起こしたことに対してお父様とユーゴの父であり家令のノヴァに反省を促されたくらいで、大したお咎めはなく、なんなら恋のキューピッド気取り。
 エレナの破滅フラグに怯えるわたしとは、大違いだ。

 そんな図々しいユーゴの頭をぐりぐりと撫でたお兄様は、とんでもないことを言い出した。

「じゃあ、ユーゴは頑張ってるから、ご褒美に、エレナに女神様の格好をさせて王都の礼拝堂へ慰問に行かせる時に、ユーゴも同行していいよ」
「本当ですか! 約束ですよ!」
「お兄様! ちょっと待って! 女神様の格好で王都の礼拝堂に行くなんて、勝手に決めないでください!」

 冗談じゃない! そんなの無理よ!
 のんびりした領地でおじいちゃんおばあちゃん達に可愛いと褒められ、子供達はお菓子が欲しいから女神様扱いしてくれる中で着るのだって恥ずかしかったのに。
 陰キャのオタクに都会でコスプレなんてハードルが高すぎるわ!

 女神様最推しのユーゴが興奮する中、わたしが声を上げるとお兄様は小首を傾げる。

「わたしにできることはなんでも言って、って今朝エレナが自分で言ったんじゃない」

 悪びれずにそう言い放ったお兄様は、むしろわたしが悪いかのような反応だ。

 確かに朝わたしはそんなこと言ったけど!

「昔からお兄様は贈り物やご褒美に他人を利用するようなことばかり!」

 納得のいかないわたしはお兄様にくってかかる。

「そんなことないよ。僕だってエレナのために汗をかいてるじゃない。ほら、今年の誕生日プレゼントは、エレナのデイ・ドレスを僕が選んでコーディネートしてあげたでしょ。どれもエレナに似合ってて評判良かったはずだけど?」
「……お兄様は選んだだけで、買ってくださったのはお父様じゃない」
「やだなぁ。エレナが少しでもレディらしく見えるものなんて考えながら選んだんだから大変だったんだよ? お金なんて出すだけじゃない」

 饒舌なお兄様はいつも通りだった。
 心配していたのがバカらしくなってため息をつく。

 そりゃ確かにお兄様の選んだデイ・ドレスは年頃のレディらしくって、普段のエレナなら選ばないようなものばかりだった。
 子供っぽいエレナでもそれなりに見えて評判も悪くなかったと思う。
 でも、お金を出すだけなんて言うなら買うまでしたらいいのに。
 わたしはお兄様を睨み続ける。

「あと、ほらそうだ、カフスボタンのオーダーも手数料をもらえるようにってジェームズ商会に交渉もしてあげたじゃない。手数料はエレナに入るようにしてあげたでしょ?」
「わたしなんかが殿下に贈ったことを売り文句にしても誰も頼まないわ。メアリさんと話してて恥ずかしい思いをしたんだから」
「なんでエレナが恥ずかしく思わなくちゃいけないの⁈」

 お兄様はわたしの肩を掴んだ。

「きゃっ! 急にどうなさったの?」
「あ、ごめん……」

 慌てたようにお兄様は手を離し、わたしから顔を背ける。

「とにかくご褒美や贈り物に他人を巻き込むのはやめてください。去年のわたしの誕生日なんて殿下を連れてくるなんてしてご迷惑をおかけしたんだから、反省なさった方がいいわ」
「そんなことっ……ああ、そうだね。ユーゴへのご褒美はまた考えるよ。じゃあ僕はもう部屋に向かうね」

 また何か言いたそうにしたお兄様は、そう言ってユーゴの頭をポンポンと叩いて部屋に向かった。

「僕は女神様の格好したエレナ様と王都の礼拝堂に伺えるのがいちばんのご褒美なんですけど……」
「絶対に嫌よ」

 残されたユーゴの呟きを全力で拒否して、わたしも部屋に向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

距離を置きましょう? やったー喜んで! 物理的にですけど、良いですよね?

hazuki.mikado
恋愛
婚約者が私と距離を置きたいらしい。 待ってましたッ! 喜んで! なんなら物理的な距離でも良いですよ? 乗り気じゃない婚約をヒロインに押し付けて逃げる気満々の公爵令嬢は悪役令嬢でしかも転生者。  あれ? どうしてこうなった?  頑張って断罪劇から逃げたつもりだったけど、先に待ち構えていた隣りの家のお兄さんにあっさり捕まってでろでろに溺愛されちゃう中身アラサー女子のお話し。 ××× 取扱説明事項〜▲▲▲ 作者は誤字脱字変換ミスと投稿ミスを繰り返すという老眼鏡とハズキルーペが手放せない(老)人です(~ ̄³ ̄)~マジでミスをやらかしますが生暖かく見守って頂けると有り難いです(_ _)お気に入り登録や感想、動く栞、以前は無かった♡機能。そして有り難いことに動画の視聴。ついでに誤字脱字報告という皆様の愛(老人介護)がモチベアップの燃料です(人*´∀`)。*゜+ 皆様の愛を真摯に受け止めております(_ _)←多分。 9/18 HOT女性1位獲得シマシタ。応援ありがとうございますッヽ⁠(⁠*゚⁠ー゚⁠*⁠)⁠ノ

義妹と一緒になり邪魔者扱いしてきた婚約者は…私の家出により、罰を受ける事になりました。

coco
恋愛
可愛い義妹と一緒になり、私を邪魔者扱いする婚約者。 耐えきれなくなった私は、ついに家出を決意するが…?

【完結】白い結婚なのでさっさとこの家から出ていきます~私の人生本番は離婚から。しっかり稼ぎたいと思います~

Na20
恋愛
ヴァイオレットは十歳の時に両親を事故で亡くしたショックで前世を思い出した。次期マクスター伯爵であったヴァイオレットだが、まだ十歳ということで父の弟である叔父がヴァイオレットが十八歳になるまでの代理として爵位を継ぐことになる。しかし叔父はヴァイオレットが十七歳の時に縁談を取り付け家から追い出してしまう。その縁談の相手は平民の恋人がいる侯爵家の嫡男だった。 「俺はお前を愛することはない!」 初夜にそう宣言した旦那様にヴァイオレットは思った。 (この家も長くはもたないわね) 貴族同士の結婚は簡単には離婚することができない。だけど離婚できる方法はもちろんある。それが三年の白い結婚だ。 ヴァイオレットは結婚初日に白い結婚でさっさと離婚し、この家から出ていくと決めたのだった。 6話と7話の間が抜けてしまいました… 7*として投稿しましたのでよろしければご覧ください!

愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

お幸せに、婚約者様。

ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの? ……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。 彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ? 婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。 お幸せに、婚約者様。 私も私で、幸せになりますので。

モブですが、婚約者は私です。

伊月 慧
恋愛
 声高々に私の婚約者であられる王子様が婚約破棄を叫ぶ。隣に震える男爵令嬢を抱き寄せて。  婚約破棄されたのは同年代の令嬢をまとめる、アスラーナ。私の親友でもある。そんな彼女が目を丸めるのと同時に、私も目を丸めた。  待ってください。貴方の婚約者はアスラーナではなく、貴方がモブ認定している私です。 新しい風を吹かせてみたくなりました。 なんかよく有りそうな感じの話で申し訳ございません。

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

完璧な姉とその親友より劣る私は、出来損ないだと蔑まれた世界に長居し過ぎたようです。運命の人との幸せは、来世に持ち越します

珠宮さくら
恋愛
エウフェシア・メルクーリは誰もが羨む世界で、もっとも人々が羨む国で公爵令嬢として生きていた。そこにいるのは完璧な令嬢と言われる姉とその親友と見知った人たちばかり。 そこでエウフェシアは、ずっと出来損ないと蔑まれながら生きていた。心優しい完璧な姉だけが、唯一の味方だと思っていたが、それも違っていたようだ。 それどころか。その世界が、そもそも現実とは違うことをエウフェシアはすっかり忘れてしまったまま、何度もやり直し続けることになった。 さらに人の歪んだ想いに巻き込まれて、疲れ切ってしまって、運命の人との幸せな人生を満喫するなんて考えられなくなってしまい、先送りにすることを選択する日が来るとは思いもしなかった。

処理中です...