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第三部 運命の番(つがい)のお兄様に婚約者の座を譲って破滅フラグを回避します!

112 ボルボラ諸島での婚約式

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 イスファーン王国からアイラン王女殿下やお迎えに行ったお兄様たちを乗せた黒い蒸気船が、船つき場に到着する。

 今回の主役を見ようと、船つき場にはわれ先にと島民が集まっていた。

 わたしは歓迎側の特使としてコーデリア様と王宮の役人達に混じり、船着き場に敷かれた赤絨毯の上で待つ。

 船からタラップが降ろされると、歓迎のファンファーレが鳴り響く。ファンファーレに促されるようにお兄様とお父様が甲板に立つ。
 二人の姿を見た群衆から歓声が巻き起こる。

 お兄様とお父様は、南の島の真っ青な空と海の下、目が覚めるような真っ白な詰襟の軍服みたいな正装に身を包んでいた。

 まるで騎士みたい。

 ヴァーデン王国の三つの公爵家と九つの侯爵家は神話の時代から、王室を守る剣であり盾である。
 公式な行事は必ず白い正装を着ることはヴァーデン王国の国民ならみんな知っている。
 もちろんボルボラ諸島の島民達も。
 今日この衣装をお兄様が着ることで、この婚約式が公式な国家行事であることを周りに知らしめる役割も持つ。

 にしても、かっこいい。
 キラッキラのお兄様が微笑みを振り撒きながら甲板で手を振っているのを、わたしは目を細めて見つめる。

 続いてファンファーレが再び鳴り響き、アイラン様が甲板に登場する。

 アイラン様は白を基調とした装いのお兄様とは逆に、絢爛豪華な極彩色の民族衣装を着ていた。

 今日はヴァーデン王国としては婚約式ではあるけれど、アイラン様はイスファーン王室の庇護から外れる。イスファーン王国からすると嫁入りだ。
 イスファーンの風習では、嫁入りする時には持参金として金や宝石のアクセサリーを花嫁に飾りつける。
 持参するアクセサリーの量が実家の裕福度を表している。
 イスファーン王国のお姫様であるアイラン様のアクセサリーは豪華なんてもんじゃない。
 頭を覆うベールから覗く額飾りサークレットは金に貴石に真珠が輝く。
 太さの異なる金細工のブレスレットは両手首に幾つも巻かれ、イヤリングとネックレスは揃いの意匠で中央には大きなエメラルドが光る。

 アイラン様はもうすぐ十五歳だけど、十六歳のエレナと比べても明らかにアイラン様の方が大人っぽい。

 スラっとした体躯に金銀財宝を飾り付けられたアイラン様の優美さに群衆は息をのむ。

 清廉な騎士然としたお兄様が異国情緒漂うお姫様のアイラン様に優しく笑いかけながらエスコートしてタラップを降りるのは、まるで物語の一幕みたいだった。

 歓迎の特使達が握手とハグでお兄様とアイラン様を出迎えたあと、二人は屋根のない馬車に乗り込む。
 わたしはコーデリア様たちと後続の箱馬車に乗り込んだ。

 ここから礼拝堂までパレードだ。

 屋根のない馬車はお兄様とアイラン様を乗せて進む。

「熱狂のるつぼね。婚約式をボルボラ本島で行うなんて言い出した時には、何を言っているのかと思いましたけど」

 コーデリア様は窓の外を見てそうつぶやく。

「ボルボラ諸島での婚約式はコーデリア様にもご尽力いただいたと伺っております」

 そもそも、婚約式なんて風習はヴァーデン王国にはない。
 婚約をするとき貴族は貴族院に書類で申請すればいい。
 そりゃお祝いのパーティくらいはするけれど、祭司様に証人になってもらう必要なんてさらさらない。
 イスファーン王国の顔を立てるために行うことになった婚約式は、王都の礼拝堂からはイスファーン王国への感情を理由に難色を示された。
 そこで殿下が舵を取り、養殖真珠の件で後ろ暗いシーワード公爵にボルボラ諸島での婚約式を行うようにねじ込んだ。
 祭司様を説得させるのは、かなり骨を折ることになったと聞いている。

 礼拝堂までの道はシーワード公爵家の指揮の下、至る所に花が飾られていた。
 アイラン王女殿下を表す向日葵とトワイン侯爵家の紋章に使われているアザミの花は二人への歓迎を意味していた。
 馬車上から飾られた花を見つけては微笑みあうお兄様とアイラン様の仲睦まじい様をみて、島民達は自分達の島が婚約式の舞台に選ばれた事に自信を持つ。

 いがみ合っていたヴァーデン王国とイスファーン王国の過去を象徴する島は、二国間の架け橋になった。
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