104 / 228
第三部 運命の番(つがい)のお兄様に婚約者の座を譲って破滅フラグを回避します!
97 久しぶりの学園生活
しおりを挟む
久しぶりに講堂の前に立つ。
授業が始まる前みんな雑談にいそしんでいる。
わたしが足を踏み入れるといつもの喧騒は急に静まり返る。
久しぶりに現れたわたしに驚いたのか周りは息をのみ、目を見開いてとこちらを見ていた。
言いたいことがあれば言えばいいのに。
でも、わたしは前みたいに視線を浴びたくらいじゃ怯んだりしない。
だって、シーワード領で開かれたお茶会とは名ばかりのイスファーンとのパーティーで、領主達やイスファーンの使者に囲まれた緊張感よりも全然マシだもん。
「スピカさん。いつもの席は空いてるかしら」
「ええ、わたしの隣はエレナ様の指定席ですから」
「まあ!」
わたしはスピカさんと笑いあう。席に座り、周りを見回す。
隣でぼーっと口を開けてわたしを見ている男子生徒と目があった。
自由席のはずなのにみんな仲の良い人たちと固まって座るから、席は決まってるようなものだ。いつもわたしの右隣はスピカさんが、左隣はその男子生徒が座っている。
わたしは優雅に「久しぶりね。今日からまたよろしく」なんて笑いかけてみた。
その男子生徒は声をかけられると思ってなかったみたいで、サッと顔を背けると耳まで赤くして小声でなんか言っている。
きっとジロジロと見ていたことが後ろめたいのね。
「エレナ様、講義が始まります。放っておきましょう」
そう言ってスピカさんは男子生徒を睨んだ。
「大丈夫よ、意地悪なんてされてないわ。きっとわたしなんかが声をかけると思わなかったのよ」
「……わたし、エレナ様になにかあったらと心配です」
スピカさんは女性騎士として王太子妃の護衛をするのが夢なものだから、エレナが王太子妃になると信じてわたしを護ろうとしてくれる。
エレナが王太子妃になんてなれるわけがないなんてわたしはわかっているけれど、スピカさんはそんなこと知らない。
護衛をしてくれることがすごく後ろめたい。
講師が部屋に入り講義が始まっても周りから視線を感じてなんだか居心地が悪いまま。
居心地の悪い中で聞く講義は、国内の主要な領地と産業についての説明で、お兄様のいうように聞かなくてもエレナが知っていることばかりだった。
やっと午前中の講義が終わった。
「ねぇ、スピカさん! 一緒に食堂でお昼を食べない?」
わたしは隣のスピカさんに勢いよく尋ねる。
基本的に王立学園に通う生徒達はみんな食堂で食事をとる。
わたしは休む前は毎日のようにスピカさんと食堂でお昼をとっていた。
「すみません! 先約があって……」
ウキウキのわたしに、恐縮したようにスピカさんが返す。
……そうよね、また長期間王立学園を休んでいたんだもん。その間にスピカさんにだってお昼ご飯を一緒に過ごすお友達ができても不思議じゃないわ。
「あのっ! 違うんです! 昼の時間に騎士を目指している生徒達に稽古をつけてくださるって先生がおっしゃってて、最近参加してるんです! お昼ご飯は時間がないから練習終わりに簡単につまめる軽食ばかりで! どうしよう。エレナ様をお護りしたいから鍛えたいと思ったのに、鍛える時間はエレナ様をお護りできないなんて!」
明らかに気落ちした態度のわたしを察したスピカさんは慌てる。わたしも慌てる。
「やだ! 気を使わせちゃってごめんなさい! もちろん参加してきて! スピカさんが夢を叶えるために稽古に参加されるんでしょ? わたしも応援しているわ! 今度差し入れ用意するわね。今日はお兄様でもお誘いしてみるから、気になさらないで」
わたしはスピカさんを見送り一人で食堂に向かうことにして講堂を出る。
お兄様はどこにいるかしら。食堂? 中庭? まだ教室かしら?
「エレナ様。ごきげんよう」
キョロキョロしているわたしの目の前にシルバーブロンドの美女が現れた。光を浴びてキラキラと輝き、まるで彫刻作品のよう。
「コーデリア様、お久しぶりです」
コーデリア・シーワード公爵令嬢。わたしが殿下の婚約者に決まる前、王太子妃に一番近いとされていた方。
由緒正しき公爵家のご令嬢で、絶世の美女であるコーデリア様は人気が高い。いまだにコーデリア様が殿下のお相手であればよかったのになんて声をいたるところで聞く。
まあ、当の殿下とコーデリア様はマウントを取り合い嫌悪しあっているんだけど。
コーデリア様がヒロインの少女漫画の世界なら「あんなやつ嫌い!」とかなんとか言いながらいつのまにか「こんなにあいつのことばっかり考えてわたしったらどうしたのかしら」からの「もしかしてこの気持ちって恋?」のコンボを決めるんだろうけど、全くそうなる気配はない。
わたしがそんなことをぼーっと考えていると、シルバーブロンドの美女は顎に人差し指を触れ小首を傾げて見つめていた。
周りはコーデリア様とわたしが対峙しているのを何が起こるのかと好奇の目を向ける。
「あの、何か……」
「お昼ご一緒にしませんこと?」
おずおずと尋ねるわたしにコーデリア様が放った言葉は予想外なものだった。
授業が始まる前みんな雑談にいそしんでいる。
わたしが足を踏み入れるといつもの喧騒は急に静まり返る。
久しぶりに現れたわたしに驚いたのか周りは息をのみ、目を見開いてとこちらを見ていた。
言いたいことがあれば言えばいいのに。
でも、わたしは前みたいに視線を浴びたくらいじゃ怯んだりしない。
だって、シーワード領で開かれたお茶会とは名ばかりのイスファーンとのパーティーで、領主達やイスファーンの使者に囲まれた緊張感よりも全然マシだもん。
「スピカさん。いつもの席は空いてるかしら」
「ええ、わたしの隣はエレナ様の指定席ですから」
「まあ!」
わたしはスピカさんと笑いあう。席に座り、周りを見回す。
隣でぼーっと口を開けてわたしを見ている男子生徒と目があった。
自由席のはずなのにみんな仲の良い人たちと固まって座るから、席は決まってるようなものだ。いつもわたしの右隣はスピカさんが、左隣はその男子生徒が座っている。
わたしは優雅に「久しぶりね。今日からまたよろしく」なんて笑いかけてみた。
その男子生徒は声をかけられると思ってなかったみたいで、サッと顔を背けると耳まで赤くして小声でなんか言っている。
きっとジロジロと見ていたことが後ろめたいのね。
「エレナ様、講義が始まります。放っておきましょう」
そう言ってスピカさんは男子生徒を睨んだ。
「大丈夫よ、意地悪なんてされてないわ。きっとわたしなんかが声をかけると思わなかったのよ」
「……わたし、エレナ様になにかあったらと心配です」
スピカさんは女性騎士として王太子妃の護衛をするのが夢なものだから、エレナが王太子妃になると信じてわたしを護ろうとしてくれる。
エレナが王太子妃になんてなれるわけがないなんてわたしはわかっているけれど、スピカさんはそんなこと知らない。
護衛をしてくれることがすごく後ろめたい。
講師が部屋に入り講義が始まっても周りから視線を感じてなんだか居心地が悪いまま。
居心地の悪い中で聞く講義は、国内の主要な領地と産業についての説明で、お兄様のいうように聞かなくてもエレナが知っていることばかりだった。
やっと午前中の講義が終わった。
「ねぇ、スピカさん! 一緒に食堂でお昼を食べない?」
わたしは隣のスピカさんに勢いよく尋ねる。
基本的に王立学園に通う生徒達はみんな食堂で食事をとる。
わたしは休む前は毎日のようにスピカさんと食堂でお昼をとっていた。
「すみません! 先約があって……」
ウキウキのわたしに、恐縮したようにスピカさんが返す。
……そうよね、また長期間王立学園を休んでいたんだもん。その間にスピカさんにだってお昼ご飯を一緒に過ごすお友達ができても不思議じゃないわ。
「あのっ! 違うんです! 昼の時間に騎士を目指している生徒達に稽古をつけてくださるって先生がおっしゃってて、最近参加してるんです! お昼ご飯は時間がないから練習終わりに簡単につまめる軽食ばかりで! どうしよう。エレナ様をお護りしたいから鍛えたいと思ったのに、鍛える時間はエレナ様をお護りできないなんて!」
明らかに気落ちした態度のわたしを察したスピカさんは慌てる。わたしも慌てる。
「やだ! 気を使わせちゃってごめんなさい! もちろん参加してきて! スピカさんが夢を叶えるために稽古に参加されるんでしょ? わたしも応援しているわ! 今度差し入れ用意するわね。今日はお兄様でもお誘いしてみるから、気になさらないで」
わたしはスピカさんを見送り一人で食堂に向かうことにして講堂を出る。
お兄様はどこにいるかしら。食堂? 中庭? まだ教室かしら?
「エレナ様。ごきげんよう」
キョロキョロしているわたしの目の前にシルバーブロンドの美女が現れた。光を浴びてキラキラと輝き、まるで彫刻作品のよう。
「コーデリア様、お久しぶりです」
コーデリア・シーワード公爵令嬢。わたしが殿下の婚約者に決まる前、王太子妃に一番近いとされていた方。
由緒正しき公爵家のご令嬢で、絶世の美女であるコーデリア様は人気が高い。いまだにコーデリア様が殿下のお相手であればよかったのになんて声をいたるところで聞く。
まあ、当の殿下とコーデリア様はマウントを取り合い嫌悪しあっているんだけど。
コーデリア様がヒロインの少女漫画の世界なら「あんなやつ嫌い!」とかなんとか言いながらいつのまにか「こんなにあいつのことばっかり考えてわたしったらどうしたのかしら」からの「もしかしてこの気持ちって恋?」のコンボを決めるんだろうけど、全くそうなる気配はない。
わたしがそんなことをぼーっと考えていると、シルバーブロンドの美女は顎に人差し指を触れ小首を傾げて見つめていた。
周りはコーデリア様とわたしが対峙しているのを何が起こるのかと好奇の目を向ける。
「あの、何か……」
「お昼ご一緒にしませんこと?」
おずおずと尋ねるわたしにコーデリア様が放った言葉は予想外なものだった。
1
お気に入りに追加
1,110
あなたにおすすめの小説
父の大事な家族は、再婚相手と異母妹のみで、私は元より家族ではなかったようです
珠宮さくら
恋愛
フィロマという国で、母の病を治そうとした1人の少女がいた。母のみならず、その病に苦しむ者は、年々増えていたが、治せる薬はなく、進行を遅らせる薬しかなかった。
その病を色んな本を読んで調べあげた彼女の名前は、ヴァリャ・チャンダ。だが、それで病に効く特効薬が出来上がることになったが、母を救うことは叶わなかった。
そんな彼女が、楽しみにしていたのは隣国のラジェスへの留学だったのだが、そのために必死に貯めていた資金も父に取り上げられ、義母と異母妹の散財のために金を稼げとまで言われてしまう。
そこにヴァリャにとって救世主のように現れた令嬢がいたことで、彼女の人生は一変していくのだが、彼女らしさが消えることはなかった。
今さら後悔しても知りません 婚約者は浮気相手に夢中なようなので消えてさしあげます
神崎 ルナ
恋愛
旧題:長年の婚約者は政略結婚の私より、恋愛結婚をしたい相手がいるようなので、消えてあげようと思います。
【奨励賞頂きましたっ( ゚Д゚) ありがとうございます(人''▽`)】 コッペリア・マドルーク公爵令嬢は、王太子アレンの婚約者として良好な関係を維持してきたと思っていた。
だが、ある時アレンとマリアの会話を聞いてしまう。
「あんな堅苦しい女性は苦手だ。もし許されるのであれば、君を王太子妃にしたかった」
マリア・ダグラス男爵令嬢は下級貴族であり、王太子と婚約などできるはずもない。
(そう。そんなに彼女が良かったの)
長年に渡る王太子妃教育を耐えてきた彼女がそう決意を固めるのも早かった。
何故なら、彼らは将来自分達の子を王に据え、更にはコッペリアに公務を押し付け、自分達だけ遊び惚けていようとしているようだったから。
(私は都合のいい道具なの?)
絶望したコッペリアは毒薬を入手しようと、お忍びでとある店を探す。
侍女達が話していたのはここだろうか?
店に入ると老婆が迎えてくれ、コッペリアに何が入用か、と尋ねてきた。
コッペリアが正直に全て話すと、
「今のあんたにぴったりの物がある」
渡されたのは、小瓶に入った液状の薬。
「体を休める薬だよ。ん? 毒じゃないのかって? まあ、似たようなものだね。これを飲んだらあんたは眠る。ただし」
そこで老婆は言葉を切った。
「目覚めるには条件がある。それを満たすのは並大抵のことじゃ出来ないよ。下手をすれば永遠に眠ることになる。それでもいいのかい?」
コッペリアは深く頷いた。
薬を飲んだコッペリアは眠りについた。
そして――。
アレン王子と向かい合うコッペリア(?)がいた。
「は? 書類の整理を手伝え? お断り致しますわ」
※お読み頂きありがとうございます(人''▽`) hotランキング、全ての小説、恋愛小説ランキングにて1位をいただきました( ゚Д゚)
(2023.2.3)
ありがとうございますっm(__)m ジャンピング土下座×1000000
※お読みくださり有難うございました(人''▽`) 完結しました(^▽^)
大切なあのひとを失ったこと絶対許しません
にいるず
恋愛
公爵令嬢キャスリン・ダイモックは、王太子の思い人の命を脅かした罪状で、毒杯を飲んで死んだ。
はずだった。
目を開けると、いつものベッド。ここは天国?違う?
あれっ、私生きかえったの?しかも若返ってる?
でもどうしてこの世界にあの人はいないの?どうしてみんなあの人の事を覚えていないの?
私だけは、自分を犠牲にして助けてくれたあの人の事を忘れない。絶対に許すものか。こんな原因を作った人たちを。
どう頑張っても死亡ルートしかない悪役令嬢に転生したので、一切頑張らないことにしました
小倉みち
恋愛
7歳の誕生日、突然雷に打たれ、そのショックで前世を思い出した公爵令嬢のレティシア。
前世では夥しいほどの仕事に追われる社畜だった彼女。
唯一の楽しみだった乙女ゲームの新作を発売日当日に買いに行こうとしたその日、交通事故で命を落としたこと。
そして――。
この世界が、その乙女ゲームの設定とそっくりそのままであり、自分自身が悪役令嬢であるレティシアに転生してしまったことを。
この悪役令嬢、自分に関心のない家族を振り向かせるために、死に物狂いで努力し、第一王子の婚約者という地位を勝ち取った。
しかしその第一王子の心がぽっと出の主人公に奪われ、嫉妬に狂い主人公に毒を盛る。
それがバレてしまい、最終的に死刑に処される役となっている。
しかも、第一王子ではなくどの攻略対象ルートでも、必ず主人公を虐め、処刑されてしまう噛ませ犬的キャラクター。
レティシアは考えた。
どれだけ努力をしても、どれだけ頑張っても、最終的に自分は死んでしまう。
――ということは。
これから先どんな努力もせず、ただの馬鹿な一般令嬢として生きれば、一切攻略対象と関わらなければ、そもそもその土俵に乗ることさえしなければ。
私はこの恐ろしい世界で、生き残ることが出来るのではないだろうか。
婚約者のいる側近と婚約させられた私は悪の聖女と呼ばれています。
鈴木べにこ
恋愛
幼い頃から一緒に育ってきた婚約者の王子ギルフォードから婚約破棄を言い渡された聖女マリーベル。
突然の出来事に困惑するマリーベルをよそに、王子は自身の代わりに側近である宰相の息子ロイドとマリーベルを王命で強制的に婚約させたと言い出したのであった。
ロイドに愛する婚約者がいるの事を知っていたマリーベルはギルフォードに王命を取り下げるように訴えるが聞いてもらえず・・・。
カクヨム、小説家になろうでも連載中。
※最初の数話はイジメ表現のようなキツイ描写が出てくるので注意。
初投稿です。
勢いで書いてるので誤字脱字や変な表現が多いし、余裕で気付かないの時があるのでお気軽に教えてくださるとありがたいです٩( 'ω' )و
気分転換もかねて、他の作品と同時連載をしています。
【書庫の幽霊王妃は、貴方を愛することができない。】
という作品も同時に書いているので、この作品が気に入りましたら是非読んでみてください。
家出した伯爵令嬢【完結済】
弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。
番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています
6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております
【完結】婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~
Na20
恋愛
セレーナは嫁いで三年が経ってもいまだに旦那様と使用人達に受け入れられないでいた。
そんな時頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出し、家を出ていくことを決意する。
「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」
※ご都合主義、ふんわり設定です
※小説家になろう様にも掲載しています
【完結】ええと?あなたはどなたでしたか?
ここ
恋愛
アリサの婚約者ミゲルは、婚約のときから、平凡なアリサが気に入らなかった。
アリサはそれに気づいていたが、政略結婚に逆らえない。
15歳と16歳になった2人。ミゲルには恋人ができていた。マーシャという綺麗な令嬢だ。邪魔なアリサにこわい思いをさせて、婚約解消をねらうが、事態は思わぬ方向に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる