43 / 222
第一部 最終章
43 エレナとツンデレ公爵令嬢と流行りのイヤリング
しおりを挟む
お兄様、ちょっと待ってよ! すっごい気まずいんだけど!
殿下と二人きりで四阿に取り残される。
さっきまで騒がしかったのに、今は心臓の音が聞こえちゃうんじゃないかと心配になるくらい静かだ。
「……もぅ。お兄様ったら急に飛び出して行ってなんなのかしら」
気まずくて、わたしは不貞腐れた様な独り言を呟く。
「商標権とか使用料の取り分とか、あらかたそんなところを話にいったんだろうね」
殿下はわたしと違って冷静だ。
「イヤリングが流行った様にきっとカフスボタンも王都で流行るだろうし、そのときにエレナが発案したってだけじゃなくて、私に贈った物となればそれだけ箔もつくだろう。共同事業者として商標権登録するつもりで、自分に有利に事を運ぶためにも私に付けさせておきたいんだろうな」
……不覚だわ。
前世の知識で金儲けとか転生モノの醍醐味なのに全くそんな事思いつかなかった……
っていうかそもそも前世? の知識なのかな。
わたしは別にリメイクとか全く詳しくないんだけど。
むしろ手芸好きなエレナだからこその思いつきな気がする。
「エリオットはめざといね」
殿下はそう感心した様に言うと、わたしに隣へ座る様促す。
恐る恐る隣に座り横目で見た殿下は目を瞑り深くため息をつく。
わたしからカフスボタンをお渡しした方がいいのよね。
意を決して殿下に顔を向けると、同時に殿下も目を開きわたしに顔を向けた。
目が合ってカァッと顔が熱くなるのがわかる。
目を逸らしたいけど、真剣な眼差しに絡め取られて目線を動かす事がままならない。
「エレナはわたしの分もカフスボタンを用意してくれたんだね」
以前の様に「エレナ」と呼び捨てられて心臓が跳ね上がる。
そうだ。以前の殿下はエレナの事を呼び捨てていて「エレナ嬢」なんて形式張った呼び方はしていなかった。
いつからか形式張った呼び方に変わり、距離を感じていたけれど、久しぶりにエレナと呼ばれて胸がいっぱいになり、涙が自然に溢れてくる。
「どうしたの? 泣かないでエレナ。私はエレナに泣かれるのは、めっぽう弱い」
取り出そうとしたハンカチは、すでにわたしをベンチに座らせるときに出していたことに気がつき、慌てた殿下を見て自然に笑みが溢れる。
「笑ったね」
そういうと、殿下は両手でわたしの顔を優しく包み親指でそっと涙を拭う。
大きくて少し骨ばった男らしい温かな手に顔をすっぽりと包まれて、耳たぶまで真っ赤になっているに違いないわたしの顔を見つめると、殿下は満足げに微笑んでから手を離した。
「ねぇ、エレナ。どんなカフスボタンか見せてくれる?」
「……はい」
恐る恐る、袋ごと殿下に手渡す。
殿下はわたしから受け取った袋から大切そうにカフスボタンを取り出して手に取り、ハッとした顔でわたしを見る。
「マーガレットだ……」
依頼したカフスボタンは去年エレナが殿下に送ったハンカチの縁飾りに付けたレースをイメージしてデザインしている。
透かし彫りで並ぶマーガレットの 筒状花部分に緑と茶色の小さな石を交互に配置した。
殿下にお渡しするなんて考えずに趣味丸出しで作ってしまった事を後悔する。
「本当はお渡しするつもりで作ったものではなくて、その……あの……お兄様のいう様に殿下がもしこんなカフスボタンをつけてくださってたら嬉しいなって思いながら、わたしが眺めるために作った鑑賞用のものなので……あまり日常でお使いいただくのには向いていないかもしれなくて……」
言っていてどんどん恥ずかしくなるわたしを見つめる瞳は優しい。
殿下は袖につけたカフスボタンをゆっくりと撫でる。
まるで、愛しい気持ちが溢れるように。
「……本当だな。エレナが私のそばにいて、勇気を与えてくれる気がする」
自分の心音が頭の中で鳴り響いている中で、そんな都合の良い空耳が聞こえた。
殿下と二人きりで四阿に取り残される。
さっきまで騒がしかったのに、今は心臓の音が聞こえちゃうんじゃないかと心配になるくらい静かだ。
「……もぅ。お兄様ったら急に飛び出して行ってなんなのかしら」
気まずくて、わたしは不貞腐れた様な独り言を呟く。
「商標権とか使用料の取り分とか、あらかたそんなところを話にいったんだろうね」
殿下はわたしと違って冷静だ。
「イヤリングが流行った様にきっとカフスボタンも王都で流行るだろうし、そのときにエレナが発案したってだけじゃなくて、私に贈った物となればそれだけ箔もつくだろう。共同事業者として商標権登録するつもりで、自分に有利に事を運ぶためにも私に付けさせておきたいんだろうな」
……不覚だわ。
前世の知識で金儲けとか転生モノの醍醐味なのに全くそんな事思いつかなかった……
っていうかそもそも前世? の知識なのかな。
わたしは別にリメイクとか全く詳しくないんだけど。
むしろ手芸好きなエレナだからこその思いつきな気がする。
「エリオットはめざといね」
殿下はそう感心した様に言うと、わたしに隣へ座る様促す。
恐る恐る隣に座り横目で見た殿下は目を瞑り深くため息をつく。
わたしからカフスボタンをお渡しした方がいいのよね。
意を決して殿下に顔を向けると、同時に殿下も目を開きわたしに顔を向けた。
目が合ってカァッと顔が熱くなるのがわかる。
目を逸らしたいけど、真剣な眼差しに絡め取られて目線を動かす事がままならない。
「エレナはわたしの分もカフスボタンを用意してくれたんだね」
以前の様に「エレナ」と呼び捨てられて心臓が跳ね上がる。
そうだ。以前の殿下はエレナの事を呼び捨てていて「エレナ嬢」なんて形式張った呼び方はしていなかった。
いつからか形式張った呼び方に変わり、距離を感じていたけれど、久しぶりにエレナと呼ばれて胸がいっぱいになり、涙が自然に溢れてくる。
「どうしたの? 泣かないでエレナ。私はエレナに泣かれるのは、めっぽう弱い」
取り出そうとしたハンカチは、すでにわたしをベンチに座らせるときに出していたことに気がつき、慌てた殿下を見て自然に笑みが溢れる。
「笑ったね」
そういうと、殿下は両手でわたしの顔を優しく包み親指でそっと涙を拭う。
大きくて少し骨ばった男らしい温かな手に顔をすっぽりと包まれて、耳たぶまで真っ赤になっているに違いないわたしの顔を見つめると、殿下は満足げに微笑んでから手を離した。
「ねぇ、エレナ。どんなカフスボタンか見せてくれる?」
「……はい」
恐る恐る、袋ごと殿下に手渡す。
殿下はわたしから受け取った袋から大切そうにカフスボタンを取り出して手に取り、ハッとした顔でわたしを見る。
「マーガレットだ……」
依頼したカフスボタンは去年エレナが殿下に送ったハンカチの縁飾りに付けたレースをイメージしてデザインしている。
透かし彫りで並ぶマーガレットの 筒状花部分に緑と茶色の小さな石を交互に配置した。
殿下にお渡しするなんて考えずに趣味丸出しで作ってしまった事を後悔する。
「本当はお渡しするつもりで作ったものではなくて、その……あの……お兄様のいう様に殿下がもしこんなカフスボタンをつけてくださってたら嬉しいなって思いながら、わたしが眺めるために作った鑑賞用のものなので……あまり日常でお使いいただくのには向いていないかもしれなくて……」
言っていてどんどん恥ずかしくなるわたしを見つめる瞳は優しい。
殿下は袖につけたカフスボタンをゆっくりと撫でる。
まるで、愛しい気持ちが溢れるように。
「……本当だな。エレナが私のそばにいて、勇気を与えてくれる気がする」
自分の心音が頭の中で鳴り響いている中で、そんな都合の良い空耳が聞こえた。
3
お気に入りに追加
1,115
あなたにおすすめの小説
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
距離を置きましょう? やったー喜んで! 物理的にですけど、良いですよね?
hazuki.mikado
恋愛
婚約者が私と距離を置きたいらしい。
待ってましたッ! 喜んで!
なんなら物理的な距離でも良いですよ?
乗り気じゃない婚約をヒロインに押し付けて逃げる気満々の公爵令嬢は悪役令嬢でしかも転生者。
あれ? どうしてこうなった?
頑張って断罪劇から逃げたつもりだったけど、先に待ち構えていた隣りの家のお兄さんにあっさり捕まってでろでろに溺愛されちゃう中身アラサー女子のお話し。
×××
取扱説明事項〜▲▲▲
作者は誤字脱字変換ミスと投稿ミスを繰り返すという老眼鏡とハズキルーペが手放せない(老)人です(~ ̄³ ̄)~マジでミスをやらかしますが生暖かく見守って頂けると有り難いです(_ _)お気に入り登録や感想、動く栞、以前は無かった♡機能。そして有り難いことに動画の視聴。ついでに誤字脱字報告という皆様の愛(老人介護)がモチベアップの燃料です(人*´∀`)。*゜+
皆様の愛を真摯に受け止めております(_ _)←多分。
9/18 HOT女性1位獲得シマシタ。応援ありがとうございますッヽ(*゚ー゚*)ノ
義妹と一緒になり邪魔者扱いしてきた婚約者は…私の家出により、罰を受ける事になりました。
coco
恋愛
可愛い義妹と一緒になり、私を邪魔者扱いする婚約者。
耐えきれなくなった私は、ついに家出を決意するが…?
【完結】白い結婚なのでさっさとこの家から出ていきます~私の人生本番は離婚から。しっかり稼ぎたいと思います~
Na20
恋愛
ヴァイオレットは十歳の時に両親を事故で亡くしたショックで前世を思い出した。次期マクスター伯爵であったヴァイオレットだが、まだ十歳ということで父の弟である叔父がヴァイオレットが十八歳になるまでの代理として爵位を継ぐことになる。しかし叔父はヴァイオレットが十七歳の時に縁談を取り付け家から追い出してしまう。その縁談の相手は平民の恋人がいる侯爵家の嫡男だった。
「俺はお前を愛することはない!」
初夜にそう宣言した旦那様にヴァイオレットは思った。
(この家も長くはもたないわね)
貴族同士の結婚は簡単には離婚することができない。だけど離婚できる方法はもちろんある。それが三年の白い結婚だ。
ヴァイオレットは結婚初日に白い結婚でさっさと離婚し、この家から出ていくと決めたのだった。
6話と7話の間が抜けてしまいました…
7*として投稿しましたのでよろしければご覧ください!
愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
〘完〙侯爵様に溺愛される男爵令嬢は、自分は猫にしか愛されないと思っていた
hanakuro
恋愛
ここはシャンブリア王国。
その国ではある噂が・・
“あの屋敷には、絶世の美女がいるらしい”
絶世の美女と言われていたのは、実は屋敷に一人で住む男爵令嬢ナタリアだった。彼女は、ある事情で屋敷から一歩も外に出ることができずにいた。
そしてその噂に踊らされた男たちが夜毎、屋敷に忍び込んでは鉄壁の防御に阻まれ、追い返されていた。
そんなある晩、誰も踏み入れられなかった未開の屋敷に男の姿が・・
「私の元へ来ないか?」
戸惑うナタリアは気付くと、男の屋敷にいた。
これは、一人狭い世界で暮らしていたナタリアが、ある秘密を持つ男と出会ったことでその運命を変え、幸せになるまでの物語。
※一度完結しましたが、伏線回収のため続編を第二章として始めました。
ユルい作品なので、国家を揺るがす陰謀とかは一切ありませんので、悪しからず。
【完結】公女が死んだ、その後のこと
杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】
「お母様……」
冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。
古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。
「言いつけを、守ります」
最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。
こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。
そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。
「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」
「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」
「くっ……、な、ならば蘇生させ」
「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」
「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」
「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」
「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」
「まっ、待て!話を」
「嫌ぁ〜!」
「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」
「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」
「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」
「くっ……!」
「なっ、譲位せよだと!?」
「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」
「おのれ、謀りおったか!」
「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」
◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。
◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。
◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった?
◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。
◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。
◆この作品は小説家になろうでも公開します。
◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!
誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる