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第一部 悲劇の公爵令嬢に婚約者の座を譲って破滅フラグを回避します! 第一章
2 エレナ、前世の記憶を思い出す
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「エレナお嬢様。メリーですよ。見回りに参りました。御加減はいかがですか」
メリーの囁くような声のあと、ランタンの光が部屋を照らし、衣擦れが聞こえた。
いま考えるのはやめて、まずは心配性のメリーを安心させてあげないと。
「……メリー……」
わたしは声を振り絞って、部屋に入ってきたメリーを呼ぶ。
ベッドに駆け寄ってきたメリーは、サイドテーブルにランタンを置き、わたしの顔を覗き込む。
「エレナお嬢様! 目を覚まされたんですね! あぁ!」
メリーは手で顔を覆い涙を流している。
「……メリー。目が覚めたら喉が渇いたわ」
「かしこまりました。すぐにご用意いたします」
涙をエプロンで拭ったメリーは笑顔を見せ、サイドテーブルに置かれた水差しからコップに水を注ぐ。
「エレナお嬢様。無理をなさらずにゆっくりですよ」
メリーに支えられて水を飲ませてもらうと、気持ちが落ち着いてきたのが分かる。
時間をかけてコップの水を飲み干した。
「……ねぇメリー。わたしは気を失っていたのよね? どれくらい気を失っていたの?」
「三日でございます」
三日も……
「そう。ずいぶんと長く気を失っていたのね。メリーにも心配かけたでしょ?」
「えぇ。でも、エレナお嬢さま。心配していたのはメリーだけではありませんよ。旦那様も奥様もエリオット坊ちゃまも屋敷の使用人も、みんなエレナお嬢様の事を心配しておりました。それに……シリル殿下もご心配をされてました」
「お父様もお母様も、お兄様も、みんなも……シリル殿下も……」
メリーの真似して呟く。
何も考えなくても、メリーの言うエリオットが兄である事、それにシリル殿下が自分の婚約者である事は自然に理解できた。
登場人物のことはわかっている。
でも、やっぱりなんの作品に転生したのかは全く思い当たらない……
眉を顰めて考えていると、メリーが心配そうに覗き込む。
「エレナお嬢様。旦那様方も心配しておいでです。お嬢様さえ良ければお部屋にお呼びしてよろしいでしょうか?」
考えるのはやめようと思ったのに、また考え込んでしまった……
「わたしはいいけれど、みんなもう寝てる時間でしょ。無理に起こしてはいけないわ」
「皆さまエレナお嬢様を心配してなかなか寝付けない日々を過ごされてましたから、お顔を見て安心していただきましょう」
そう言ってメリーがお父様たちを呼びに行き、静かだった部屋が一気に騒がしくなった。
続々と部屋に駆けつけた、とんでもなく顔のいい三人がわたしの顔を次々に覗き込む。
「あぁエレナ。よかった。またその愛らしい顔を見る事ができて嬉しいよ」
そう言ったのは、少し恰幅が良いけれど、優しそうな雰囲気のイケオジ。お父様だわ。
「私の愛するエレナ。まだ無理はしないでね。しっかりと休むのよ」
清楚な寝巻き姿でも、大人の色気が溢れ出ているお母様。
「エレナ。まだ痛いでしょう? 大丈夫? 僕が変わってあげられたらいいのに」
お兄様はまるで少女漫画の相手役みたいにイケメンで、泣きそうな顔でわたしの手を握りしめて、甘い言葉をかけてくれた。
「お父様、お母様、お兄様。心配おかけしました。もう大丈夫です」
わたしがそう言うと、みんなほっとした表情を浮かべる。なんて暖かい家族なんだろう。
本当は大丈夫なんかじゃない。だってわたしはいつものエレナじゃないのに。
きちんと伝えるべきなのに、みんなの顔を見ていたら何も言えない。
「エレナ。お医者様には明日の朝すぐ診ていただこう。今はゆっくりお休み」
そうお父様は言うと、わたしの頭をゆっくりと撫でておでこにキスをし、みんなの退室を促した。
疲れない様に配慮はしてくれたけれど、それでもやはり気を失ってから目覚めたばかりの身体には辛かったみたいだ。
みんなが部屋に戻ってからは、わたしはすぐに眠りについた。
メリーの囁くような声のあと、ランタンの光が部屋を照らし、衣擦れが聞こえた。
いま考えるのはやめて、まずは心配性のメリーを安心させてあげないと。
「……メリー……」
わたしは声を振り絞って、部屋に入ってきたメリーを呼ぶ。
ベッドに駆け寄ってきたメリーは、サイドテーブルにランタンを置き、わたしの顔を覗き込む。
「エレナお嬢様! 目を覚まされたんですね! あぁ!」
メリーは手で顔を覆い涙を流している。
「……メリー。目が覚めたら喉が渇いたわ」
「かしこまりました。すぐにご用意いたします」
涙をエプロンで拭ったメリーは笑顔を見せ、サイドテーブルに置かれた水差しからコップに水を注ぐ。
「エレナお嬢様。無理をなさらずにゆっくりですよ」
メリーに支えられて水を飲ませてもらうと、気持ちが落ち着いてきたのが分かる。
時間をかけてコップの水を飲み干した。
「……ねぇメリー。わたしは気を失っていたのよね? どれくらい気を失っていたの?」
「三日でございます」
三日も……
「そう。ずいぶんと長く気を失っていたのね。メリーにも心配かけたでしょ?」
「えぇ。でも、エレナお嬢さま。心配していたのはメリーだけではありませんよ。旦那様も奥様もエリオット坊ちゃまも屋敷の使用人も、みんなエレナお嬢様の事を心配しておりました。それに……シリル殿下もご心配をされてました」
「お父様もお母様も、お兄様も、みんなも……シリル殿下も……」
メリーの真似して呟く。
何も考えなくても、メリーの言うエリオットが兄である事、それにシリル殿下が自分の婚約者である事は自然に理解できた。
登場人物のことはわかっている。
でも、やっぱりなんの作品に転生したのかは全く思い当たらない……
眉を顰めて考えていると、メリーが心配そうに覗き込む。
「エレナお嬢様。旦那様方も心配しておいでです。お嬢様さえ良ければお部屋にお呼びしてよろしいでしょうか?」
考えるのはやめようと思ったのに、また考え込んでしまった……
「わたしはいいけれど、みんなもう寝てる時間でしょ。無理に起こしてはいけないわ」
「皆さまエレナお嬢様を心配してなかなか寝付けない日々を過ごされてましたから、お顔を見て安心していただきましょう」
そう言ってメリーがお父様たちを呼びに行き、静かだった部屋が一気に騒がしくなった。
続々と部屋に駆けつけた、とんでもなく顔のいい三人がわたしの顔を次々に覗き込む。
「あぁエレナ。よかった。またその愛らしい顔を見る事ができて嬉しいよ」
そう言ったのは、少し恰幅が良いけれど、優しそうな雰囲気のイケオジ。お父様だわ。
「私の愛するエレナ。まだ無理はしないでね。しっかりと休むのよ」
清楚な寝巻き姿でも、大人の色気が溢れ出ているお母様。
「エレナ。まだ痛いでしょう? 大丈夫? 僕が変わってあげられたらいいのに」
お兄様はまるで少女漫画の相手役みたいにイケメンで、泣きそうな顔でわたしの手を握りしめて、甘い言葉をかけてくれた。
「お父様、お母様、お兄様。心配おかけしました。もう大丈夫です」
わたしがそう言うと、みんなほっとした表情を浮かべる。なんて暖かい家族なんだろう。
本当は大丈夫なんかじゃない。だってわたしはいつものエレナじゃないのに。
きちんと伝えるべきなのに、みんなの顔を見ていたら何も言えない。
「エレナ。お医者様には明日の朝すぐ診ていただこう。今はゆっくりお休み」
そうお父様は言うと、わたしの頭をゆっくりと撫でておでこにキスをし、みんなの退室を促した。
疲れない様に配慮はしてくれたけれど、それでもやはり気を失ってから目覚めたばかりの身体には辛かったみたいだ。
みんなが部屋に戻ってからは、わたしはすぐに眠りについた。
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