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6 ペネロペside
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慌てて私は周りを見回す。
早く殿下の友人を探して……って友人?
近衛騎士や役人じゃなくて?
いつもそばにいる冷淡そうな従者の事かしら?
そばにいる従者は乳母兄だって聞いたことがあるから、きっとそうね。
私が殿下に近づこうとするたびに迷惑そうに睨んできたから顔は覚えている。
並んだドアをひとつづつ開けて中を探した方がいいのかしら……
「ペネロペ様? 何をしてるんですか」
どうすればいいのかわからず右往左往していた私はお父様の部下に見つかる。
「ペネロペ様。お父上にしっかり殿下をお慰めになるように言われたはずでしょう? お部屋にお戻り下さい」
ニヤニヤとした笑い方に身の毛がよだつ。
「でっ……殿下は体調が悪いのよ! お医者様に診ていただかないと! 私は殿下の従者を探さなくてはいけないわ!」
「せっかくの好機に何を言ってるんだ! キャンベル卿の指示を反故するつもりなのか! 何のために王宮に連れてこられたと思ってるんだ!」
男がそう言って私の腕を掴もうとする。
「嫌っ!」
「ペネロペ!」
派手な赤毛頭が私とお父様の部下の間に割って入る。
私の腕を掴もうとしていた部下の男の腕を掴んで捻りあげたジェレミーの目つきは、いつも以上に悪くて鬼気迫っている。それなのに、私は見慣れた赤毛頭に安心する。
「ジェレミー!」
「ペネロペ! お前何してんだよ!」
「あぁ! ジェレミーに会えてよかったわ! 殿下が部屋の中で体調を崩されて動けないの! お願いよ! お医者様のところまで運んで差し上げて!」
私はジェレミーに必死に伝える。
ジェレミーは舌打ちをしてお父様の部下を乱暴に突き放す。
「ブライアン! こっちだ!」
ジェレミーがブライアンを呼ぶ。
近くで控えている殿下の友人っていつもの侍従よね?
ジェレミーとブライアンでもいいのかしら。
……でも、ジェレミーなら信用できる。
安心して周りを見渡す。
ブライアンだけでなく騒ぎを聞き駆けつけ近衛騎士達が集まる。いつの間にかお父様の部下は見えなくなってしまった。
「あの部屋よ。殿下はお父様にあの部屋に連れてこられて休んでいらっしゃるわ」
私はジェレミーとブライアンを部屋に連れていく。部屋に入った二人を見送り、私もそっとこの場を去った。
これだけ騒ぎになれば私が失敗した事はすぐお父様の耳に入るわね。
きっと失望されるに違いない。
ずっと失敗続きの役立たずのペネロペ……
先刻、お父様に連れられて歩いた回廊を今は一人で戻る。
競い合うように色づいて咲き誇っていた花達を見ても、私の気持ちは雨が今にも降りそうな曇天の雲より重たい。
殿下は私の事、ジェレミーになんて伝えるかしら……
私にあの部屋を出る口実を与えて下さった殿下だけれど、ジェレミー達には本当のことを言うかもしれない。
そう思った瞬間、堪えていたはずの涙がポタポタと落ちる。
回廊の床に涙の染みが広がっていく。
「ペネロペ」
振り返るとジェレミーがいた。
私は慌てて涙を拭う。
「ジェレミー……殿下は大丈夫?」
「あぁ、ブライアンに任せてきた」
「……ジェレミーも殿下のお側に控えていた方がよかったんじゃなくて?」
ジェレミーは私から視線を逸らして俯く。
「いつの間にかお前がいなくなったからさ」
あぁ、やっぱり。
殿下から真実を聞いて、私の事を捕まえて突き出すつもりなんだわ。
殿下に姦計を謀って修道院送りになったご令嬢がいるなんて噂を聞いたことがある。
私もそうなるのね。
そうなったらお父様は私と縁を切るに違いないわ。
アカデミーにも居られない。
……もう……ジェレミーに揶揄われて……邪魔されることも……ない……
拭ったはずの涙がまた溢れる。
「ペネロペ……もう、無理するな」
「えっ……! なっ……!」
いきなりジェレミーに強く抱きしめられる。
逞しい腕の中で私は身動きが取れなくて苦しいのに、温かな体温が心地よくて……
私はジェレミーの胸に縋り、子供のように声を上げて泣いてしまった。
早く殿下の友人を探して……って友人?
近衛騎士や役人じゃなくて?
いつもそばにいる冷淡そうな従者の事かしら?
そばにいる従者は乳母兄だって聞いたことがあるから、きっとそうね。
私が殿下に近づこうとするたびに迷惑そうに睨んできたから顔は覚えている。
並んだドアをひとつづつ開けて中を探した方がいいのかしら……
「ペネロペ様? 何をしてるんですか」
どうすればいいのかわからず右往左往していた私はお父様の部下に見つかる。
「ペネロペ様。お父上にしっかり殿下をお慰めになるように言われたはずでしょう? お部屋にお戻り下さい」
ニヤニヤとした笑い方に身の毛がよだつ。
「でっ……殿下は体調が悪いのよ! お医者様に診ていただかないと! 私は殿下の従者を探さなくてはいけないわ!」
「せっかくの好機に何を言ってるんだ! キャンベル卿の指示を反故するつもりなのか! 何のために王宮に連れてこられたと思ってるんだ!」
男がそう言って私の腕を掴もうとする。
「嫌っ!」
「ペネロペ!」
派手な赤毛頭が私とお父様の部下の間に割って入る。
私の腕を掴もうとしていた部下の男の腕を掴んで捻りあげたジェレミーの目つきは、いつも以上に悪くて鬼気迫っている。それなのに、私は見慣れた赤毛頭に安心する。
「ジェレミー!」
「ペネロペ! お前何してんだよ!」
「あぁ! ジェレミーに会えてよかったわ! 殿下が部屋の中で体調を崩されて動けないの! お願いよ! お医者様のところまで運んで差し上げて!」
私はジェレミーに必死に伝える。
ジェレミーは舌打ちをしてお父様の部下を乱暴に突き放す。
「ブライアン! こっちだ!」
ジェレミーがブライアンを呼ぶ。
近くで控えている殿下の友人っていつもの侍従よね?
ジェレミーとブライアンでもいいのかしら。
……でも、ジェレミーなら信用できる。
安心して周りを見渡す。
ブライアンだけでなく騒ぎを聞き駆けつけ近衛騎士達が集まる。いつの間にかお父様の部下は見えなくなってしまった。
「あの部屋よ。殿下はお父様にあの部屋に連れてこられて休んでいらっしゃるわ」
私はジェレミーとブライアンを部屋に連れていく。部屋に入った二人を見送り、私もそっとこの場を去った。
これだけ騒ぎになれば私が失敗した事はすぐお父様の耳に入るわね。
きっと失望されるに違いない。
ずっと失敗続きの役立たずのペネロペ……
先刻、お父様に連れられて歩いた回廊を今は一人で戻る。
競い合うように色づいて咲き誇っていた花達を見ても、私の気持ちは雨が今にも降りそうな曇天の雲より重たい。
殿下は私の事、ジェレミーになんて伝えるかしら……
私にあの部屋を出る口実を与えて下さった殿下だけれど、ジェレミー達には本当のことを言うかもしれない。
そう思った瞬間、堪えていたはずの涙がポタポタと落ちる。
回廊の床に涙の染みが広がっていく。
「ペネロペ」
振り返るとジェレミーがいた。
私は慌てて涙を拭う。
「ジェレミー……殿下は大丈夫?」
「あぁ、ブライアンに任せてきた」
「……ジェレミーも殿下のお側に控えていた方がよかったんじゃなくて?」
ジェレミーは私から視線を逸らして俯く。
「いつの間にかお前がいなくなったからさ」
あぁ、やっぱり。
殿下から真実を聞いて、私の事を捕まえて突き出すつもりなんだわ。
殿下に姦計を謀って修道院送りになったご令嬢がいるなんて噂を聞いたことがある。
私もそうなるのね。
そうなったらお父様は私と縁を切るに違いないわ。
アカデミーにも居られない。
……もう……ジェレミーに揶揄われて……邪魔されることも……ない……
拭ったはずの涙がまた溢れる。
「ペネロペ……もう、無理するな」
「えっ……! なっ……!」
いきなりジェレミーに強く抱きしめられる。
逞しい腕の中で私は身動きが取れなくて苦しいのに、温かな体温が心地よくて……
私はジェレミーの胸に縋り、子供のように声を上げて泣いてしまった。
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